灰とメタルと薔薇の蜜

薄墨色の血が音もなく噴き上がった。
それは黄ばんだ日光に触れるや否や、空中にあるうちから瞬く間に乾き、灰の雨と化して降り注いだ。
踏み荒らされた紅色の花畑に、雪のような白が積もっていく。その只中に座り込むロゼの頭上にも。
彼女の村を滅ぼした〈重装機鬼〉は、そのようにして唐突に死んだ。
見上げるような鉛色の巨体が、ロゼの目の前に膝をついて項垂れ、ぴくりとも動かない。
頭部の断面から灰がさらさらと零れ続けている。多重金属装甲は、それが守っていた小さな脳ごと滑らかに切り裂かれていた。

「怪我はなさそうだね」
機械仕掛けの嘴をカチカチと鳴らし、鴉頭の男が言った。
彼はいつの間にかロゼの隣に立っていた。その手の甲に、厚みを持たない一羽の鴉が舞い降りた。それが一瞬前、機鬼の頭を黒い斬撃のように切り裂いた影だった。

妖しき眷属を従えるもの。
灰の血を流すもの。
鬼でありながら鬼を裏切り、〈教会〉に己の首を差し出して悔悛したもの――〈アッシュブラッド〉と名付けられた種族。

男は切り出した黒曜石のような頭を巡らせ、一面に広がる花畑と、その遠く向こうに見える村の焼け跡を見渡す。
「〈教会〉のプランテーション。あの村人たちはここの労働者だったわけだ。……君もそうかい?」
ノイズ交じりの低い声が己に向かって呼びかけていることを知りながら、ロゼは返事をすることができなかった。
喉がからからに乾いている。火傷をしたのかもしれない。炎に包まれた村を死に物狂いで駆け抜けたときに。助けを求めて神様を呼び続けたときに。

「ぁ……な、んで……」
ようやく絞り出した声は、忌々しいほどか細かった。
「なんでわたしだけ、助けた……」
赤い血が滲むほど固く拳を握りしめ、男を睨みつける。
鴉を模した人工の顔はつるりとした影の塊のようで、瞳がどこにあるのかさえ判然としない。

理解を拒む異形のものは、穏やかに嘴を開く。
「君の顔がとても可愛らしかったからさ、お嬢さん」

(続く)

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