旅行でとらぶる(5)シカゴ・ロング・ナイト
2000年のことだから、もう15年ほど前になる。アメリカのシカゴで世界SF大会が開催されるので、一家で出かけていった。
前にも書いたように、それまでも何回か世界SF大会には参加しているし、海外旅行も経験してきたのだが、このときはそれまでとはまったく違う要素が加わっていた。
子連れだったのだ。
基本的にはいつも夫婦二人旅。一度だけ弟一家らと大勢で出かけたときにまだ幼かった姪っ子を同道したことはあったが、このときは人手が多かったし、オムツも取れていた幼児だった。
ところが、シカゴに連れて行った息子は、当時まだ1歳になったばかり(14カ月) どうしてそんなメンドクサイことをする気になったかは、いまとなってはもう不明だが、おかげでひと味違う珍道中となった。
息子はすでに離乳食も終えていたが、まだオムツ小僧。しかも自力歩行は不完全で、移動には抱っこかベビーカーが必要。
なので、荷物は紙オムツとベビーカーで、従来の三倍増し(体感) 息子がアメリカ風の大味な食事を食べるのか(こいつは白飯好きの和風好みなのだ。いまでもそうだが)も、けっこう心配だった。意外に平気だったけど。
事前にいちばん気になったのは、飛行機の中。シカゴまでは直行便で10時間くらいだったと思うが、機内でギャンギャン泣かれたらどうしようとか思い、息子気に入りの玩具を機内手荷物に押し込んだりしていったものだ。
ところが案に相違して、機内ではまったく問題なし。航空会社が気を利かせてくれて座席は最前列。そこにベビー用の寝台をセットできるのだが、それが気に入ったのか、一歳児は飛行中ずっと爆睡。いやいや親孝行な子だわいとホッとしたもんだ。
さて、子どもが可愛いのは洋の東西を問わないもんで、行く先々、ことにSF大会会場やホテルでは、しょっちゅう「キュート!」とか声を掛けられ、けっこういろんなものをちょうだいすることも多く、親はサンキュー連発。
もちろん、息子本人は英語どころか日本語もロクにまだ話さないので、親のほうが、やれ何歳だとか、どこから来たかとか、何が好きかとかを代理で答えるハメになる。会話量はどの旅行よりも多かったかな。少々英語力が増した気がしたもんだが、まあ気のせいだろう。
しかし、最大の誤算はまったく別のところにあったのだ。
1歳児に「時差」はなかった!
シカゴがあるアメリカ中部時間帯は日本との時差がおよそ14時間。ほぼ昼夜逆転。つまり、体内時計は日本の夜中でも、向こうでは真っ昼間。逆に日が暮れると眼が冴えてくるわけだ。
ところが幼児には、そんなことは関係ない。
大人ならば、眠気をこらえたり、無理やり眠ったりして、なんとか現地時間に身体をあわせようとするのだが、子供はそんな面倒なことはしてくれないのだよ。
というわけで、昼間はぐっすり眠っていた息子が、夜の夜中に全開モードに変身するのだ。
仕方がない。言い聞かせてどうこうなる問題でもないので、やむなくほっとくことに……できるワケがないよね。
ということで、私も妻も、息子に夜通しつきあうことになったのだ。
さすがに夫婦両方が徹夜していては、昼間に何もできなくなるので、交替でということにしたのだが……
ホテルはけっこう眺望のよい部屋だったので、大部分は夜景を見て過ごした。有名なリグレービルや運河を眺められる大きな窓から、夜の道路を行きかう自動車のライト、たまに運河を行くライトアップしたボートなど、ぼうっと見ていても飽きなかった。さすがにシカゴは大都会、ホントに夜も眠らないんだなと、こうでもしなければ感じられなかったであろう感慨を抱いたりもした。
そんな一夜、眠気覚ましにつけっぱなしにしていた深夜テレビで放送されていたのが、映画「ブルース・ブラザース」
それまでに何度も見て、好きな映画のひとつだったが、この映画の舞台がじつはシカゴだったのだ。映画のなかでジョン・ベルーシとダン・エイクロイドのコンビが大暴れするその風景は、まさにその日の昼間に見たような場所。奇妙なシンクロ感があって、それまで見た(その後も含めて)どの時よりも、この映画が面白く見えたものだった。
その後は息子も少しはシカゴ時間に慣れ、子ども博物館みたいなところで遊び倒したりして、それなりに楽しんだようだ。
ちなみにフィールド自然史博物館で「ツァボの人食い」や「バリンジャーの隕石孔」を見て感動したのも、このときだ。
かようにドタバタし、往きの荷物の大半を占めていた紙オムツの代わりにお土産や向こうで買ったくだらない玩具を詰め込んで帰国。なんだかんだ言って、思い出深い旅だった。終始眠かったけど。
なにぶんにも子連れ旅ゆえ、心配した私の両親が空港まで迎えに来てくれたのだが、息子を出迎えた両親がビックリ仰天。
出発前には、まだつかまり立ち程度のヨチヨチ坊主だったのが、ヒョコヒョコ歩いて空港ロビーに出てきたのだから、そりゃあ驚くよな。旅行中のアレコレが刺激になったのか、シカゴ滞在中にすっかり一人で歩けるようになっていたのだ。たった1週間かそこらだったのに。
ああ、かわいい子には旅をさせろっていうのは本当なんだなと、つくづく思った次第(意味が違うけど)
そしてあれから15年以上が経ち、いまは高校生になっている息子本人は、こんなことはひとかけらも覚えていないのも、まあ無理はないか。
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