ジャッキー・チェンと勝負する(41)

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1982年の「ドラゴンロード」 ジャッキーの「カンフー映画時代」の終わりを告げた作品。

それまでは、なんだかんだ言っても「カンフー映画」の枠組みのなかだけで映画を作っていた(アメリカでの作品は除く)ジャッキーが、その最後に放った作品。ではあるんだが、厳密には「カンフー映画」ではないかも。

時代はカンフー映画の諸作と同じ清朝末期、ジャッキー自身の役もカンフー道場の跡取り息子、ファイトシーンは徒手空拳のカンフーファイト。そして、映画全体の雰囲気も「スネーキーモンキー」以降のコミカルカンフー映画のそれではある。

ただし、この映画が「カンフー映画」のパターンから外れているのは明らか。

まずは主人公たるジャッキーが、必ずしもカンフーの達人ではない点。これまでのコミカル色の強い作品でも、ジャッキーはそれなりに強かった。最初はダメなやつでも、途中なんらかの特訓をし、最後には強さを得て強敵を倒すとか。ところが今回のジャッキーは、そんなに強くない。道場の跡取りだから、そこそこの強さは会得しているが、そう真剣にカンフーをきわめようともしていない。稽古もさぼるし。まあここまでは今までの作品でもそうだったが、今回違うのは、最後までそのままだってこと。そういえば、特訓シーンもなかったかな。

そして物語のクライマックスがカンフーファイトでないのも大きい。明らかに時代考証とは無縁な「羽根突き型サッカー」と「人間ピラミッド式ラグビー」(としか言いようがない)という2大スポーツ競技が目立っているせいだ。

ただこのへんの印象は、今回見た「香港バージョン」とかつて日本で劇場公開された「国際バージョン」では、ちょっと違うのかもしれない。解説資料によると、「国際バージョン」では「人間ピラミッド式ラグビー」は映画の冒頭に置かれていたとか(「香港バージョン」では最後にある)。これだけでも、ずいぶん映画の印象が変わると思う。私が「国際バージョン」を見たのは遠い昔なので、ボンヤリした印象しか覚えていないのだが、案外カンフー映画じゃないかと思った記憶がある。一度「国際バージョン」を見直してみないと、確かなことは言えないが。

で、この映画に「カンフー映画」のテイストを与えている大きな要素は、ジャッキーと闘う国宝盗賊団の存在だ。だが、これって、考えてみれば、ストーリー上に絶対不可欠なものじゃない。盗賊団抜きでも、青春コメディ時代劇として、十分成立するだろう。

脱カンフーを目指したものの、そこまで踏み切れず、「カンフー映画」の要素を残すことにしたのだろうか。

それがジャッキーの意図だったのか、それとも製作、興業サイドの意志あるいは圧力だったのかは、わからない。けれど、現在の目から見ると、この「ドラゴンロード」が、やや中途半端に見え、時代を超えた傑作になりそこねたのは、この逡巡に原因があると思う。

というのも、今回見直してみて、前記した2大スポーツ競技のシーンは、けっこうエキサイティングだったからだ。競技そのものはユニークだが、かといってサッカーとラグビーをモデルにしているせいで、ルールやゲームの進行にはさほどの違和感を感じない。おまけに実況とか、スコアボードとか、チアガールとか、現代スポーツとの親和性も高くしてある。だから、素直に見やすいのだ。

「カンフー映画」の要素を排して、この2大スポーツ競技を中心に据えていたら、映画史上に残る画期的なスポーツ映画になったかもしれない。惜しかったなあ。なにしろ、あの「少林サッカー」よりも20年近く早いのだから。

そこで、どうだ、ジャッキー、カンフー色を省いて、この「ドラゴンロード」をリメイクしてみては?

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