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人工股関節全置換術(THA)を理解し、理学療法に活かす
こんにちは!
茨城県で理学療法士として働いている佐川修平です。
セラピストの皆さん、もしくは医療従事者の皆さんは、人工関節の手術をされている方に関わった経験がある方も多いと思います。
また、新人の方でもこれから担当する事になるという人も多いのではないかと思います。
私は長年、整形外科領域で働いていますが、手術も以前より間違いなく改良され、進歩しています。
そんな技術進歩が早い、手術について、そしてセラピスト含めた医療従事者が知っておいた方が良い知識をまとめて、お伝えしていこうと考え、このnoteを書く事を決めました。
以前からリハビリメディア のPOSTさんへ記事を投稿していますが、それらの記事を少し改変しながら作成させていただきました。
手術について理解できると臨床にも活かすことができると思います。そして医師との連携にももちろん繋がります。
少しでも新人セラピストたちに役立てればと思います。
それでは、早速解説していきます。
人工股関節の部品名称とセメントの有無
人工関節に用いられる、体内に埋め込まれる器具をインプラントとよびます。
大きく分けると、
・ステム
・ヘッド
・ライナー
・カップ
ステムは「大腿骨頚部」、ヘッドは「骨頭」、ライナーは「軟骨」、カップは「臼蓋」とそれぞれ役割を持ちます。ライナーはポリエチレン素材で出来ており、以前はポリエチレンが摩耗することにより骨融解などの合併症も多数報告されていましたが、技術の進歩で摩耗を大幅に減少することができるようになりました。
また、骨とインプラントを密着させる際にセメントを使用するかどうかを決める必要があります。
セメントを知らない方は、コンクリートをイメージしてください。最近ではセメントレスといって、セメントを使用しないで骨とインプラントを密着させる技術が用いられています。
インプラントの表面に特殊な加工をして、緻密骨(皮質骨)との密着性を高めるようなインプラントがあります。加工の仕方には種類があり、ポーラス加工、ファイバーメタル、trabecular metal、ハイドロキシアパタイトコーティングなど、があります。
そのほかに、カップとステムのどちらかだけセメントを用いて、もう片方はセメントレスを用いるという方法もあります。
セメントの利点として、骨の脆弱性にも対応できるなどのオールラウンダーですが、再置換術時に以前のセメントを除去する際にセメントを取りきれないなどの問題もあります(最近ではそれも解決されてきています)。
なんだか、セメントを使用した方がいいのではないかと思ってしまいますが、要は使い分けが大事だということになります。
セメントを用いると、セメントの硬化などの時間が限られてしまうのに対して、セメントレスはインプラントの設置位置を調整しやすいという点もあるため、そういった技術の面もセメントレスが普及しているのに関係しているといわれます。
アプローチ方法
THAのアプローチ方法は多くあります。
皮切、展開(アプローチ)をして行く際に、以前は後方、もしくは後側方アプローチが主流でした。
最近は筋実質を侵襲しない前側方アプローチが多く用いられています。
前側方アプローチは、術後早期の股関節外転,外旋,伸展筋力の回復が早いといわれ、流行りのアプローチ法となっています。
脱臼に関しては前方、前側方アプローチは伸展・内転・外旋での肢位で脱臼のリスクがあります。後方、後側方では屈曲・内転・内旋が脱臼肢位となります。
・ 前方アプローチ(DAA:Direct Anterior Approach)
縫工筋と大腿筋膜張筋の筋間切開による背臥位のアプローチ
・前側方アプローチ(ALS:Anterior Lateral Supine)
中殿筋と大腿筋膜張筋の筋間切開によるアプローチ
本来は背臥位で行うが、ALA(Anterior Lateral Approach)という方法も存在し、前側方アプローチを側臥位で行う方法も存在する
近年多く用いられているOCM(Orthopädische Chirurgie München)法は側臥位で行う
・外側アプローチ(DLA:Direct Lateral Approach)
中殿筋の切開によるアプローチ方法のため、術後の関節不安定性を生じやすくなる
主に再置換術などで用いられる
・後側方アプローチ(PLA:Posterior Lateral Approach)
大殿筋、中殿筋の一部、外旋六筋の筋切開による手術
・後方アプローチ(PA:Posterior Approach)
大殿筋と外旋筋を切開するアプローチ法。高齢などあまり活動性が少ない方に適応となる
大まかに分類すると5種類になりますね。
最近は前側方アプローチが多くなってきていますが、
手術の難易度なども含めて、まだまだ後側方でのアプローチが実際には多いです。
術中の脚長差の調整はどうしているの?
術前と術後のリハビリ時に脚長差をメジャーで測定している職場もあるかと思います。
医師も同様にレントゲンで脚長差を把握して、術中に介入をしますが、一体どこで脚長差の調整をしているのでしょうか?
主には、
• 臼蓋の設置位置
• ネック長
• 頚体角
• 骨切り位置
これらによって脚長差を調整しています!
他にももしかしたらあるかもしれませんが、自分が調べたり医師とコミュニケーションを取っていて理解しているのはこの辺りです。
詳しく解説します!
臼蓋の設置位置は、カップの設置位置も大事ですが、カップを設置する際のリーミングの深さによって調整します。
リーミングというのは骨を削る作業をいいます。
深く削れば、下肢の長さが短くなるのが想像できます。
そしてネック長はステムの頚部の部分に骨頭(ヘッド)を差し込みますが、その差し込む深さで調整することができます。
頚体角は大腿骨骨幹部軸と頚部軸のなす角度をいい、正常角度は125−130°といわれます。
正常よりも減少すると内反股、増大すると外反股を表します。
この図を見ればわかると思いますが、角度が大きくなればなるほど、骨頭の位置は上方に上がります。
ステムには様々な種類があり、頚体角も様々です。
このステムを変えることで、頚体角から脚長差の調整することができます。
また、ステムをはめこむために、大腿骨のラスピング(ステムを入れるのに穴を削ること)をする際に骨切りを行います。
骨切りは基本的に大転子と小転子を残します。
そして残しつつ、細かい調整を行います。
骨切り位置が高ければ下肢は長くなり、低ければ短くなるということになります。
臨床上の脚長差について
実際の臨床では、自覚的脚長差と他覚的脚長差に乖離がある事をよく見かけます。
つまり、術後レントゲン上では左右差がなくても、本人は長くなったと感じるなどといった感じです。
これには骨盤の傾斜や脊柱の影響が大きいですが、それだと手術で脚長差を無くしても満足度が下がってしまう可能性があります。
そのためアライメント不良で脚長差を自覚している症例に対しては術中の脚長差の調整はかなり慎重に行います。
基本、術側下肢を長めにするということはしないです。
そして、自覚的脚長差に関してはリハビリの出番になります。
骨格構造などの短縮による「構造的脚長差」と、脊柱側弯などによる「機能的脚長差」とでは、脚長差を自覚するのは圧倒的に「機能的脚長差」が原因だと報告されています。
つまりこの脚長差を改善させる、または手術の満足度をさらに上げるためにはリハビリというのは有効だということになります。
この脚長差は骨盤の側方傾斜と関係があるといわれ、股関節外転や内転可動域制限、腰椎側方可動性が主な原因と報告されています。
介入の際には是非参考にしてみてください。
人工股関節の脱臼について
THA後の初回脱臼は1–5%,再置換術で5-15%と変形性股関節症のガイドラインではいわれています。
学生の頃は、前方進入なら伸展・内転・外旋、後方進入なら屈曲・内転・内旋方向で脱臼肢位となるので気をつけましょうと教育を受けました。
この脱臼肢位がつまるところ、インプラントのカップとステムがインピンジ(カップとステムがぶつかる)をすることになり、このインピンジを無理やり助長させると脱臼となります。
特に以前は、後方からのアプローチが多かったため、「しゃがむ動作や足を組む動作は止めましょう」なんていわれてきました。
もちろん今でも後方アプローチの場合は積極的に行うことはしませんが、最近は後方アプローチでも、結構深く曲げられる方もいますし、脱臼の心配は減ってきている印象です。
逆に脱臼肢位を指導しすぎると、かえって恐怖心を植え付けてしまうため注意が必要です。
脱臼が減少してきている理由としては、
・アプローチ方法
・インプラント
・ナビゲーションシステム
これらが挙げられるのではと思います。
脱臼が減少している理由
先ほども挙げたように、アプローチ方法、インプラント、ナビゲーションシステムによるものが理由になります。詳しく解説します。
まずアプローチ方法の変化についてです。以前は後方アプローチや、後側方アプローチが主流でしたが、最近では前側方アプローチが多く見受けられるようになりました。
前側方アプローチは、
・筋間切開のため侵襲が少ない(中殿筋と大腿筋膜張筋の筋間)
・仰向けでアプローチでき、両側同時に手術ができる
・下肢のアライメント(脚長差など)を確認でしながら手術が可能
などのメリットがあります。また、OCM(Orthopädische Chirurgie München)という、側臥位でおこなう、前外側アプローチも存在します。
一般的には前側方進入より後側方進入の方が脱臼率は高いといわれています。何故前側方で脱臼率が低いかというと、後方軟部組織を温存できること、前方骨・軟部インピンジメントによる脱臼の確認とその処置が容易になったからとの報告があります。
ですが報告によっては、前側方による脱臼率が高いとの報告もあります。それはカップの設置位置の異常が原因だとされていますが、これはナビゲーションシステムなどの技術により改善可能となってきています。
また、高齢者の骨盤アライメントは後傾になりやすいため、カップの前方開角が過度になりやすいことなども関係があることも考えられます。
ちなみに前方開角とは、臼蓋がどれだけ前を向いているかを表す角度になります。
つまり、前方開角が過度になれば伸展位などで容易に脱臼をしやすくなることが考えられます。
リハビリでも、これらのことから、脱臼を予防するために、骨盤アライメントもしっかりと把握する必要があります。
ですが、前側方のアプローチが増えているといっても、症例によっては適さないこともあるため、その都度医師とのコミュニケーションは必要になります。
インプラントでも、形状がインピンジを起こさない様な設計が可能となってきています。インピンジはカップとステムがぶつかることで起こるのですが、ステムの中でも特にネック部分の衝突によって引き起こされます。
最近では技術の進歩により、ネックを細くすること、ヘッドの径を大きくすることでカップとネックのインピンジを減少させることが可能となり、インピンジの減少、つまり脱臼の減少が可能となりました。
さらに以前は、インプラント(カップなど)の設置位置の異常が原因で、脱臼を引き起こすことがありましたが、ナビゲーションシステムの導入で、カップ設置位置を良好な位置に設置することが可能になりました。
ナビゲーションシステムとは、術前のCT画像を基に、適したサイズのインプラントを提案し、術中も赤外線によるモニターでインプラントを適した位置に導いてくれるという素晴らしい技術です!
また医師の術中の手元をサポートするロボティックアームなども導入されてきていますので、さらに脱臼のリスクは軽減されていくことが考えられます。
THA後の脱臼は以前より改善されてきており、今後さらなる発展が期待されます。整形外科領域で働いている身として、手術の偉大さ、技術進化のスピードを実感しています。
インプラントの技術やナビゲーションシステムによって、前側方アプローチじゃなくても脱臼の減少が可能だということがわかります。
アプローチ方法を理解して脱臼肢位に気をつけるというよりは、今後は展開する際に侵襲している部位の把握を行うことが大事になると考えます。
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