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タイでキハ183系に乗ってみる(東南アジア乗り鉄記①)

 旅行記の順番が前後するのだが、タイで参加したキハ183系のツアーが素晴らしかったので先に紹介することにしたい。PCは「紹介することに死体」などと意味の分からないことを言っているが放っておくしかないだろう。もっとも、Macの方が予測変換はひどいのであって、かつて使っていたMacは「ポンコツ」と形容するだけでは足りないようなレベルだったのを思い出す。
 そんなことはさておき、キハ183系である。この車両はJR北海道の石北本線で特急「オホーツク」として活躍していたものがSRT(State Railway of Thailand、要するにタイ国鉄のこと)に譲渡され、タイの軌間(1mちょうど)にしたりタイの気候に合わせた改装をしたりしたうえで観光列車として運行されているのだ。しかし、その一方で改装されていないところも数多く、「自由席」「指定席」などの札はそのままだし、ゴミ箱も「くずもの入れ」のままだし、「五稜郭車両所」の札も「札ナホ」の表示もそのままである。おまけに、車内チャイムは日本の新幹線で用いられている(いた)ものがランダムに流れるという仕様なのだ。今回は往路にはハローキティ新幹線のチャイムが、復路には東北新幹線のチャイムと「北陸ロマン」、ひかりチャイムが流れた。ひかりチャイムだけは録音に成功したのでYouTubeにアップロードしておいた。ご覧いただければ幸いである。
 普段は他人の役に立つ記事を書こうという気はさらさらないのだが(ではなぜ文章をインターネット上に公開しているのだという批判はさておき)、今回はタイでキハ183系に乗りたいという人のために予約方法からきちんと説明しておくことにする。海外の旅というと多くの人にとってはハードルが高いようでこのような旅に一人で出かけていると「行動力が高い」という評価をされることが多いのだが、この記事がそのハードルを少しでも下げることになれば幸いである。

右のキハ54のような車両は短距離用のロングシート車両である。

きっぷの購入方法とツアーの概要

 きっぷはSRTのホームページから購入できる。「Thailand Railway」などと検索すればサイトが出てくるので、そこから「KIHA183」と書いてある部分を探し、その先に進んでいくだけで良い。ホームページはタイ語だが、英語に変えることができるので全く難しくない(なぜかタイ語のままの部分も多いのだが)。基本的には毎週末、バンコクから各方面に向けたツアーが企画されている。私が参加した今回の日帰りツアーは1500バーツくらいだったと記憶しているが、一泊二日のツアーもあってその場合には少し高くなっているはずである。ツアーでやりたいことと日程に合わせて選べばよいと思う。きっぷは乗車日の一か月くらい前から発売になっているようだが、正確なところはよくわからない。何日かに一遍の頻度でSRTのサイトをチェックして、希望の日程が出てきたら予約すればいいだけである。ちなみに空席状況も表示されていて、好きな座席を選ぶことができる。使い勝手としては「えきねっと」とほとんど変わりない。
 購入にはSRTの会員登録をしなければいけないので手続きを済ませ、案内に従って進めていけばきっぷを買える。というかこの説明で買えない人は海外に出ない方が良いと思う。つい先日も英語ができないのにハワイへの渡航を試みて送還された人がいたようだが、海外に行くならせめて英語くらいは身に着けてからにした方が良いだろう。ちなみにもっとメルセデスベンツやポルシェの工場見学はもっとハードルが高くて、なんと「ホームページに書いてあるメールアドレスにメールを送って予約する」という方式だった。ま、本当に行きたいならそれくらいのことはできてしまうものである。
 話が逸れたが、予約が完了したらきっぷの画面が表示されるのでそれをプリントアウトするなりファイルを保存するなりしておけば良い。当日、駅でこの印刷したきっぷを見せるとツアー参加者だということを示す札を渡されることになる。SRTのホームページには「きっぷは印刷したものでもスクリーンショットでもPDFでもOK」というようなことが書いてあったので、おそらく様式は何でもOKのはずだ。ま、海外旅行なら紙が最適である。飛行機の予定でも鉄道の予定でも、とにかく紙に印刷しておけば確実に提示できるのだ。

フアランポーン駅構内には蒸気機関車が展示されている。

いざ、ツアーへ参加

 さて、ここからは私が実際に参加したツアーの模様を紹介していくことにする。今回のツアーの起点駅はバンコクのフアランポーン駅である。SRTは最近クルンテープ・アピワット中央駅なる新しい駅を開業し、多くの長距離列車はこちらを起点駅としているのだが、このツアーのような一部の列車は引き続きフアランポーン駅を出発地としている。きっぷを見てBangkokと書かれていたらフアランポーン駅、Krung Thep Aphiwatと書かれていた中央駅に行けば良い。ま、間違えたところでタイにはGrabなるとっても大変非常に便利なサービスがあるのでGrabを呼んで移動すれば良いだけである。ちなみにフアランポーン駅と中央駅の間には無料のシャトルバスが出ているのでそれを使うこともできる。毎時00分と30分にバスが出ており、時間帯によっては15分と45分にも出ているようである。
 フアランポーン駅のホームに入り(タイの鉄道のほとんどの駅には改札口というものはない)、何やら人だかりのできているところに行くとそこがツアーの受付窓口である。ここでチケットを見せると札を渡され、さらに無料の飲み物を渡された。コーヒーかソイラテかmiloが選べたので今まで飲んだことのなかったmiloを飲んでみることにした。ただでさえ暑いタイで熱い飲み物を渡されるというのは少し疑問だったが、列車に乗ると涼しいのでちょうどいい塩梅である。
 ホームにはすでにキハ183系が入線していた。日本で活躍していた頃と最も違うのは、前照灯が増やされているというところだろう。正面上部に前照灯が追加されていて、日本で見ていた頃を思い出すとやや違和感があるが、眺めているうちにそういうものかという気がしてきた。タイの鉄道はそこら中が勝手踏切(もはや道路と言っても差し支えない)なので遠くまで照らせるライトが必要だということなのだと思う。お国柄に合わせて改修するというのは大いに結構である。しかし、それと同時にできるだけ日本時代と変わらないようにと心を砕いているのが伝わってきて大いに喜ばしい。SRTがキハ183系を大切にしているのがよく伝わってくる。
 ホームで写真を撮っていたら車両の前に立つように促された。ツアーにはカメラマンが数人同行していて、その写真は後でFacebookを経由してダウンロードできるようになっている。ドバイではとりあえず写真を撮りまくっておいてあとで売り付けに来る方式だったが、タイでは無料でダウンロードさせてくれる。何とも心優しいものである。
 タイのホームは低いので、車輪もエンジンも目の前にある。日本では撮れない部分の写真が撮れるのは大変すばらしいし、エンジンの爆音を目の前で聴くことができる。エンジンサウンドに聞き入っていたらスタッフから「お前、そんなところで何やってんだ」みたいなことを言われたので「この素晴らしいサウンドを楽しんでいるんだ」と答えたら何だかよくわからないというような顔をしてどこかに行ってしまった。鉄オタというのは実に扱いづらい生き物である。
 タイというと「マイペンライ」という言葉に代表されるようにおおらかなお国柄が想像されるが、それは大体間違っていない。しかし、列車の時間は意外と正確だった。このツアーの前日には泰緬鉄道を終着のNam Tok駅まで乗りとおしたが、その列車も10分か15分遅れているだけだった。このツアーの列車も数分遅れただけでフアランポーン駅を出発した。タイの鉄道は面白くて、対向列車行き違いのために特急列車が停車するということがよくある。日本の鉄道だと対向行き違いで止まるのは普通列車だが、タイだと特急列車が止まっていて普通列車が後から来るというのは普通のようである。
 列車はいくつかの駅に停車しながら今日の目的地であるNakhonpathom駅に向かって走って行く。タイ語と英語で長い長い放送(10分以上)が入っているので耳を傾けていると(今日のツアーの概要とキハ183系がタイに来た経緯の説明が主だった。なかなか興味深い)、なんと朝食が配られた。まさか食事が付いているとは思っていなかったのだが、結局この日は朝食どころか三食すべてがツアーに含まれていたということになる。ほかにも、てっきり往復のキハ183系の乗車に7500円くらい払ったつもりでいたのだが、実際には食事以外にも現地での移動や様々な企画が大量に組み込まれていた。もはや「予定をこなすのに忙しい」という状態なのだが、それをスムーズに回すスタッフの労力と人数を考えたら7500円という強気の価格設定も納得である。

朝食。パクチーを除けば日本的な印象を受ける。

 そう、このツアーにはこれでもかというくらいの添乗員が参加している。全部で7, 8人はいただろうか。4両編成の列車にこれだけの人数だから、SRTがいかにこの列車に力を入れているか容易に理解できるというものである。それ以外にも弁当を配ったり車内の掃除をしたりといったところにも多くのスタッフが携わっている。なお、添乗員はレベルの差こそあれ全員英語を理解できるので、とにかくわからないことは聞きまくるのが正解である。日本から来た鉄道に、わざわざ日本から乗りに来たのがよほどうれしかったのか、彼らはツアーを通じて私のことをとても気にかけてくれた。ツアー参加者の中にも英語ができる人はいるので、こちらが困っているときには手を差し伸べてくれる人も多かった。さすが微笑みの国である。

Nakhonpathom駅に到着

 列車は1時間半ほどで目的地のNakhonpathom駅に到着した。ここで列車を降りるのだが、なんと驚き、降りる先は線路である。ホームではない。線路に降りて、バラストの上を歩いてホームに行くのである。駅を出たら目の前にあるのがWat Phra Pathomchediという寺院で、ここには世界一高い仏塔が立っている。外国人は60バーツ、と書いてあったのだがどこにもチケット売り場のようなものはなくて好きに見学することができた。ここを20分くらい各自で見学して、バスに乗り込むことになるのだが、どのバスに乗るかはスタッフが案内してくれるので何の心配もない。バスが5台くらいいたのでキョロキョロしていたら3号車だと教えてくれた。ツアーの貸し切りなのでどれに乗っても行先は同じだが、バスによって案内がタイ語だけの場合があるらしい。3号車の担当は笑顔を絶やさないオジサンで、バスの中ではタイ語と英語を交互に話しており、スピードラーニングのような様相を呈していた。ま、要するに気のいい話好きのオジサンということである。

Wat Phra Pathomchediはこの仏塔が有名であるらしい。

 次に行ったのが聾学校だった。日本で言う特別支援学校のような感じで、聴覚や脳に障害がある子どものための学校であると説明された。ここでは生徒が披露するダンスを見て、そのあと買い物をするという流れだった。売上はそのまま学校の設備をよくするための資金に使われるそうで、周りのタイ人は「爆買い」という言葉を久しぶりに思い出させるような勢いで買い物をしていた。2000バーツ近く払ってツアーに参加できるタイ人というのは富裕層に入ると思うが、やはり彼らは社会貢献に熱心であるものらしい。
 ショーの前には聾学校ということで手話の説明を受けたのだが、手話という未知の言語をタイ語という未知の言語で説明されたのでほとんど何もわからなかった。数字の数え方がかろうじてうっすら理解できたくらいである。ま、それはそれでいいのだ。何年かしてから「ああ、そういえばキハ183系のツアーに参加したら手話をタイ語で解説されて何もわからなかったなあ」と思い出す日が来ればそれでいいのである。
 このツアーの参加者はほとんどがタイ人で、日本人は私を入れて3人しかおらず、欧米人に至っては1人もいなかった。考えてみれば私がこのツアーを知っているのも日本の車両が譲渡されていたからで、これが仮にアメリカから譲渡された車両だったとしたらツアーの存在も知らないだろうしわざわざ乗りに行こうともしないだろう。欧米人がいないのも当然である。しかし、この日帰りツアーに一人2000バーツ近く、家族で行ったら10000バーツを超えるようなお金を払えるというのはなかなかの経済力である。上品なオバサマから5歳くらいの子どもまで幅広い年齢層の参加者がいたが、全員が余裕を感じさせる振る舞いをしていたというのはとても印象的だった。大人はいかにもお金持ってます、という感じで子どもはいかにもお坊ちゃまです、といった様子である。どう例えたらいいかよくわからないが、日常生活で絶対に走ることがなさそうな感じとでも言ったらいいだろうか。え、余計わかりづらい?すみませんね…。

前に見えるオレンジの服を着たオジサンがお坊さんである。椅子が豪華。

寺に移動

 聾学校を出たら次はWat Phra Pathomchediとは別の寺に移動し、お坊さんの話を聴くことになった。敬虔な仏教徒の多いタイでは欠かせないことなのかもしれないが、また例によって通訳なしのタイ語である。もはや何をやっているのかすら見当がつかないので、周りを見渡して周りの人が合掌していたら自分も合掌して、お辞儀したらお辞儀して、ふつうに話を聞いていたら普通に話を聞く(聞いてもわからないので聞いているふりをする)、というくらいのことしかできなかった。Google翻訳の音声入力も試してみたが、徒労に終わった。最後に話をしていたお坊さんが箸を束ねたようなもので水をまきながら祈りをささげてくれるというので水をかけてもらったことは印象的である。
 実はこう見えて(別にどうも見えないかもしれないが)私は仏教校出身である。先ほどのお坊さんの話の中で一か所だけ、この経歴のおかげで理解できたことがあって、それは彼が話の途中で三帰依文を唱えていたということである。三帰依文は仏・法・僧に帰依します、ということをパーリ語で示す言葉で、カタカナで書けば「ブッダン サラナン ガッチャーミー、ダンマン サラナン ガッチャーミー、サンガン サラナン ガッチャーミー」という感じである。そういえば、先輩が道徳の先生に「ガッチャーミー」というあだ名をつけていた。そういうどうでもいいことを思い出すくらいには頭の中が空っぽになっていたのだと思っておいてもらえば結構である。
 それが終わると船に乗って、優雅にクルーズを楽しみながらのランチである、などと言えば聞こえはいいが、茶色く濁り、そこら中にホテイアオイを大きくしたような草が浮いている(おそらく)チャオプラヤ川を眺めながら昼ご飯を食べるというのが実態である。今日の食事はJapanese Bento、要するに駅弁をイメージした食事を目指しているそうだが、朝食にはパクチーが載っていたし昼食には異様に辛いカレーが付いているしどうも駅弁を誤解しているような気がしてならない。写真を下に掲載しておくが、まあ大体は見た目通りの味なのであって特に美味しいということもまずいということもないごく普通の弁当である。人畜無害そうな顔をした緑色のカレーが言語道断に辛かったことを除けば、いたって普通の昼ご飯であった。赤いものは辛いだろうと想像もつくが、緑色のものが辛いとは予想外である。

どこまでもついてくる卵。朝もついていた。

 昼ご飯が終わったら引き続き「優雅な」クルージングを楽しみ、水上マーケットに到着した。ここを20分か25分くらい見て回ってからバスに戻ってこい、と言われたのでマーケットの中を歩き回ってみたが、何ということはない普通の市場だった。水上マーケットと言うと船で回るのをイメージしていたが、ここは一部の建物が川の上に立っているというだけのようだ。天井が低くて頭をぶつけそうになりながら市場を散策し、バスに戻った。ここでは何も買っていない。昼食の後に食べ物を勧められても食べようという気にはなかなかならないものである。そういえば、ライセンスを得ているのかどうか非常に怪しい(というかおそらく得ていない)ドラえもんやシナモンのキャラクターグッズを売っている店もあった。アニメの力は偉大である。
 そういえば、今回のツアーには私を入れて3人の日本人が参加していた。残りの2人は明治大学の学生だそうで、夏休みにタイまで来たのだそうだ。聞けば先週もキハ183系のツアーに参加していて、前日にはJR北海道から譲渡された北斗星色のDD51を撮影していたとのことである。筋金入りの鉄オタだったらしい。3人で歩いていたら市場の外に出てしまったのでなんとなくの方向感を頼りに歩いていたら寺院に到着し、そのまま何となく歩いていたら例の笑顔を絶やさないオジサンが現れ、バスまで案内してくれた。この人は実に不思議で、ちょうど我々が困っているのを見透かしたかのようなタイミングで出現するのである。凄腕ツアーコンダクターとでも言っておこう。

市場で売られていた魚。焼き魚らしいが食べる勇気はない。

 さて、市場の散策(市場は散策するところではないという話はさておき)が終わった我々は再びバスに乗り込み、今度は食品工場に行くことになった。どうもここでおやつを作って食べようという趣向らしい。ここでは二つの体験が用意されていて、一つは花と鳥の形を下蒸し物、もう一つはふかし芋か何かを好きな形にしてアロエでコーティングするというお菓子であった。説明がへたくそなせいであまりおいしそうに聞こえないかもしれないので下に写真を示しておく。
 ここでも説明はもちろんタイ語なので、ノリと雰囲気で何とかするしかない。隣をチラチラ見ながらやっていたら工場の人がやってきて作り方を教えてくれた。英語は話せなさそうなので手元を見ながら同じようにやるだけなので何も難しいことはない。鳥と花を蒸している間に直売所のようなところに連れて行かれ、またもやショッピングである。翌日夜行列車に乗ることになっていたので車内で食べる用のお菓子を買うことにした。
 買い物を終えて戻ってみると一つ目の蒸し物が完成していたのでそれを食べることになった。作っているときには気づかなかったが、これは中に謎の具材(食感はおかかのような感じ、味は今まで食べたことのない味だった)が入っていた。面白いのは自分が作ったものを自分で食べるわけではないということである。みんなが作ったものを回収してまとめて蒸してパック詰めされているので、自分が作ったものは自分のところには返ってこない。これでいいのか、という気がするが周りのタイ人は誰も気にしていない。ま、口に入ればだれが作ったものでも同じことである。
 続いてお菓子作りである。二階に案内されて作業が始まった。丸めて好きな形を作り、見るからに体に悪そうな着色料につけて色を付けるというものである(野菜や果物にしたものが見本として置いてあった)。それをアロエを溶かした液体につけて冷ませば表面がコーティングされる、という寸法だ。同じテーブルの人と見比べながらする作業は、久しぶりに工作教室に参加したような気分で楽しかった。このお菓子も翌日の寝台列車の中で食べたが、何とも言えない不思議な食感と味だった。何を食べているのかよくわからなかったというのが正直なところである。

鳥と花を作る。これを蒸すと食べられる。

いざ、バンコクへ

 さて、ここまでが終わった段階で午後五時くらいであった。あとはバスに乗ってNakhonpathom駅に行き、キハ183系に乗ってBangkok駅まで戻るだけである。「だけである」とは言うものの、個人的にはここからがメインと言っても過言ではない。朝は線路に降りたが、帰りはホームから乗ることができた。乗車前には貨物列車もやってきたが、なんとONEのコンテナが積まれていた。こんなところまで日本の物流が入り込んでいるとは思いもしなかったのでこれは意外なことだった。貨物が出発し、到着した折り返し列車が出発した後でキハ183系が入線してきた。
 列車に乗ってほどなくして夕食である。焼きそばが配られた。これは塩味が程よく調理されていておいしかった。今日食べた弁当の内容から察するに、タイでは朝食と昼食が重んじられていて夕食はそれほどでもないのだろうか。弁当のボリュームが夕食だけ明らかに少なかったのである。色々食べ歩いているからおなかもいっぱいだろう、という配慮なのかもしれないし、朝食を豪華にしておくことで印象をよくしておこうということなのかもしれないが、朝昼と比べて夕食は簡単なものだった。そういえばデザートとして羊羹のようなものも配られたが、これが何なのかは謎である。一緒に添えられていた食べ物とは思えない色のジュースは紫蘇のジュースだったらしい。
 そのあともスピードラーニング方式のアナウンスが延々と続き、お土産が配られ、列車はバンコクへ向けて快調な走りを見せる。このキハ183系は日本にいたときよりも乗り心地が良いように思った。メーターゲージなので不利なはずだが、保線がダメダメな石北本線と比べるとSRTの方が良いということなのだろう。

フアランポーン駅は高い屋根が特徴的である。濡れた地面に尾灯が反射し哀愁を感じさせる。

 列車がフアランポーン駅に着いた時、時刻は19時半を回ったところであった。およそ12時間の旅は、ここに終わったのである。列車が到着したとき、駅周辺は大雨で駅のホームはびしょ濡れになっていたのだが、それでも最後にキハ183系の写真を何枚か撮っていた。例のにこやかなオジサンに最後のお礼を述べてフアランポーン駅から二駅のホテルに引き上げることにした。
 普段、私はツアーというものには参加しないのだが、このキハ183系のツアーはもう一度参加したいと思えるものだった。英語があまり通じなかったり、車両に乗ること自体を目的としていると思っていたのと違ったりするところはあるが、列車に乗っていない時間についてはよく計画されていて効率的な観光をすることができるのではないだろうか。次にタイに行くときにも、このツアーには参加してみたいと思っている。

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