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「完全版 カスタマーサクセス実行戦略」出版にあたって

こんにちは、山田ひさのりです。2023年10月29日頃に私が執筆した書籍「完全版 カスタマーサクセス実行戦略」がAmazonで販売開始されました。以前の版である「増補改訂版 カスタマーサクセス実行戦略」が発売されたのが2021年11月25日なので、約2年ぶりの新刊となります。2023年10月30日時点ではオンディマンド(ペーパーバック)版しか発売されていませんが、そのうち電子版(Kindle版)も出るでしょう。

まず、本書籍の出版にあたってご協力いただいた多くの方々に感謝の意を表明します。翔泳社編集担当の京部様、校正担当の山本様、そしてCOOLな挿絵と表紙をデザインしてくれたメンドリリョウ、本当にありがとうございます。

一般的には、書籍発売する際には著名な方からエンドースメントをいただいたり、出版イベントをしたりといろいろやるらしいのですが、よく考えたらこれまで書籍出版に当たって宣伝らしい宣伝もしてこなかったので、せめてNOTEでも書いて、「どのような思いで本書籍の執筆をしたか」を皆さんに紹介したいと思い至りました。いつものカスタマーサクセス解説記事ではないので、インサイトらしいインサイトは全くありませんが、単なる読み物として楽しんでいただければ幸いです。

「完全版」になって何が変わったのか?

本書の初版が出版されたのが2020年7月15日なのですが、それと今回の完全版を比較すると、実に6~7割の内容が変更されています。これは2018年に始まった国内のカスタマーサクセスムーブメントとその後の進化に関係しており、版を重ねるごとにその中身を時代に即した内容にアップデートしてきた結果です。

以下に、以前の増補改訂版と今回の完全版の目次を掲載しました。

完全版の目次(2023年)
増補改訂版の目次(2021年)

以降、主な違いを説明します。

1.「おわりに」まのでページ数が、164→254にアップ

最大の違いはページ数が大幅に増えたことでしょう。今まで、一部の読者からは「薄くて読みやすい」と好評でしたが、ここにきてそうとも言えなくなってきました笑

2.インタビュー部分の全カット

次の大きな変更が、インタビュー部分の全カットです。実は今回の完全版では対談記事を刷新する予定だったのですが、本編を気合い入れて書いていたら、それだけでページ数が多くなりすぎてしまい、編集の方から「ページ数が多くなりすぎるので対談はカットしてもらえませんか」というお願いをされ、泣く泣くカットしました。

ページ数はそのまま書籍の価格に直結します。価格が高い書籍は気軽に手に取ってもらえなくなるので、出版社はなるべくリーズナブルな価格で、内容の詰まった書籍を出す努力をされています。ちなみに今回の完全版の価格は3300円で、前回の増補改訂版が2200円です。

3.第五章(CS周辺組織)のタイトルを変更

第五章のタイトルを、「カスタマーサクセスのこれから」を「カスタマーサクセスを支える、さまざまな組織」に変更したのも大きなポイントです。2020年頃まで、カスタマーサクセスといえばカスタマーサクセスマネージャーのことを指すことが多かったのですが、昨今はCSにさまざまなユニットやロールが存在しますので、その部分の説明を強化しました。

4.第二章(戦略論)と第四章(組織論)の節を大幅に追加

この部分は勉強会や講演会でも良く聞かれることなので、皆さんが普段疑問に思いやすい部分をしっかりと説明することに努めました。増補改訂までは、オンボーディングのことをメインで書いていましたが、それ以外にもリニューアルマネジメント、エクスパンション、アドプションを加えて、主だったライフサイクルはすべて網羅しました。
この章でもっとも力を入れたのは、ヘルススコアの節です。ヘルススコアはその構築の難しさから、デザイン・運用できる人材がほとんどいないことが問題視されています。今回、完全版にはヘルススコアをデザイン・運用できるようになるためのHOW TOをふんだんに盛り込みました。私の全ノウハウと言っても過言ではないので、ぜひ見てほしい節です。

組織論については、Sansanの事例だけでなく、一般的なカスタマーサクセス組織に適用できように、必要なファンクションをユニット単位で説明しています。このようにすることで、「必要なCSユニット」と「自組織でそれをどう実現するか」を分離して考えられるようになっています。

「完全版」の内容は何に基づいているのか?

増補改訂版までに書いてある内容は、主に私のSansan時代の経験がもとになっています。そしてこの版が出版された2021年頃、私はSansanのCS顧問を務める傍ら、新たにsasket LLC(合同会社サスケット)を立ち上げてカスタマーサクセスコンサルティングを生業とし始めました。

今回の完全版では、私がさまざまなクライアントにご依頼をいただき、その過程で顧客から出てきた課題や解決策について(それを抽象化した上で)ふんだんに投入しています。これはSansanというSaaSベンダー一社に勤めていただけでは得られなかった経験であり、広い世界に出てさまざまな問題・課題に直面したことが私の視野を広げ、かつ同書籍に反映されています。その意味では私を鍛えてくださったクライアントの方々に感謝しかありません。

私がカスタマーサクセス界隈で有名になったきっかけの一つに、ALL STAR SAAS FUNDが主催した「CS集中講座」の講師を務めたことがあります。同講座は、2023年冬~春にかけて開催された全5回の講座ですが、事前登録ベースで約1500名に登録いただきました。これには私もびっくりで、主催者側から「ちょっとした会社イベントよりも集客できていますね笑」といわれました。

開催にあたっては、「カスタマーサクセス実行戦略」の内容をベースとして、sasket LLC立ち上げ後に私が得たCSノウハウをふんだんに投下しました。そしてそのときの内容が今回の完全版のベースになっているのです。

なぜ同じ書籍を刷新し続けるのか?

最近、カスタマーサクセス関連の書籍も増えてきましたが、同時に、以前出版された代表的な書籍の一部の内容はすでに古くなりつつあります。カスタマーサクセスに限りませんが、新たな概念や思想の進化は日進月歩です。カスタマーサクセスは比較的新しい考え方ということもあり、日々社会のどこかで試行錯誤が行われています。

これについて行くには、

  • SNSで感度が高い人の発言や執筆した記事やをチェックする

  • 関連する勉強会に参加して情報収集する

などの方法が考えられますが、知識を習得したい人が専門のフィールドに飛び込んで情報収集するのは労力がかかります。新参者は、まずそのような情報をどう探していいかもわからず、誰のどの情報を信じていいかもわからないものです。

そんな時に頼りになるのはやはり書籍です。出版して店頭(もしくはネット)に並んでいる書籍は何らかの狙いがあって世の中に出ており、かつそれを作るために投下したコストを回収できるように考えられています。そしてその過程の中で、世の中に支持されるだけの質と深さを持った内容へと磨き上げられていきます。

情報収集したい人たちは、このような洗礼を潜り抜けた「書籍」を一定の信頼感持ったうえで情報ソースとして選択します。それが出版の現在地点だと私は考えています。(今後どう変化するかはわかりませんが…)
そのような意味で、私が知り得た情報をネット記事だけでなく、今回のように書籍として出すことは大変意味があると考えています。実際、私の書籍を読んで、カスタマーサクセスの基本を勉強したり、CS組織構築の基礎検討に使用されたりする人は多いようです。このエピソードこそ、まさに書籍の有効性を指しているといっても良いのではないでしょうか。

ネット記事に意味がないといっているわけではないです。私もよくネットメディアに寄稿をします。ただ、新参者が体系的に何かを学習しようとしたした場合、信頼に足る書籍はやはり強い味方だと思います。

POD出版で出している理由

「カスタマーサクセス実行戦略の初版」を執筆するにあたり、私は編集担当の方から一冊の書籍を紹介してもらいました。編集の方は「この本ヒット作っていうわけじゃないんですが、ロングセラーなんですよね」と仰られました。今となっては何の本だったかすら忘れてしまったのですが、確か介護業界や資格の基礎について書かれた本だったと思います。

私は出版の世界について詳しくはありませんが、ビジネス書にも「話題書」と呼ばれるものがあります。それはホットなテーマついて興味をそそる内容を書き、短期間で高い認知を獲得して売上につなげるというジャンルの書籍です。これはこれで一つのビジネス・知識拡散手法なのですが、私は当時、「自分の書籍がそのようなものでいいのかな?」と自問しました。私がやりたかったことは、今後の数十年間のビジネススタンダートになるであろうカスタマーサクセスを正しく実行するための知識を伝えていくことです。つまりは、10年経っても本棚(もしくはebookリーダーのお気に入り)に置かれていなければならないのです。

そう考えると、話題書のようなアプローチではなく、上述した介護関係の書籍のように、「派手ではないが、細く長く売れ続ける」ことが重要であると考えました。そしてその内容は普遍的なものであるか、常に最新の情報にアップデートされるべきだと思ったのです。その結果、(出版社の勧めもあり)連続的に出版したとしてもビジネスとして成立しやすい、AmazonのPOD出版を選択することにしたのです。

本を出される方の中には、マテリアルとして書籍に並ぶことを重要視されている人もいます。実は私もそうで、私のプライドが書店に並ばないPODで出版することに拒絶しかけたこともありました。「書店に並んだ方がほうが『出会い』があるので、広く見てもらうにはそのほうがいいのでは?」と自問しましたし、何より周りに自慢できると思ったからです。

しかし、現代ではカスタマーサクセスに従事されるような方々の多くは、ファーストコンタクトとしてネットで書籍を検索され、積極的に書店に行かない傾向もみられます(私もそうです)。自身の変なプライドを優先させるよりも、初期コストが低く、ビジネスとして持続性があるPOD出版を選択したほうが長期目線で私の希望を叶えてくれると思い至りました。

ただ、編集者の方によると、多くのPODはあまり売れていないそうです。その理由は、「『POD出版だと気軽に著者になれる』という考え方だけでこの出版形態をとられる方が多く、その多くは書籍としての質と量を満たしておらず、結果売れない」となるからだそうです。

「CS実行戦略」の今後と、私の密かな夢

今回の書籍には「完全版」という修飾子が冠されています。完全版というからには「これ以上修正すべきところはありません」という意図が垣間見れますが実際にはそうではないでしょう。カスタマーサクセスはこれからも進化しますし、私も書きたいことがどんどんと出てくると思います。

しかし、今回は編集の方の勧めもあり、あえて完全版の名を冠することにしました。その理由は以下です。

  • カスタマーサクセス初心者にレクチャーするに足る十分な内容を盛り込めたこと

  • すでにデファクトスタンダードとなったプラクティスの多くは、3~5年では普遍的であること

よりカスタマーサクセスを深めて事業収益につなげようとした場合、さらなる研鑽が必要なことはいうまでもありませんが、CSの入口をガイドする書籍としてはある程度の完成をみたかなと思っています。

足掛け4年に渡った私の執筆活動もこれで一旦終了します。そして今後も、自社のCSコンサルティングや自己研究を続け、その研究成果をネット上で発信し続けると思います。そしてそれらのノウハウが蓄積され、私自身が「あらためて世に発信したほうがいい」と考えたときに、再度書籍化を検討するかもしれません。

実は私には密かな夢があります。それは私の書籍「カスタマーサクセス実行戦略」を英訳して海外で出版することです。「海外とはどの範囲なんだ?」とか「さっさとやればいいじゃん」とかいろいろ考えてしまいますが、今は思いつきレベルであり、実現するための方法をきちんと調べていませんし、現出版社に相談すらしていません。

ただ、私がGainsightの世界的なカスタマーサクセスイベント「Pulse(パルス)」に何度か参加して思うのは、「日本のカスタマーサクセスも海外に負けていない」ということです。そして、僭越ながら私の書籍もその一部を担っており、国内カスタマーサクセスのエッセンシャルな部分でもあります。

私はいつか自書を海外出版し、海外のカスタマーサクセスカンファレンスに招待され、そこで登壇するという密かな野望を抱いています。DXが急ピッチで進められ、大きなマーケットが存在する日本という国にも、こんな素晴らしいカスタマーサクセスプラクティスが存在している、それを世界に知らしめることで、私が大好きな日本に恩返しができたらなと思っています。そのために苦手な英語も勉強します笑

私の確立したカスタマーサクセスプラクティスはドメスティック市場を前提としたものなので、その内容がそのまま海外に適用できるかはわかりません。ただ、日本に進出してくる海外のSaaSベンダーなどには確実に有効だと思っています。

まだ何もなし得ていない時点でこんなことをいうのはおこがましいな…とも思ったのですが、今回あえてそれを文章にしたのは、私のこの考えに賛同し、応援してくれる人が現れるかもしれないと思ったからです。じっと私の心の中に留めておくだけではそれもままなりません。人生においてなし得たいことがあるなら、それを表明してみることもまた良しです。それが叶おうが叶うまいが、他人にとってはそこまで関心はありません。だったら表明したほうがいいかなと思ってそうしました。

私はこの夢に向かって今後もさまざまなことを仕掛けようと思っています。似たような話で、先日「プロフェッショナルサービスとは?」というテーマで、カスタマーサクセスの無償・有償支援実体を調査しました。その過程で、X(旧ツイッター)で多種多様なITベンダーにインタビューイの募集を行いましたが、十数名の方が「協力します」との声を上げてくださいました。

インタビューイ募集のPOST

ご協力いただいた方に「なぜ今回、協力承諾いただけたのですか?」と尋ねたところ、「山田さんにはいつも教えてもらっているので、何か恩返しできればと思いました」とのご回答をいただきました。本当にありがたいと思うと同時に、皆さんのこういったご協力こそが、日本のカスタマーサクセスを私を通して進化させているという確信を持ちました。皆さん、今後も私とともに社会のアップデートに挑みましょう。

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