未発売映画劇場「10月のミサイル」

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1962年10月に「キューバ危機」が発生した。

その昔、私たちがまだ子供だった頃、学校の地図帳には必ず「東西両陣営の色分け」という世界地図が載っていたものだ。「鉄のカーテン」で仕切られた「資本主義陣営」と「社会主義陣営」を図解した地図だったのだが、今やどれも死語になっているな。

たいがいの場合、「東側」の「社会主義陣営」が赤色に、「西側」といわれる「資本主義陣営」が青色に塗られていた。ソビエト連邦(今はもうない)と東欧諸国それに中華人民共和国が赤色陣営で、西欧と南北アメリカなどが青色陣営。日本はもちろん青色だった。東西ドイツ、南北朝鮮、南北ベトナム、そして中国本土と台湾(そのころは中華民国と書かれていた)あたりが、両陣営の最前線。

そしてほぼ青色で塗り込められていた南北アメリカのほぼど真ん中に、ぽつんと赤色の島があった。西半球で唯一の社会主義国家・キューバ共和国である。

アメリカ・フロリダ州からわずか150キロほどの位置にあるキューバは、まさに資本主義陣営のボスたるアメリカにとって、喉元に突きつけられた小さなナイフだった。

そんな両国を舞台に、全面核戦争が勃発寸前にまで行ったのが、キューバ危機である。アメリカのキューバ侵攻計画とソ連のキューバへのミサイル配備計画が重なり、まさに一触即発となった、10月14日から28日までの2週間の出来事だ。

幸いにも、核戦争は寸前で回避され、全面核戦争は起きなかった。

というような話もすっかり昔話になった。つい先日、アメリカとキューバが歴史的な国交回復を実現したからだ。日本での報道にはいまひとつ熱が感じられなかったが、やはり冷戦世代には感慨深いものがあった。

そこで思い出したのが、この作品だ。

キューバ危機から12年余が過ぎた1974年12月にアメリカで放送されたTVムービー「10月のミサイル」(原題:The Missiles of October)である。危機の当事者の一人だったロバート・ケネディ(当時司法長官)の手記をもとに、危機の模様を再構成したドキュメンタリータッチのポリティカル・サスペンスだった。

主役になるのはアメリカ大統領ジョン・F・ケネディと、ソ連共産党書記局長のニキタ・フルシチョフ。ホワイトハウスのオフィスから指示を出し交渉するケネディを中心に、互いに相手の腹をさぐりあい、強気と譲歩を小出しに繰り返す駆け引きを描いたドラマは、考えてみたら地味きわまりないものになりそうだが、実際にはけっこう強烈な緊迫感あふれるサスペンスを醸し出していたように記憶している。まだ放送当時は「冷戦」も「全面核戦争」も、決して過去の遺物ではなかったからだろう。ドラマのなかで、ソ連のミサイル配備艦隊が転進して去ったところで、テレビの前でほっと息をついたのはよく覚えている。

とはいうものの、ドラマ自体はそんなによく覚えていない。TVムービーが日本で注目され始めた直後の時期で、プライムタイムに放送されたのをたしかに見たのだが、その後は再放送もなく、ソフト化もされなかったため、再見の機会もないままだからだ。

ケネディ大統領を演じたウィリアム・ディヴェインは、その後に「ローリング・サンダー」(1977年)という傑作アクションに主演するなど長く活躍して、いまも現役の俳優だ。もっともJFKよりは弟のロバート・ケネディのほうに似ていた気はするが(ロバートを演じたのはマーティン・シーン。ちなみにフルシチョフ役はハワード・ダ・シルバ)

私の記憶では、この「10月のミサイル」、フィルムではなくビデオ撮影だったような気もしたが、どうだったか。

アメリカではDVDが出たりしていたようだが、前記したように国内発売はなしのまま。前にも書いたが、この手のTVムービーは未ソフト化も多く、なんとももったいない気がする。宝の山なのか、クズの海なのかは知らんがね。

50年以上前の危機が題材とはいえ、現在でも偶発戦争の危険がまったくなくなったわけではないし、何かと世の中が騒がしい今の時期ならば、けっこう商売になると思うのだが、どうだろうか。

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