松前公高『あなたはキツネBEST/WORKS 1989-2019』
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松前公高『あなたはキツネBEST/WORKS 1989-2019』

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1999年、インターネットも出始めで音楽どころか動画配信すらも遠く、世紀末と言えど未来がまだまだ明るかった時代。専門学校を卒業したあたりの僕が気になっていたのは1970年の大阪万博でした。当時、このEXPO'70を回顧する書籍が多く出ていて、初期ウルトラ怪獣好きだった僕はそれらの怪獣群に共通する各パビリオンのサイケな色遣いに心惹かれていたのです(椹木野衣の美術書に成田亨が載っていた影響もあったと思います)。
おそらく今の自分が70年代にタイムスリップして会場に行ったとてその体験は今と比べるとチープに感じるのでしょうが、その「行きたくても行けない」写真から想像させイメージを膨らませていく感じ、これは現在20代の人たちがVaporwaveやシティポップを通じて1990年代前半/平成初期を想像するそれに近いのではないかと自分は解釈しています。

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大阪万博関連の書籍が多く発売されるようになる、その口火を切ったのは『EXPO70伝説』(オルタブックス編/メディアワークス刊)。博覧会のあらましから、各パビリオンやコンパニオンの衣装の紹介、当時のノベルティ・レコードやグッズ、当時お客の一人として足を運んでいた著名人のエッセイまで、万博に対するネガティヴな意見(反博)も取り上げている実に貴重でバラエティに富んだ一冊なんですが、その中で安田謙一さんが実際に万博会場でかかったシュトックハウゼンなどと合わせて"万博とは直接関係無いが万博をイメージした音楽"として紹介されていた1980年代以降のアルバムが何点かありました。それがCorneliusの『Fantasma』(1997)、当時電気グルーヴに在籍していた頃の砂原良徳のソロワークス(『Crossover』(1995)〜『The Sound Of 70's』(1998)あたり)、そして松前公高さんが山口優さんと組んだEXPO『エキスポの万国大戦略』(1987)です。

『キルミーベイベー』『たまこまーけっと』『おしりかじり虫』など多くのサントラや企画盤を手がけ、前述のEXPO/SPACE PONCH/S.S.T.BANDなどで活動する松前公高さんによる細かいプロフはこちらのサイトのインタビューでご本人が語っているので省略しますが、ゲームミュージックのレーベル<GMO>から発売されたこの1st『エキスポの万国大戦略』は今堀恒雄や菊地成孔をはじめとしたゲスト参加陣の豪華さ(といっても当時は駆け出しだったようです)もあってゲームの分野だけでなく、プログレッシヴ・ロックのディスクガイドにも載る事が多い名盤にも関わらず、今もって再販されません。
本盤発売時の80年代、僕はファミコン世代ではあるものの、小学生である80年代にはレコードを買う趣味はまだまだ自分に無かったため、当然この盤の存在すら知らなかったわけです。20年ほど中古屋を探しまわり、現物のCDを入手できたのはつい3年ほど前でした。
『キルミーベイベー』のサントラが既にサブスク化されているのはここを読んでる方ならご存知でしょう。EXPO名義では実に26年越しのアルバムでしたが、前述のような参加陣がいない事以外、恐ろしい事にほとんど1stと印象が変わりません。
EXPOは"プロの完璧なオーケストラ/バンドの中に素人の演奏が混じる"事によって起きるテンポや拍のズレを意図的にプログラミングするコンセプトを標榜していましたが、この"わざと拍をズラす"手法は後にD'Angeloが全世界に衝撃を与え、さらにCorneliusの近作にも大幅に導入されます。

電気グルーヴやKEN ISHIIのようなテクノから音楽を聴き始めた僕は、当時テクノのジャンルでは隆盛を極めていたシリアスなミニマルや『攻殻』的なサイバーな世界観のものよりは、砂原さんの作品群のようなレトロフューチャー/万博的なイメージを表していたものに夢中になっていきました。それらのイメージを強くジャケットに反映していたのは常盤響さんによるアートワークが強いのですが、その常盤さんと松前さんが同じメンバーとして活動していたテクノバンド・SPACE PONCHの作品集『The World Shopping With Space Ponch』がちょうどこの時期にリリースされます(こちらはAppleMusicでのみサブスクで聴けます)。こちらは映画の劇伴やソフトロック、ラテンなどのカバー曲が多く、ラウンジーなテクノポップでした。

このSPACE PONCHの数年前に同じ<Transonic Records>から出ていた松前さんソロ『Space Ranch』(1994)を聴き諸々の情報からEXPOを知った僕がその手がかりを掴もうと、お店を探して手に入れたCDが松前さんのソロ自主制作シリーズ『あなたはキツネ』全4作のうち『2』でした。

で、前置きがめっちゃ長くなりましたが今回、その再発BEST盤(CD2枚組)と、仕事音楽集『WORKS 1989-2019』(こちらもCD2枚組)のジャケデザインを私hitachtronicsが手がけております。

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『あなたはキツネ』は松前さん自らが1997年に全4作でリリースしたCDで、古くは1978年から学生時代や作りかけの未完成品すらも含む「自分アーカイヴ」集なのだそうですが、今回そこからさらに自選し新たに40曲を追加した2枚組101曲です。続く『WORKS』はぐっと曲数が減り、ゲーム/舞台/展示/雑誌などで使用された曲を中心にした全54曲の同じく2枚組です。

どちらも一聴した印象ではもちろんテクノポップ的なものが中心なのですが、ドラムンベースからドローン、脱力歌モノ、さらに明らかに未完成であろう実験色の強いスケッチ的音響遊びなど、とにかくバラエティに富んでおり、短い尺の曲がパッと終わっては次の曲に…の繰り返しなので、フロア向けテクノを期待して聴こうとすると面食らう人も多いのではないでしょうか。
かく言う僕も1999年にこの旧盤のうち1つ『2』を手にして聴いたときには当然同じ印象で、掴み所がわからなかったのです。しかしそれはSPACE PONCHや『Space Ranch』における長尺で(比較的)シリアスな側面を先に耳にしていたからでしょう、思えば近作『キルミーベイベー』のサントラも尺の短い曲が並び、バラエティには富んでるもののとにかく落ち着きが無く、今2作を聴いた印象に限りなく近く、そうなるとむしろ『Space Ranch』のテクノ路線が松前さんの一部分に過ぎないという見方も出来るわけです。
1990年代当時再評価が上がっていたジャーマン・プログレッシヴロックの影響は現在も有効ですし、(もちろんゲームの分野ではずっと聴かれてはいましたが、クラブ文化からは)ややベタな印象だったゲーム音楽的フュージョンものもVaporwave/ニューエイジ以降で再評価される2020年現在に聴くのはまさにジャストなのではないでしょうか。

ジャケに関して、『あなたはキツネ』に対してご本人の妙味のあるイラストを旧盤4種のジャケットデザインを手がかりに、『WORKS』はご本人の学生時代に描いた絵画を再構成させていただきました。裏面はなんせ曲数が多いため、自然と曲名リストで埋まる構成に。盤面はdiskunionでは京浜兄弟社関連の作品を今後も次々出していくとの事で、ライブラリ音源を意識した意匠にしました。
『おもちゃ箱をひっくり返したようなアルバムですね』はかつて音楽評で使われ過ぎてむしろ今書く人が居なくなった常套句ですが、ある種レゴ的なおもちゃ感がデザインに出せたと思います。ご興味あれば上記のYouTube試聴動画、さらに下記のdiskunionのリンクを覗いてみてください。


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