キュウ・ゴジラ

もう我慢しきれなくて、ネタバレしています。

「シン・ゴジラ」ご覧になってない方は、以下は読まれないことを強くお勧めします。

さて、「シン・ゴジラ」を見てから、だいぶ月日が経ちました。

見た直後は、いろいろ細部のディティールを思い起こすのが楽しくて、記憶を駆使していましたが、だんだん落ち着いてくると、記憶の中でそうした枝葉が落ちて、ストーリーの幹がシンプルに見えてきました。

するとそこに見えてきたものは……

はい、「シン・ゴジラ」のストリーラインは、昭和29年(1954年)版のオリジナル「ゴジラ」とまったく相似形だったという事実でした。

そこで、試みに「ゴジラ」のストーリーを基に、両者を比較してみました。

なので、「シン・ゴジラ」のみならず、昭和29年版「ゴジラ」を未見の方もご遠慮ください。(【 】が「シン・ゴジラ」における相当部分)

太平洋上で連続して艦船の沈没事故が発生。やがて台風の夜、大戸島に何ものかが上陸し、大きな被害をもたらす。本土から調査団が来ると、その眼前に未知の巨大生物が姿を現わした。

【ここまでが「シン・ゴジラ」では東京湾アクアラインと、その後の会議の様子にあたる部分ですね。「ゴジラ」では国会でスライド写真が発表されるのが、「シン・ゴジラ」ではネットやテレビの映像ヤマモリなのが時代の差】

海上保安庁の爆雷攻撃を生き延びたゴジラは、東京湾から芝浦に上陸。列車を踏みつぶし、品川駅近くの八ツ山橋を破壊して海に去っていく。

【「シン・ゴジラ」では、蒲田くんから第3形態へのパートがここらへんに相当。どちらも品川のゴジラ名所・八ツ山橋を破壊するんです】

ゴジラから東京を防衛するため、海岸沿いに5万ボルトの高圧線を敷設し、上陸阻止を狙うことに。東京湾からふたたび姿を現わしたゴジラは、猛攻を受けるも、白熱の放射能光線を吐いて撃退。銀座から国会議事堂付近を蹂躙し、戦闘機による攻撃もものともせずに、再び東京湾へ。

【海岸沿いの高圧線が「タバ作戦」に相当しますね。上陸地点は違うけど。攻撃を受けたゴジラが熱線を発射するあたりのタイミングも同じで、どちらでも都心は火の海に。ただ「シン・ゴジラ」では東京湾でなく東京駅で活動休止】

ゴジラ殲滅のため、芹沢博士の発明した「オキシジェン・デストロイヤー」の投入に命運がかかる。その恐ろしさを知る芹沢は、自らゴジラに投入した後、海中で命を絶つ。

【オキシジェン・デストロイヤー投入が「ヤシオリ作戦」 同じタイミングで「伊福部マーチ」がかかります。東京駅で仁王立ちの凍結ゴジラの姿が、かつての山根博士のラストのセリフ「あのゴジラが最後の一匹とは思えない」と重なる気がするのは私だけか】

どうです? こうして見ると、「シン・ゴジラ」のストーリーラインは、ほぼ昭和29年版「ゴジラ」と同じ骨組みでしょう。この点で言えば、まちがいなく「シン・ゴジラ」は「ゴジラ」のリブート版だったといえましょう。

ただ両者が大きく違うのは、その登場人物と、彼らの動き方。

ご存知の通り、「シン・ゴジラ」は、その登場人物のほとんどが政府、自衛隊などの人々。要するに全員が公務員。

それに対して、昭和29年版「ゴジラ」では、登場人物のほとんどは市井の人々。南海サルベージの尾形、婚約者の恵美子、その父の山根博士、悲劇の芹沢博士ら、誰一人、役人や政治家ではありません。

ということですが、じゃあ昭和29年の日本には公務員がいなかったかというとそんなことはないわけです。

映画では描かれなかっただけで、ゴジラ上陸という大災害の陰で、昭和29年の役人や政治家たちが活躍していたはずです(自衛隊は、この年の7月に、まだできたばかりですね)

そこで、昭和29年時点でゴジラを迎え撃ったはずの役人たちのリアルバージョンを、「シン・ゴジラ」登場人物にならって妄想してみると、こんなぐあい。

昭和29年当時の首相は、あの吉田茂。戦後の日本政治史に巨大な足跡を残した巨人です。おお、ゴジラを迎え撃ち、大災害に対峙するのにふさわしい大物だ。ゴジラが上陸した夏ごろには、自由党政権下での第5次吉田内閣の時期ですね。

「総理、ご決断を」とか迫られる吉田茂とか、ちょっと凄いですね。見てみたい気がします。もっとも吉田首相だったら、促されるまでもなく決断してそうですが。

迫るほうの防衛庁長官(まだ防衛大臣じゃない)は、のちに大阪府知事まで勤めた左藤義詮。

ちなみに「シン・ゴジラ」で主役の矢口蘭堂(長谷川博己)に相当する官房副長官(政務担当)は、リアル昭和29年では鉄道省出身の田中不破三。おお、彼ならヤシオリ作戦を決行できたかも。

で、「シン・ゴジラ」でいう内閣総辞職ビームに相当する国会議事堂破壊あたりで吉田内閣は「総辞職」となったんでしょうが、現実でも昭和29年末には吉田内閣は総辞職して、民主党の鳩山一郎内閣が成立しています。なんか奇妙な符合ですねえ。

そうすると、オキシジェンデストロイヤー投入を決定するのは、吉田内閣全滅後を受けた、鳩山首相代行だったのか?

でも「シン・ゴジラ」と違って、昭和29年当時だったら、たぶんアメリカは国連を動かすまでもなく、容赦なく核攻撃に踏み切っていたでしょうね。

当時のアメリカ大統領は、第2次大戦中の連合軍司令官だったドワイト・アイゼンハワーで、副大統領はあのリチャード・ニクソン。どちらもタカ派ですからねぇ。

お、就任まで政治家経験なしの大統領って、ドナルド・トランプと共通項があるぞ(「シン・ゴジラ」でのアメリカ大統領はトランプじゃないけど) ちなみに、昭和29年版「ゴジラ」では、在日米軍の影も形もありません。

もしも早々に核攻撃が成されていたら、オキシジェンデストロイヤーは投入されず、幻に終わっていたんでしょうか。

おお、そう考えると、いろいろと面白いぞ。

特撮部分を昭和29年版から流用して、「シン・ゴジラ」のシナリオを使った「ゴジラ」の別バージョンをモノクロで作ってみたらどうですかね、東宝さん。アイデア料は負けときますよ(笑)

そうか、逆に「シン・ゴジラ」の裏側でも、市井の人々の様々なドラマがあったに違いありません。

南海サルベージの尾形(宝田明)のパートは、最初の災害が東京湾アクアラインだけに、NEXCO東日本の職員さんあたりになるでしょうか。その彼がヤシオリ作戦のために全国からポンプ車を集結させるべく、高速道路網を仕切るとかね。

ちなみに「シン・ゴジラ」で唯一(だよね?)民間人のドラマを見せたのが、マンションで避難にもたついているうち、ゴジラの手で倒壊するマンションごとぶったおされる夫婦ですが、このシーンは昭和29年版「ゴジラ」のテレビ塔のシーン(みなさん、さようなら、さようならーっ)に相当するんですかねぇ。

などと、偉そうに書きましたが、まだ私は「シン・ゴジラ」は1回しか見ていません。

そのうちブルーレイディスクが出たらもちろん買って、じっくり見たうえで、昭和29年版の民間人ドラマをもとにした「裏シン・ゴジラ」でも妄想してみましょうか(笑)

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