28歳の女が医療に課金して男声(仮)を手に入れた話

この記事はあくまで一個人の例であり、すべての人に当てはまるというわけではありません。

また、ホルモン治療を含む性別移行を、本来必要でない人に推奨する意図もありません。


はじめに

詐欺みたいなタイトルですが、要は「28歳のFtMの約1年間のホル注レポ」です。

性別違和のエピソード含め自分語り的な事はこの記事の趣旨から外れるため、この記事では必要があれば多少触れる程度にとどめます。


診断書を取りに行く

身体女性が男性に性別移行するためには性同一性障害障害(性別違和)の診断書があるとスムーズに行きます。

診断書がなくても男性ホルモン注射等の治療を受けることはできない事はないですが、初診の時にほとんどの病院で診断書の提示を求められるため、あったほうがいいです。

私が診断書を書いてもらいに行ったのは、都内にあるWクリニックです。

予約時の電話で用意するように指示されていたA4用紙1枚の自分史(幼少期から現在までの性別違和のエピソードをまとめた作文)と健康保険証を持って行き、受付から15分ほど待って診察室に入りました。

自分史を渡すと院長のO先生はざっと目を通し、性同一性障害の診断基準と照らし合わせながら「○年前にこういう性別違和のエピソードがあって、違和が今も続いているから診断基準に当てはまるね」というようなことを説明してくれました。

その後、O先生があらかじめ用意してある診断書に日付や名前などを書いて、ハンコを押して、診断は終わりです。

注意してもらいたいのは、このように1回の来院で簡単に書いてもらえる性同一性障害の診断書は「即日診断書」と呼ばれていて、トランスの間では問題視する人も多いということです。

嘘ついて自分史を書いたとしても性同一性障害と診断されると思います。

なので、Wクリニックの診断書のような即日診断書は、GID学会のガイドラインに従って診断され発行されたものよりも信頼性が低く、用途によっては通用しない場合があります

良い子のトランスジェンダーはち○きクリニックやは○まメンタルクリニックでちゃんとガイドラインに沿って診断してもらおうね!

とはいえ、私が性同一性障害の診断書がほしかったのはホル注(男性ホルモン注射)と胸オペ(縮胸手術)をしたかったためなので即日診断書でも充分です。

事情があって1日でも早くホルモン治療を受けたかったため焦ってしまいましたが、ある程度性別移行が進んで落ち着いたら改めてガイドラインに沿った診断を受けてもいいかなと思っています。


初めてホルモン注射を受けに行く

2日後、O先生に教えてもらった地元のN病院に行きました。

ここはジェンダー外来があるわけでも、美容外科があるわけでもない普通の病院です。

調べると、結構普通の病院でも男性ホルモン注射を扱っている病院があるので驚きます。

受付をして、しばらく待つと診察室に通されました。これは初回だけで、2回目からは直接処置室に呼ばれました。

先生から開口一番「本当に病気なの?」と言われ面をくらいました。

私は「は、はい、診断書もありますし…」とおとといもらってきたばかりのWクリニックの診断書を渡しました。

この時に注意しなくてはならないのが、診断書の原本を渡すと返ってこない可能性があることです。なので、事前にコピーしたものを原本と一緒に持参してコピーを渡すか、コピーしたら原本を返してくださいと伝えたほうがいいです。

先生は「ふーん…」と言いながら診断書に目を通し、「じゃ、エナルモンデポー125mg、注射できるから処置室に呼ばれるまで外で待ってて」と言いました。

診断書といい、ホル注の許可といい、あっけなさ過ぎです。


ホル注自体は特筆すべきところはありませんでした。

私は腕への注射を希望した(尻の場合もある)ので、インフルエンザの予防接種と同じです。

思ったよりも痛くなかったです。


エナルモンデポーからネビドに切り替える

ホルモン注射を始めて数か月経った頃、N病院に男性ホルモンの在庫が入りづらくなる事態が発生しました。

実は私がこの事態に遭遇する数か月前からTwitter上でエナルモンデポー(及びテスチノンデポー)の流通量が減ってきているという話があり、私は「田舎だからまだ大丈夫だろう、私には関係ないうちに終わるはず」というふうに半分噂話のようにその話題を眺めていました。

ところが、その田舎にも数か月前遅れて男性ホルモン枯渇の波がやってきました。

N病院は基本的に予約不要でいつ行ってもエナルモンデポーが打てる病院でしたが、この事態になってから仕事が休みの日の朝にN病院に電話をかけ、「エナルモンデポーありますか?」と聞かなければならなくなりました。

そうしているうちに止まっていた生理(後述)が来てしまい、これはマズイと思ってN病院の他に男性ホルモン注射を扱っている医療機関を探し始めました。


幸い、同時期に胸オペの情報収集のために訪れていた、都内のFtMが店子をやっているバーで病院を紹介してもらい、病院はすぐに決まりました。

都内にあるPクリニックはエナルモンデポーではなくネビドという男性ホルモンを扱っています。

しかも、相場よりも安く注射してもらえます。

日本国内で多く使われているエナルモンデポーという男性ホルモンはFtMに使用する場合、125mgを2週間に1回もしくは250mgを3週間に1回の頻度で注射しなければなりません。

ネビドはそれよりも多い容量を3〜4か月に一度注射します。

ネビドは長期持続型なので注射してから効果がなくなるまで、血中の男性ホルモンの濃度がほぼ一定に保たれ、身体への負担が少ないです。

ただ、日本ではネビドは保険が効かないらしく、エナルモンデポー等と比較すると、注射の頻度を考慮してもかなり割高になってしまいます。

私はN病院ではエナルモンデポーを相場よりかなり安く(相場の半分以下の金額で)打っていたので、ネビドに切り替えることにより金銭面の負担が増す事はけっこう痛かったです。

しかし、身体への負担が少ない事、通院の度に健康面の相談ができる事、そしてなにより通院の頻度が少なくなることが魅力だったのでネビドに移行することに決めました。


2週間に一度とはいえ、そのためにわざわざ予定を空けて通院するのはものすごく面倒ですし、N病院がある街は私が住んでいる場所よりも寂れた場所で、私的には用事がなければわざわざ行くような場所ではありません。

貴重な休みにどうせ出かけるなら通院のついでに買い物でもしたいのです。

その点、Pクリニックは都内にあるので買い物するにしても時間調整するにしても困らないので大変魅力に感じました。


ネビドは良いぞ

Pクリニックは元々性病専門のクリニックです。

ジェンダー外来があるとはいえ、待合室に入ると当然GIDではない(と思われる)人もたくさんいます。

正直気まずいですが、待合室の席は自習室のようになっているので隣をあまり気にしなくて済むのはありがたいです。

名前ではなく受付番号で呼ばれるので戸籍の名前を呼ばれなくて良いです。


診察室に呼ばれて診察を受けます。

この時にも診断書があったほうがいいです。

あと、学校や会社で受けた健康診断の結果があればそれも提出したほうがいいです。

初回はとりあえずこれでネビドを打ってもらえると思います。

診察の最後に「性病の検査をしていいか」と訊ねられます。

これはこのクリニックがトランスジェンダーの性病についてモニタリングをしているためで、ネビドが安く打てるのもサンプルの提供に協力してもらえるかもしれないというメリットがクリニックにあるからです。

とは言っても、協力しないからといってネビドが打てなくなるわけではありません。

検査は「血液検査」「頸管粘液」「咽頭」があり、抵抗があるようでしたら血液検査(必須、後述)だけで大丈夫です。

私は面倒なので血液検査だけにしました。


処置室に移動すると血圧を計り、採血をした後にいよいよネビドを注射します。

ネビドは基本的に尻(どうしてもと言えば腕にしてもらえるかも)に注射するので処置用のベッドにうつ伏せに寝て、注射する部位(尻の腰に近い部分の左右どちらか)が露出するようにズボンと下着を少し下げた状態にします。


この注射ですが、滅茶苦茶痛いです。

腕にエナルモンデポーを注射するのの10倍くらい痛いです。

例えるならでっかいアシナガバチにゆーーーっくり刺されているような感じです。

量が多いので時間がかかります。


そして無事注射が終わったら会計をして終わりです。

注射の前にした採決の結果は3日後くらいにLINEに検査結果閲覧のURLが送られてくるのでそちらで閲覧できます。


で、結局ホルモン注射で何が変わったのか

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

いちいち記録をつけるのも女々しいと思い、記録していなかったのでざっくりになります。


この変化が一番大きいです。なのでタイトルにしました。

私の場合はエナルモンデポー1本目からなんとなく変わり始め、2本目から明らかに「声変わりしている声」になりました。

あと、パス度(FtMの場合は男性として認識される率)への貢献もすごいです。

当たり前ですが、短髪で声変わりしているとまず女だとは思われません。長髪にしていてもオカマだと思われます。

ただ、現時点ではいわゆるナベ声(ホルモン治療で声変わりしたFtMにありがちな声質、成人男性のものとは明らかに違う)っぽいので、今後ホルモン治療を続けていく中で改善したら良いなと思います。

まあ、純男でも声変わり時期は高確率で似たような声質になるしね。


性格

前よりも他人とコミュニケーションを取るのが面倒になった気がします。

あまり変わらないです。


ひげが濃くなりました。とは言っても、成人男性のような剛毛になったわけではなくちょっと濃くなった程度です。

すね毛、腹毛も濃くなりました。こちらも普通に純女にもいるレベルなので劇的に変わったというわけではありません。

頭髪は薄毛になるという兆候は今のところありません。


月経

たしか、エナルモンデポー2本目くらいで止まりました。

ただ、エナルモンデポーが枯渇した時に注射のタイミングが不規則になってしまったときは1週間前に注射したにも関わらず来てしまったりすることもありました。

安定してネビドが打てるようになってからは来てないです。

FtMとはいえ、二十年近く「生理のある人」をやってきた身なので、もはや生理があること自体を悔しいとも辛いとも思っていなかったのですが、生理が来ないと楽ですね。

体つき

若干筋肉が硬くなった気がします。私は諸々の理由で運動が大嫌いなのでやっていませんが、ちゃんと筋トレすればまあまあ筋肉がつくと思います。

脂肪のつき方・乳、まっっったく変わりません!

たまに「ホル注すると尻や胸が小さくなる」とか聞きますが、嘘だと思います。


性欲その他

私は男性愛者を自認しているのですが、ホルモン注射をしてから、薄着の季節になると女性の胸や尻に自然と目が行くようになりました。なんというか、いやらしい目で見ているとか関係なしに本能的に目が行ってしまうのです。

ある意味、ホル注して一番驚いたことです。

性欲に関しては、元々強めではあったのですが、1.5倍くらいになりました。


食欲

食欲が増したというよりも、胃の容量が大きくなりました。

私は20歳を超えたあたりから胃の容量が小さくなったようで、普通の食事の量でも胃もたれしていましたが、前と同じ量を食べられるようになって嬉しいです。


約1年ホルモン治療をした感想

自分の変化や周りからの扱われ方の違いも含めていろいろと戸惑うこともありましたが、やってよかったです。
「お姉さん」と呼ばれるたびにムカつくこともなくなったので、精神衛生上非常に良いです。
後悔しないか心配でしたが、私の場合はそんなことはなくすごく満足しています。
私は誰にもカミングアウトせずに勝手に治療を進めているので、家族や職場での扱いは依然として「女子」ですが、赤の他人にナチュラルに男性扱いされているだけでもかなり楽です。

ただ、QOLを上げることが目的なら胸オペを先にやるべきでした。
(私含めて)結構な割合の人がホル→胸オペの順番でやりますが、これってたぶん「おためし」の意味もあるのだと思います。
胸オペは外科的に乳房をとってしまうので取り返しがつかないものですが、ホル注なら早い段階でやめれば(不可逆な変化もあるとはいえ)女性に戻ることもできます。
しかし、多くのFtMが一番気にしていることは声が高いことでも髭が生えていないことでもなく胸が膨らんでいることだと思います。

あと、最近では胸オペやSRSに保険が適用されるようになったので、ホルモン治療よりも先(現在の制度ではホルモン治療を先にやってしまうと保険が効かなくなってしまう謎の仕様がある)に手術をするという選択をすれば、これから受けるかもしれない胸オペの費用を抑えることが出来ました。

今後は情報収集をしながらお金をためて、30歳になるまでに胸オペできたらいいなと思っています。

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