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時がゆっくりと…

 ハイテンションがスタートして10カ月が経ち(2012.1.10執筆時)、新しい年がはじまりました。

 昨年はこの国に悲惨な災害がおそいかかり、生活の根本を見直すことになりました。築き上げた幸せな風景があっけなく崩れた喪失感に、誰もがこころを痛め、ネガティブな感情に押し流されました。日本中が沈痛な谷底に落ちていくようでした。

 そんな混乱のただなか、ハイテンションは始動しました。

 開所当初、ハイテンションにやって来るみんなは、一様に緊張していました。地震のショックがまだ生々しい時期に、見知らぬ環境に身を置くのですから当然です。入り口の手前で動かなくなってしまったり、玄関口に立ち尽くし室内へ足を踏み入れない方もおられました。こんなとき、ありきたりの言葉の投げかけはなんの効力もなく、かえって緊張を高めてしまいます。私たちは、一人ひとりと、じっくりゆっくり、出会って行こうと話し合いました。人と人との出会いを急ぐと、急いだ分だけ、うすっぺらな関係しか残らないものです。

 人それぞれには、それぞれの、時間が流れています。こちらの時間の流れを押し付けるのはルール違反です。

 そうやって、ハイテンションでは時がゆっくりながれていきました。

 そしていま、当初の緊張は少しずつほぐれ、一人ひとりが、とびきりの笑顔をかいま見せてくれるようになりました。なつかしい場所にもどって来たような笑顔です。

ハイテンションでは、時が、ゆっくりと流れていきます。
待つことが、先へ進むことになるときもあるのです。

さあ、今年も、ゆっくり楽しく、ロックンロールしていきましょう


2012年1月10日発行 クラブハイテンション掲載

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この記事を書いた人

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かしわ哲 
NPO法人ハイテンション代表。1950年6月9日東京生まれ。1981年4月より、NHK「おかあさんといっしょ」に5代目うたのおにいさんとして出演。「きみのなまえ」・「すずめがサンバ」・「ブー!スカ・パーティー!」など番組内で歌唱される楽曲の作詞・作曲も手掛ける。1991年、講談社青い鳥文庫『アイシテル物語』で作家デビュー。
1994年、知的障がい者と共にロックバンド「サルサガムテープ」を結成。1996年には同バンドでスウェーデンでの海外ライブを実施。1997年、著書『あったかさん』で第1回報知ドキュメント大賞を受賞。
2011年、神奈川県厚木市に福祉事業所・NPO法人ハイテンションを設立。2016年11月 AI presents「みんながみんな主役 Night」で念願の日本武道館ライブを実現。現在も「福祉×ロックンロール」な現場の第一線に立ち続けている。

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