アラン・ドロン伝説

先日、アラン・ドロンが引退を表明した

私の感想。「え、アラン・ドロンって、まだ引退していなかったの?」

もう少し若い人の感想。「え、アラン・ドロンって、まだ生きてたの?」

さらにもう少し若い人の感想。「え、アラン・ドロンって、誰?」

歳月というモノは残酷だ。そういえば、けっこう古い映画を見ている(見せている)うちの高校生の息子でも、ドロンの映画は見たことがないかもしれない。

そう、「美男子」と「アラン・ドロン」が同義語だったのは、もうずっと昔のことなんだね。

アラン・ドロンの人気が出たのは1950年代の終わりから1960年代にかけてのころ。「お嬢さん、お手やわらかに!」(1958年)「太陽がいっぱい」(1960年)「地下室のメロディー」(1963年)といった映画で人気者となる。

いや実際、この時期のドロンは、まさに美男子そのものだったようだ。なので、当時はまだガキで映画なんか見ない私の年代の子供たちにも、「アラン・ドロン=美男子」という図式は刷りこまれていた。

私が実際にドロンを映画で見るようになるのはもうちょっとあとの時代。このへんの映画はテレビ放送でちらほら見たクチだ。

じつは、この時期に、ハリウッド進出に失敗したのが、アラン・ドロンの運命を分けたといえるのだ。

作品に恵まれず(とはいえ「テキサス」(1966年)なんていう面白いウェスタンに出てたりするが)ハリウッド進出は失敗。全世界的な大スターにはなりそこねた。

そのかわり、フランスへ拠点を戻してからは、「冒険者たち」 (1967年)「さらば友よ」 (1968年)「ボルサリーノ」 (1970年)「レッド・サン」 (1971年)といった、なかなかの秀作、傑作に続けざまに出演。

この時期に有名な殺人スキャンダルもあったりしたが、70年代にはまだその人気は衰えていなかった。

1970年ごろから、背広のTVコマーシャルに出演したのも、日本での人気に拍車をかけた。「ダーバン、せれれごーんであまであむ(みたいに聞こえたんだよ)」という決め台詞は、とりあえず真似したもんだ。

私がドロン映画を映画館で見るようになったのは、この後くらいからだ。

この時期でもまだ、「スクリーン」とか「ロードショー」といった映画雑誌の人気投票で、ドロンは、常に上位にランクインしていた。

その人気の絶対的な証拠が、1977年にヒットした「アル・パシーノ + アラン・ドロン < あなた」という、縦書きに向かないタイトルの歌謡曲。

当時アイドルとして売り出し中だった榊原郁恵のヒット曲で、どんなスターよりもあなたが好きよという他愛のない内容のこの曲で、スターの代名詞として挙げられているのが、アル・パシーノとアラン・ドロンであるのは、彼らの絶対的な人気と知名度を語っている。

それにしても、「ゴッドファーザー」(1972年)から「スケアクロウ」「セルピコ」(ともに1973年)と、当時人気上昇中だったパシーノはともかく、すでに中年にさしかかっていたドロンは、ティーンエイジャーの女の子が憧れるスターとしてはちょっとアレじゃないかなと、榊原郁恵と同い年の私などは思ったもんだ。あのころだったら、もっと若いイメージのあるロバート・レッドフォードとかダスティン・ホフマンあたりのほうがいいんじゃないの?

ところが、意外にもこのへんの連中、そんなに年は違わないのである。ドロンは1935年生まれ。パシーノは1940年生まれだからちょっと若いが、レッドフォードは1936年、ホフマンも1937年の生まれだから、じつはドロンと同年代なのだ。

20代そこそこで主演にのしあがっていたドロンは、圧倒的にキャリアが長かったので、ずいぶんオッサンなイメージを勝手に背負わされていたのだろう。気の毒に。

まあ今となっては、全員もうジジイだから同じか(笑)

しかし、70年代の終わりごろから、急速に彼の人気は衰える。

何がどう悪かったという印象もないが、1980年代に入ると一気に公開作品が減り、そういえば私にもこの時期から後のアラン・ドロンのイメージは、ほとんどないのだ。

皮肉にも、その最後のころの全国公開作品が、あの「エアポート'80」(1979年)

本人的には、かつて夢破れたハリウッドスターへの再チャレンジだったのかもしれない。だとすれば、そのころのドロンに贈りたい言葉はただ一つ。「作品選べよな

そんなわけで、その後のドロンは(少なくとも日本では)すっかり過去の人っぽくなってしまったわけだ。

なんていうのは、日本の映画好きの片隅から見ていた私の一方的な意見であって、フランスいやヨーロッパ映画界で多大な成功をおさめたドロンからすれば、大きなお世話だろう。

ホントに映画から足を洗うのかどうかはわからない(過去に一度引退して撤回している。大仁田厚かよ)が、まあとりあえず、ノンビリとした老後を過ごしていただきたいものである。

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