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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』19

2、丘の上のバラ姉弟

小高い丘を登るにつれて、
風に乗って心地よい香りが流れてきた。
ココロンとイナモン、他の従者たちは、
それが国花である
バラの香りであることに気がつく。

ローズシティ連盟の首都と五大都市は、
それぞれ色違いのバラを象徴としている。

首都オルドローズのバラは赤色、
西のアルバボンは茶色。
この都市、モダローズは白色である。
その他、首都から見て
北西にあるモスミルコは緑、
東のガリカシスは紫、
そして港のあるダマクワスは
黒バラであった。

…この白バラの街に合わせて、
「白バラの庭」があるのかと、
イナモンは思った。

しかし、その予想は外れる。

目の前には六色どころではない、
まさに「百花繚乱」とも言うべき、
色とりどりのバラが咲き乱れていたのだ。

ココロンが嘆声を上げた。
これほどの見事なバラ園を、
彼女は今までに見たことがない。

…その花々の間に、一人の女性が立っている。
端麗な顔立ちが、ちらりと見えた。
見覚えのある顔だった。

しかし、見覚えのない服装…。

ココロンとイナモンは、同時に違和感を覚えた。
彼らの記憶の姿では、彼女は、
赤く艶やかな服を着こなす貴婦人だった。
しかし目の前にいる女性は、
青い園芸服に身を包み、一心不乱に
バラの手入れをしている。
腰まで垂れた琥珀色の髪が束ねられて、
馬のしっぽのように風にそよいでいた。

「ミシェルさん、お待たせしました。
ココロン姫をお連れいたしましたぞ!」

坊主頭の教育係が声をかける。
しかし、彼女はちらっとこちらを見て、
軽く会釈をしただけで、
すぐに作業を再開した。

…あ、あれ?と、一行の全員が思った。

仮にもこちらは姫君と大貴族の当主。
賓客中の賓客、言わば
「お偉いさん」がわざわざ来たようなものだ。
それなのに、この素っ気ない対応とは。
もしや、来るべき日時を間違えたか?

「…無理ですよ、イナモン様。
バラをお手入れしている最中のご主人様は、
雨が降ろうが槍が降ろうが、
ご自分の作業に集中されておられますから」

「主人ミシェルに代わり、
皆様にご無礼をお詫び申し上げます。
ココロン様、イナモン様、それに皆様方、
よくぞ当館においで下さいました!
私たちがご案内いたしますわ」

黄色の髪を持つ、よく似た顔立ち。
二人の男女が建物の陰から出てきて、
一行に丁寧に無礼を謝した。

ココロンとイナモンは、
彼らをすでに知っている。
ただし、ココロンは一度会っただけであり、
詳しい素性は知らなかった。

イナモンが嬉しそうに言った。

「久しぶりだな、スタンとロッカ。
…ずいぶんと、背が伸びたな!
うむ、どうやらお前たちのご主人様は、
研究や手入れ中には、
バラしか目に入らなくなるらしいな。
さすがはこの国随一の調香師だ。
噂には聞いていたが、これほどまでとは…」

「…イナモン卿、彼らは?
いや、待て、一度会ったことがあるな。
そうじゃ、三年前の特別試合。
一塁と三塁の走塁コーチとして、
働いてくれた者だったか…」

「改めて紹介いたしましょう。
姫の姉君と兄君の小間使いを務めます、
ジス・スタンと、
トゥモ・ロッカでございます。
短髪が弟のスタンで、おさげが姉のロッカ。
双子ですぞ」

「またお会いできて
嬉しゅうございます、ココロン姫!」

「どうぞよろしくお願い申し上げます!」

二人は勢いよく挨拶しつつ、
ひざまずいて礼をする。
ココロンも、優雅に礼を返した。

「さあ、ランプ様がお待ちかねです。
館の中へ、どうぞお入り下さいませ」

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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