神田ぶらり(61)魔窟の伝説

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神田を走るJRの線路は、すべて高架線。前にも紹介したように、歴史のある古い高架です。

で、高架下のスペースを活かそうとするのは、鉄道会社の常套手段。神田でも高架下は店舗、倉庫、事務所など多くのテナントが入っています。

さて、当然ですが、JR神田駅も高架上にあります。神田駅は南北に長く伸びているのですが、出入り口など駅施設はその端っこに集中しています。東口/北口は秋葉原寄りに、西口/南口は東京駅寄りにあり、駅事務所などもその両端に設置されています。

で、その駅両端の施設の間、駅下のスペースも、いろいろなテナントになっています。つまり、ホームの下ですね。主に飲食店。

さて、ここで問題です。こうした駅下のスペースがその他の高架下スペースと大きく違う点は何でしょうか?

ちょっと考えればすぐわかるのですが、ホームがあるぶん他よりも幅が広くてスペースが大きいんですね。その余分なスペース、どうなっているんでしょうか?

はい、駅下にあるこのガードのなかに、その答えが。(現在は駅改良工事の資材置き場になっているため車両通行不可ですが、普段は通り抜けられます。ガードの向こう側が中央通り。むかって左手が秋葉原方向の東口/北口、右側が東京方面の西口/南口)

ガード中ほどまで行くと、右側に忽然と一本の横道が出現します。

高架下のテナントは、高架の両側に正面出入り口を設けて背中合わせに設置されています。ところが、駅下はスペースがあるので、その真ん中に、もう一列余分にテナントを設置したんですね。そのテナント街がこちらです。頭上を鉄道にふさがれた、空のない商店街。

外に面した部分がないので、昼間でも陽の光が当たらず、昼なお暗い。写真で明るく見えているのはすべて人工灯です。

入っている店舗も、バーや雀荘、ゲーセンなどがほとんど。表に面した店舗にくらべると、なにやら独特なオモムキを有している感が。

じつは照明が入ったり、通路がやや広くなったのは、わりと最近のこと。以前はもっと暗くて狭い、「魔窟感」充分なスペースでした。知らないと、ちょっと入っていいものかどうか、ためらわれるほどの雰囲気でした。

かつて香港に「九龍城」と呼ばれる有名な魔窟がありました。アヘン戦争で香港が中国(清)から英国の租借地になったさいに、飛び地として残され、その後も香港政庁の法の手が伸びない治外法権になって、黒社会やら不法移民やらの巣窟になっていたとか。狭い地区に次々に違法建築が継ぎ足され、内部は迷宮の如く、昼なお暗く、部外者が踏み込むことすら危険と言われていました。1994年に解体され、現在は綺麗な公園になっているのですが、私は解体前に外から数回見物したことがあります。独特な、人を寄せつけないような異様な雰囲気をよく覚えています。

まあ規模も凄みもまったく及びませんが、かつてはこの神田駅下のスペースも「ミニ・九龍城」的な雰囲気を醸していました。写真のように、現在はだいぶんカタギ色が強くなってますが、依然として神田の町ではいちばんの「魔窟感」をあじわえる一画ですね。

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