ジャッキー・チェンと勝負する(60)

21世紀のジャッキー・チェン、今回は2011年の「新少林寺/SHAOLIN」

清末時代の軍閥抗争のさなか、冷酷な将軍が腹心の部下の裏切りで失脚し、妻子も失う。傷ついた将軍はなんとか転げ込んだ少林寺にかくまわれ、そこで信仰にめざめてゆく。非情な男が人の心を取り戻すドラマと、軍による少林寺破壊(実際に1928年にあった嵩山少林寺焼失を題材にしたのか)を描いた歴史スペクタクル巨編。かつての香港映画ではなかなか描き得なかったようなスケールだが、中国資本が入るようになって、このくらいは楽々とできるようになったってことか。

改心する将軍を演じるのがアンディ・ラウ、憎々しげにその部下を演じるのがニコラス・ツェー。この二人が大看板で、ジャッキーは脇役

とはいえ、単なるチョイ役ではない。少林寺の厨房をあずかる料理人で、寺に転げ込んだアンディ・ラウをさりげなくサポートする役どころ。こうした重厚な大作では欠かせない役回りだ。

ハリウッドでは、この手の、主役でも悪役でもないが、重要なポジションを占める脇役を「へヴィー」と呼ぶ。私が映画を見始めた時分には、たとえばアンソニー・クィンとかリー・J・コッブとかマーティン・バルサムとか、もっと後にはジーン・ハックマンとかいった名優たちがそういった役柄をよくつとめていた。へヴィーといってもデブである必要はない。

21世紀のジャッキーは、こうしたへヴィーな役回りが増えている。出番は限られていながらも印象を残して場をさらう本作でも、堂々のへヴィーぶりだ。いまや中国/香港映画でも最大のビッグスターなんだから、当然といえば当然か。

この「新少林寺」では出演を乞われ、自らの主演作を後回しにして取り組んだという。さすがは中国語映画圏の兄貴分(大哥)だけのことはある。

とはいえ、おとなしく脇に回っているようなジャッキーではない。

「新少林寺」では、武術はまったくできない料理人役ながら、厨房での料理シーン(野菜炒めを作る場面が圧巻)や、その動きを活かした乱闘などのアクションシーンもちゃんとある。

というのも、アクション監督をつとめたのが、ユン・ワー(コーリー・ユン/元奎)だからで、さすがに「七小福」時代からのジャッキーの盟友だけあって、ツボを押さえた見事なアクションを披露してくれる。どちらも時間は短いが、本作の見逃せない名場面だ。

ジャッキーと少林寺といえば、カンフー映画時代の「少林寺木人拳」など、少なからぬ縁があった。こうした形での再会は、また新鮮。若き日に修行に励んだ(出来のいい弟子ばかりではなかったが)少林寺で、脇役のいい味を出すのも、月日の流れを感じさせて、いいもんだ。

残念だったのは、せっかく、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」で鬼脚七を演じた達人、「くまきんきん」ことホン・ヤンヤン(熊欣欣)が、悪役で出演していたのに、ジャッキーとの対戦がなかったこと。このカード、ちょっと見たかったぞ。

正直、最初は「ジャッキーは脇役なんだろ」と、見るのにあまり乗り気でなかった作品だったが、見終わってみたらけっこうおもしろかった。いや映画そのものもだが、こうした20世紀とは一味違うジャッキーの姿、堪能させてもらいました。

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