第六話 私は騎士だ!!
彼女の名はスミカミ・ロー・レイラ。彼女が通った数だけ国が滅び、いつしか名前で呼ばれなくなってしまう。『邪眼の姫』、そう呼ばれるようになったのはなぜだろうか、彼女の瞳に映るものは全て死に、勇ある者が『鏡』を持って対抗するも、『鏡に映る彼女の瞳は邪眼』ではない。結果、『男の無駄死』にである。
「ここから先へ行くことはできない。」
レイラの前に一人の女性が立ちはだかる。
「立ち去るなら見逃してやろう。それとも何か、私とやるつもりか?」
ベルーラ王国騎士、クーラ・レル・ルザナギス、レイラといえど、その名は知っていた。
「あなたの国の皇帝を含め、上の人間は『無能』とお聞きしております。中でもクーラとかいう人間は、その無能ごときにこき使われる『奴隷』だとか、その奴隷がなぜ国を守っているのでしょう?」
姫と呼ばれる程あってか、言葉遣いは丁寧だ。しかし、その言葉はクーラにとって、耳が痛い。
「私が忠誠を誓うのはベルーラ王であり、天皇ではない。それが『騎士』、騎士は『警察』ではない。」
クーラが刀を抜刀するや先手必勝と言わんばかりに斬りかかる。しかし、邪眼の瞳が発動すれば、刀は砂と化す。
「何か致しましたでしょうか?」
レイラの片手が変化すればその指先に生えていた爪が鋭利なものへと変化し、下から振り上げられる。
―――ピッ―――
空を切る音がすればクーラの頬が縦に切り裂かれる。両者の視線が交わる中でレイラが邪眼の瞳を発動させた。視界に入っているクーラが砂と化す。だが、クーラは遺伝子を操ることができる。『万能細胞』、人が指を切っても万能細胞を繋げておけば元通りに戻せる。既に新たなクーラがレイラの背後を捉えていた。
「最終警告だ。ここから立ち去れ………」
レイラが振り返れば首元に刃を突き付けられていた。
「これがあの『遺伝子操作』、ですが、遺伝子操作では私には敵いません。」
クーラは自分の能力を明かしてはいない。遺伝子操作、いつからそんな風に言われ始めたのか、人は情報に流されやすい。だが、しばらくはそれを利用することになるだろう。
―――ゴッ!!―――
大きな音と共にクーラの肉体が死んでいく。肉体の死というものを体感していたクーラであったが、レイラは頭から血を流していた。上空から岩が落下し、レイラの脳天へと衝突、邪眼で目前のクーラを殺すも、意識は消え去り、その場に崩れ落ちる。
「次はないと言ったはずだ………」
手錠を片手にレイラへと歩いて近付いていくものの、ゆっくりと立ち上がるレイラ、大きな岩で頭を強打したが、それでも立ち上がる。クーラは少し動揺した。致命傷を与えたはずだが、奴は立ち上がってくる。
「上空に岩でも投げていたのでしょうか、すごく頭が痛いです………」
レイラの背中から悪魔の翼が生え、右腕が黒く変化する。その右手の指先からは鋭利な赤い爪が生えて来る。
「半悪魔(ハーフデビル)って奴かしら!!?」
驚いたのは彼女が半悪魔であるということではない。言葉を口にした刹那、目の前にレイラが現れたのだ。強靭な脚力、悠然と構えているクーラにレイラの右手爪先が頬をかすめる。
―――ピッ―――
体制を立て直すことを許さずそのまま右手を振り切ってくるりと回るレイラ、左手に持たれた禍々しき漆黒の剣がクーラへと薙ぎ払われる。
―――キーン―――
クーラが大勢を崩しながら刀で受けたため、そのまま薙ぎ払われてしまい。吹き飛ばされてしまう。地面に片手と足を付け速度を減速させる。地面に描かれる三本の直線、クーラが地面から手を離す暇すら与えてくれない。まっすぐに伝えられる殺意、背後から感じる戦慄、正面に見えるレイラの姿が霞んで見える。
「グゥッ!!」
見えていたレイラの姿は幻影、クーラの体が背後から貫かれる。自分の体を貫いたレイラの右手、綺麗にまっすぐ伸びた指先、野蛮な一突きではない。
「うわああああああああああ!!」
レイラが怒号を挙げれば串刺しにされたクーラの体を宙に振り上げ、レイラの眉間が真紅に輝いた瞬間、膨大な魔力で放つ閃光、クーラが灰となって消える。
「はぁ………はぁ………ッ!!」
レイラが振り向き様に剣で刃を弾く。
―――キーン―――
鳴り響く金属音、弾かれる刀、しかし、クーラの左手がレイラの腹部にそっと押し当てられる。
「ルザナギス式、永破………」
クーラがそっと呟けばレイラは口から血を吐き出したのだ。
「ゴハッ!!? 何をした!!」
クーラは全ての剣技を会得させられた過去を持つ、剣は用いてないが、ある流派には剣を用いず、相手の腹部に手を当てて殺す術が描かれていた。
「貴様は私には勝てない。大人しく自首せよ。我が皇帝は無能でも、我が王は寛大なお方だ。」
邪眼を内部に入れるというのだろうか、そんなことをすれば国がいつ滅んでもおかしくはない。
「残念ですが、そうもいきません。わたくしにも仕えるべく王が居ります。」
邪眼を発動させ、目の前にいるクーラを『目殺』すれば、遠くにいたクーラ本体が刀を握りしめてゆっくりと向かう。
「ならば、ここでとどめを刺すまで………」
重症を負った『邪眼の姫』に戦える力は無い。レイラは物陰に隠れて腹部を抑え込むも、口から流れ出す血は止まらない。吐血、その時に出て来る咳を我慢し、音を押し殺す。苦しい。
「ゴッホ!!」
耐えきれずに声を挙げる。吐き出される血、治癒魔法を何とかかけるものの、危篤状態ではそんな余裕もなく、ついに意識を失う。だが、クーラの通信機がちょうど鳴り響くのだ。
「緊急通報だと!!?」
冗談ではない。邪眼を野放しにしろとでも言うのだろうか、クーラはやむなく通信を接続する。
「こちらクーラ少将、只今、邪眼と交戦中―――な!!? しかし、邪眼の姫はもう!!………わかりました。至急、現地へと向かいます………」
皇帝の勅命がベルーラに、それから、クーラへと伝達される。勅命から背けば、国賊と呼ばれることになる。皇帝が語る『義』は絶対だ。
「この時代を生き抜くには今の皇帝らではどうしようもないな………」
クーラは自身の体を雷のごとく輝かせ、光の速さで現地へと向かう。その時の。感情は冷静なクーラでもコントロールすることができなかった。その怒りがクーラの力を解放させる。
「ユリエル!!」
唯がユリエルを庇おうとする。それはユリエルにとっては都合が悪くなる。ユリエルの光は触れたものを反射し、反射できないものは消滅してしまう。恐ろしい光魔術である。しかし、唯が庇おうとする以上、その光魔術を使うことができない。下手すれば、唯が消滅してしまう。唯がユリエルを突き飛ばそうとした時、なぜか、唯も一緒に突き飛ばされたのである。二人はそのまま構造物に激突し、一つのオフィスビルが倒壊した。
「へぇ~、あれがユリエルの光と闇の能力か………」
どうやら二人は無傷らしい。光は『反射』と『消滅』を司るが、闇は『吸収』と『変換』を司る。唯が突き飛ばすエネルギーを変換させ、高層ビルに激突、その時の衝撃は魔力として吸収させたのだ。
「おいおい、獄道 沙伊治に綾崎 真理、それだけでなくユリエルまで現れちまったぜ!!?」
街中は既に大騒ぎ、そんなとき、空から光の柱が一筋走ったと思えば、雷鳴のごとくクーラが現れる。着地した地面は轟音と共に大地が割れ、瓦礫が飛び散るもクーラの力で地面が元に戻って行く。まるで何事もなかったかのように、しかし、クーラの表情からは読み取れない怒りが、声となって溢れ出る。
「この国から出て行ってもらおうか、こちらとしては、住民の安全を保障しなければならない。」
一見穏やかではあるが、流石の沙伊治もこの時だけは冷静になってしまう。クーラの要求を素直に聞く連中ではないだろう。だが、敢えて言うならば、クーラが自分の要求だけで満足するとは思えない。話しを素直に聞きそうになかったのは、クーラの方であった。
「くっく、くっくっく、あっはっはっはっは!」
緊迫を破ったのは獄道 沙伊治、それを見ている唯がユリエルの服をぎゅっと握りしめる。次の瞬間、沙伊治と唯に引っ張られるユリエル、三人がその場から逃れたのだ。
「しまった!!」
飢えた『クーラ』の目の前に、絶対両断刀が置かれたのだ。取り残された綾崎 真理、標的が容赦なく切り替わる。任務は市民の安全、しかし、国民に被害を加えないユリエル、善人以外を殺す沙伊治、そして、クーラは警察ではなく『騎士』。
『ベルーラ国家騎士団少将クーラは騎士であって警察ではない!! 綾瀬 真理、覚悟しろ!!』
クーラが一直線に突っ込めばくるくるとその横を回る真理、そのまま後ろを取ればクーラを切り裂く、しかし、絶対両断刀に勝ち目はなかった。遺伝子操作をして斬られた数だけクーラが増えるばかり、状況は良くなるどころか悪くなる一方だ。ボロボロになった真理にクーラが言う。
「降伏しろ。我が王は皇帝と違って悪意はない。丁重にもてなすことを約束しよう。」
追い詰められた真理、降伏を突き付けるクーラ、絶体絶命の真理の表情に浮かぶのは笑みだ。
「あっはっはっはっはっはっは!! あんたは命令される人間なのよ!!」
真理が突然笑いだせば、立場が違うと言い張る。それもそのはず、真理は住宅街へと逃げ込み子供を人質に取ったのだ。
「さぁ、背中を向けて分身を消しな!!」
そう言って子供の耳を切り落とす。それと同時に悲鳴が鳴り響く中、クーラに選択の余地はなかった。
「わかった!! 言うとおりにするわ!!」
そう言って背中を向ければ分身も消した。それを確認すれば真理がクーラを背後から切り刻む、そして、人質の子供も串刺しにしてその場から離れる。クーラが地震を再生した後で、急いで子供も再生させる。二人が元通りに戻った時、綾瀬 真理の姿は見えなくなっていた。
「………逃がしたか………」
そこへ、レシカ中将が現れる。
「マグカップ直して欲しいんだけど、酷く疲れた顔してない? 大丈夫?」
クーラはレシカ中将の顔を見て安心しきったような表情をして崩れ落ちる。
「ちょ!!? 私のマグカップは? ね、ねぇ、あ~~~~もぉ~~~~!!」
レシカの存在、それ以外にも何かを感じる。その黒い影、ナイフをそっとしまって男が言う。
「姉さん。暗殺は失敗、歴史修正の心配もないだろう。ここで俺の任務は終了だ。」
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