風来坊コンビ風雲録

知っているイタリア人の名前を上げてみろと言われて、最初に思い浮かぶのは、誰でしょう? 政治家? サッカー選手? いにしえの芸術家? セクシーなモデル?

私の場合、ジュリアーノ・ジェンマ、セルジオ・レオーネ、エンリオ・モリコーネ、といったマカロニ・ウェスタン関連が真っ先に出てくるわけで、次いでムッソリーニとかダ・ヴィンチだとかいった歴史上の人物が続きます。

でも彼らよりもずっと先に浮かぶのが、テレンス・ヒルバッド・スペンサーなんですが、まあ変でしょうね。

もちろん彼らとて、マカロニ・ウェスタン関連なわけだし……知りませんか?

1970年代から80年代に映画を見ていた人ならば、一度や二度は彼らの顔を見ているはず。とはいえ、日本では決して人気スターというわけでもないので、いちおうこの名コンビについて説明しましょう。

数多くのコメディ・アクション(ウェスタン含む)に主演したこのコンビ。名前がイタリア人っぽくないって? そう、どちらも海外マーケットを意識してつけられた、英語(ていうかアメリカっぽい)の芸名。本名はマリオ・ジロッティとカルロ・ペデルソーリというそうです。

すばしっこくて二枚目風のほうがテレンス・ヒル。ブルーの目の好男子ですが、その目のすわりが若干いやらしい。口元も、いつも笑みをたたえている、というよりもニヤニヤしていて、今ひとつ信用できない。どこかウサン臭い好男子だ。

相棒のデブがバッド・スペンサー。デブなだけでなく、ひげもじゃ。真っ黒でクセ毛の顎ひげ、頬ひげが顔の下半分を覆ってます。背も高く、巨漢の荒くれ男タイプ。ただし喰い過ぎでブヨブヨしたデブではなく、固太り。じつは彼は元・水泳と水球のオリンピック代表選手。イタリアで初めて100メートル自由型で1分を切ったという、名スイマーだったんです。

で、この二人がコンビを組むんですが、だいたい詐欺師とか泥棒とか無宿者とかそんな感じ。そう、二人のコメディ・アクションもののいちばん最初の映画のタイトル「風来坊」が、このコンビをうまく言い表わしていたわけですね。

この二人が、犯罪を企てたり(だいたいはコソ泥程度)、巻き込まれたり(ギャング犯罪が多い)、あるいは一攫千金を狙ったり(むろん不法行為で)してドタバタするのが黄金パターン。二人ともズル賢く、要領もよく、しかもケンカはやたらと強いのがお決まり。なのでいつも最後には二人とも大笑いして終わります。

当初はウェスタン、のちには現代の犯罪ものが多くなるのですが、舞台になるのはなぜかいつもアメリカ。イタリア映画のくせに英語で作り、アメリカを舞台にし、役者やスタッフも英語名を名乗るのは、マカロニ映画界の得意とする、「偽ハリウッド映画」の常套手段ですね。だから二人の芸名もアメリカ風なんです。

そんなこんなで一世を風靡した(?)二人が組んだコンビものは、全部で何本あるのか?

よく「20本ほど」とか言われますが、あまりちゃんとした資料もなかったので、ウィキペディア、IMDB、all cinemaなどを駆使してリストアップしてみました。まあ、何かの参考程度にご覧ください。

〔( )は英語題。邦題のないものはまったく日本未公開 邦題の後に(未)とあるのは日本ではビデオ発売のみ〕

Annibale(Hannibal)1960年「ハンニバル」

Dio perdona... Io no!(God Forgives... I Don't!)1967年

I Quattro dell'Ave Maria(Ace High)1968年「荒野の三悪党」

La Collina degli stivali(Boot Hill)1969年

Lo chiamavano Trinità(They Call Me Trinity)1970年「風来坊」

...continuavano a chiamarlo Trinità(Trinity Is Still My Name)1971年「風来坊 II/ザ・アウトロー」(未)

Il Corsaro nero(Blackie the Pirate)1971年

...Più forte ragazzi !(All the Way Boys)1972年「フライング・ブラザース」(未)

Altrimenti ci arrabbiamo(Watch Out, We're Mad)1974年「サンド・バギー/ドカンと3発」

Porgi l'altra guancia(Two Missionaries)1974年

I due superpiedi quasi piatti(Crime Busters)1976年「笑う大捜査線」

Pari e dispari(Odds and Evens)1978年「笑激のギャンブルマン」

Io sto con gli ippopotami(I'm for the Hippopotamus)1979年

Chi trova un amico, trova un tesoro(Who Finds A Friend Finds a Treasure)1981年「笑激のボンゴボンゴ島 !!」(未)

Nati con la camicia(Go For It)1983年「いけ!いけ!スパイ大作戦」(未)

Non c'è due senza quattro(Double Trouble)1984年「笑激のダブル・トラブル」(未)

Miami Supercops(Miami Supercops)1985年「マイアミ・スーパーコップ」(未)

Botte di Natale(Troublemakers)1994年

以上、全部で18本。

とはいえ「ハンニバル」は二人とも本名で脇役で出ているだけだからコンビものではないし、「荒野の三悪党」を真ん中にした前後3本はコメディ色は薄いので、厳密には1970年の「風来坊」以降の15本が、このコンビのコメディ作品ということになりますね。

あれ、意外に少ないな。

そのうち日本で見られたのは10本で、劇場公開されたのは4本だけ。ビデオ発売された作品も劇場公開作も、現在のところほとんどDVD化はされていない。ほかに主な単独出演作品としては、テレンス・ヒルが「ミスター・ノーボディ」「MR.ビリオン」「レッドオメガ追撃作戦」など、スペンサーには「ジュリアーノ・ジェンマのくたばれカポネ」「E.T.と警官(未)」などがあります。

「笑激」とか、やたらと「!」がついていたりとかで察しがつくとおり、日本ではほとんどB級あつかいです。いや日本だけのことではなさそうで、英語題も、下手するとイタリアのオリジナルタイトルも、これとは違うのが平気でついていたりしますね。うーむ、日本で知名度がないわけだ。

まあそのほとんどを見てきた私が言うのもなんですが、わざわざ見るほどのものでもない。とはいえ、何かのついでに見るとか、あるいはちょっとしたはずみで見てしまう分には、決して損はしない程度の面白さはじゅうぶん備えていると思うよ。ヒイキ目ですが。

そして見逃せないのは、このコンビの作品、けっこう世界中で広くみられているってことです。世界に通用するエンターテインメントっていうのは、じつはこんな程度のものだっていう教訓でした(笑)

  映画つれづれ 目次

〔追記〕

2016年6月27日、バッド・スペンサーが亡くなった。合掌。もうあの名コンビを新作で見ることはない。

けれど、彼の雄姿はスクリーン上で永遠に色あせることはなく存在し続ける。

スクリーンで、また会おうぜ。

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