第十一話 永遠の才と短命の才
物事には始まりがあれば、終わりがあるだろう。それを見て来た者が居るとすれば、セシリ・アルセーネただ一人だろう。宇宙の歴史では、古の惑星、地球、その星で生まれ育ったアルセーネならば………
「太陽が寿命を迎え、爆発する。私はこれから地球の外で干しの誕生を待つとしよう。」
そんなアルセーネでも知らないことはある。
「まただ、また私はこの謎に触れることができなかった………」
ピラミッドなどの遺跡、そういったものが必ず存在した。星が一生を終え、爆発し、新たな星が生まれる。アルセーネが星に着陸する時、古い時代に考えられないような遺跡が必ず存在するのだ。
「20トンもある岩を3分で運び設置する。現代でもn不可能な作業内容、運搬方法は岩に木材を置いて人力で引っ張る。20トンと言えば、車20台分の重量、それを乗せても壊れない木材、そんなものがあったとしても、それを3分間で運んで設置までする。そして、なぜか三か所ほど温度が違う。忘れ去られた古代兵器が眠っているなどとも言われているが、謎に包まれているままだ。」
遺跡探索を終えた後で旅をし、この神社に落ち着いているのである。
「アルベドを倒した後でなら相手になってやるさ。」
お茶を啜った後で獄道 沙伊治(ごくどう さいぢ)が返答する。アルセーネの答えはただ一つ、今すぐこの場で戦うこと、これに限る。
「今すぐ、この五月雨 花梨(さみだれ かりん)と戦っていただきます。」
沙伊治が観念したかのように言う。
「俺は後何回戦えるんだ?」
そう、普通の人間とは違い、突然変異体(ミオスタチン)である沙伊治の寿命は短命と医師に言われ、戦えるのも限りがある。
「あと一回だけでしょうね。」
アルセーネが答える。短命でありながら、数々の能力者を相手に死闘を繰り広げることもなく、余裕を残して勝利を収める。その理由は短命故、自信の体を庇ってのこと、沙伊治の希望はこれだ。
「どうせなら、俺はセシリ・アルセーネと戦いたいものだな………」
素直な希望にはさすがのアルセーネもフッと笑ってしまう。沙伊治もまた同じく笑う。唯ではなく、俺の方に興味を持つということに、沙伊治は笑ったのだろう。
「そんな、ユリエル………」
完全無欠の能力者と言われるユリエルの腹部に、拳を深々と突き付ける火奈の姿は、レシカの脳に衝撃を与えた。近付けば消滅する。或いは、反射し自身に攻撃が返ってくる。力の吸収、変換でノーダメージ、それらすべてを覆す。それをやってのけるのだ。
「丁度、良く首輪も付いてるんだ。じゃあ、あたしのペットとして、可愛がってあげないとね!」
レシカが我を忘れてユリエルを取り返さんと襲い掛かる。しかし、火奈の炎の前にユリエルを取り返すことはできない。迎撃されるだけだ。
「次来てくれたら、お前は殺してやるよ。ユリエルと一緒にね。それまでは手荒なことはしないでおいてやるよ。」
レシカはブラックカードで帰還するも、俯いたまま突っ立っているだけ、その様子は、怒りでもあり、悲しみでもある。たまたまそこを通りかかった者が居る。これぞ、浅川 唯(あさかわ ゆい)だ。
「レシカ中将………ユリエルは? 何かあったの!!?」
レシカは唯に泣きつき、一部始終を話すのだ。それを聞いて唯がレシカの頭を撫で、ブラックカードを取ればゲートキーパーを召喚した。
「レシカ中将、後でここにクーラ少将が来るから、このカードは持っててくださいね。私、ユリエルには恩があるので、助けに行ってきます。」
レシカ中将が引き留めるも唯の決心は変わらず、ユリエルのために行く、その発言がレシカの引き留める手を緩めた。ゲートキーパーが唯に確認したいことがあるそうだ。
「カードが無ければ買えることができなくなる。本当に行くのか?」
レシカの手を振りほどき、こう答える。
「アルベドはこの私に倒される。アルベドが私から逃げてるのかしら?」
その挑発が裏世界を大きく振動させた。アルベドの耳に入らないわけがない。
「ふ、ふふっ、案外簡単に出てきてくれるのね。所詮はロジックに過ぎないわ。」
唯の挑発は果たして虚勢か、護身用に持ってきた小太刀、それを引き抜きアルベドの前に立つ、相手は全知全能、唯の体が震えて止まらない。
「この俺に立ち向かう勇気だけは褒めて置こう。だが、お前は大きなミスを犯した。よって、ここで殺す!!」
アルベドが唯の腕を操る。木立を握っている腕がひとりでに動くのだ。左腕が瞬時に反応し、握っていた鞘を投げ捨て右腕を止める。しかし、力負け、唯は自害するだけでしかなかったのだ。
「くだらん………」
普通の人間が全知全能と戦えば、無力のまま終わるのは当然、唯が勝つことなどできるはずがない。いや、誰一人として勝つことなどできないだろう。
「やれやれ、やっと私の出番が来たか………」
唯の髪の毛が緑色に変色し毛先は真っ白になる。アルベドやアルセーネの知らない世界で生き抜いてきた者が居るとすれば、古代文明に生きる者達だろう。唯の体も成長し、大人になってしまう。胸に突き刺さる小太刀は引き抜かれて再生、血の色は透明、透明の血液を見てアルベドが何かを理解する。『短命の才が沙伊治だけでなく、ここにも存在した』ということだ。
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