第十話 皇帝陛下、天啓の幻
神聖なる聖地に災害は存在しない。結界、そういう風に言われているが、それは表現に過ぎず、これもロジックに過ぎない。鳥居の門を潜れば参道が続く、その奥に一人の巫女が水巻をしている。彼女の名をアルセーネと呼ばれ、様々な噂が流れている。
「アルセーネ巫女、皇帝陛下がお見えになられました。」
「皇帝陛下が?」
巫女が持つ能力、『神通力』、それを用いて神の言葉を授かりに来たのだろう。しかし、アルセーネは巫女の姿をしているが、巫女ではない。それでも任されているのには理由がある。しかし、皇帝陛下は待ってくれない。
「皇帝陛下が直々に参られて恐縮です。急なお越しとは言え、持て成すこともできず、失礼いたします。」
アルセーネが深々と頭を下げれば皇帝陛下が頭を上げるようにいう。
「急にお越しいたしましたのでどうぞお構いなく、それよりも、神の御言葉をお聞かせください。」
アルセーネが巫女を任される理由、彼女は人を超えた存在、超人と呼ばれている。神の言葉が聞けるわけではない。天文くらいは理解している程度だ。決まりとはいえ、儀式を行った後でそれを伝える。アルセーネが儀式を終えると突然、倒れ込んでしまったのだ。皇帝陛下が何事かと思うと、アルセーネは苦しそうにして皇帝陛下にこう言われるのだ。
「どうか、お人払いをお願いいたします。」
皇帝陛下はアルセーネの言う通り、人払いをした。二人だけになってからアルセーネが覚悟を決めて神の御言葉を告げる。
「邪眼と戦う皇帝陛下の姿が見えました。この運命は避けられるものではないでしょう。」
アルセーネの声に皇帝陛下が驚いた。
「朕が邪眼と!?」
もう残された時間は残されていない。余命幾許、皇帝陛下の天命も尽きるとのこと、何か方法はないのか、アルセーネが一つの方法を皇帝陛下に伝える。
「邪眼を攻略できる人物が一人おります。」
皇帝陛下がそれは誰かと尋ねればアルセーネが答える。
「獄道 沙伊治(ごくどう さいち)です………」
権力も地位も関係なくなる時があるとすれば、皇帝陛下の命に関わる時、誠の皇帝陛下ならそんな時ではないだろう。国民のために皇帝陛下としての使命を全うする。邪眼がアルテリア共和国を滅ぼす、国の存亡がかかっているとなれば皇帝陛下も決断の刻、皇帝陛下が国のために罪人に頭を下げることは、果たして、不名誉なことなのだろうか、皇帝陛下がアルセーネにいう。
「人払いした理由はこれか、流石はアルセーネ巫女だ。」
アルセーネは何も言わない。皇帝陛下の決断を待つ、決断するかしないかは皇帝次第、国のために命を賭けるか、全てを投げ出して逃げ出すか、さて、どうする。
「沙伊治、その刀はどうするの?」
沙伊治が持っている絶対両断刀、ホテル員の者にこんなことを言う。選択肢というものも様々だ。命を賭けるか、相手に甘い蜜を差し出すか、人が葛藤を起こす選択とは、命を賭ける時と、こういう時だろう。
『この絶対両断刀でこの俺を出入り自由にしてくれないか?』
ホテル員は目の色を変えてしまう。目の前で起きていること、その意味を理解することはできている。
『さて、どうする?』
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