長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』46
その後、カフィーは、本国から
ローズシティ連盟に出張して、
この地の商館長となる。
本来、その役に収まるべき者が
変死を遂げたため、
彼女にお鉢が回ってきたのだ。
ククアもそれに随行した。
この寡黙な従者は、
カフィーの手足として働き、
陰から彼女の事業を助けた。
情報管理は徹底され、口の軽い職員は
「いつの間にか」職場からいなくなった。
「新しい商館長には逆らうな。
秘密厳守、絶対服従だぞ。逆らったら…」
カルダモン商会の者は、
そこまでで決まって口をつぐむ。
批判めいたことを口にして、この世から
いなくなりたくはなかったからだ。
こうして、カフィーが率いる
カルダモン商会は、
ローズシティ連盟全土へと
その販売網を広げていく。
マカロン商会が日の光を浴びる
「陽」の商会とすれば、
カルダモン商会は闇にうごめく
「陰」の商会、だと言えよう。
…カフィーはククアの背中を見届けると、
机の上に並べたトランプを見た。
そのトランプのうち、
ダイヤの十三枚に、
ローズシティ連盟と
ピノグリア大公国の主要人物の名前が
ずらりと書かれている。
エースのカードはココロン姫。
キングはイッケハマル盟王。
クイーンにはパンナ姫、
ジャックにはリーブル王子の
名前が書いてあった。
彼女は、ダイヤの十の札を拾い上げる。
そこに書いてあったのは、
シャー・ルドネ大公。
「まず、一人」
ココロンとリーブルが結婚して、
二つの国が一つになる。
…そんな未来は、カルダモン商会にとって
望むべきものではない。
何としてでも止めなければならない。
イナモンとランプが推測したように、
カルダモン商会は
両国の統一を妨害していた。
なぜなら、競合するマカロン商会が
盟王と組み、統一を推進しているからだ。
もう一つの競合相手、ニューグリーン商会は、
ピノグリア大公と手を結んでいる。
もし統一が成れば、マカロン商会と
ニューグリーン商会が優遇されてしまう。
そうならぬよう、仲を引き裂く。
…貿易事業で実績を積んで、
華々しく本国に凱旋するのだ。
出世の跳躍台に乗って、
ライバルたちを蹴散らしていってやろう。
本国でぬくぬくと、
事業を部下任せにして
派閥抗争にうつつを抜かしている
ライバルたちを追い抜き、
商会の当主、会長の座をつかむ!
そんなカフィーの野望を
成就するためには、
二つの国にいがみ合って
もらわなければならないのだ。
トップの二人、イッケハマル盟王と
ルドネ大公を害するのが、
最も手っ取り早い。
ただ、盟王は神出鬼没で動きがつかめず、
暗殺するめどが立たない。
彼女はルドネ大公に狙いを定めて、
刺客のククアを
ピノグリア大公国に向かわせたのだ。
さすがに宮殿に忍び込むのには
時間がかかったようだが、
彼女は見事に成し遂げた。
…だが、ルドネ大公には、
リーブルとパンナという
優れた王子と姫がいる。
彼を亡き者にしたところで、
彼らがすんなりと後を継ぎ、
統一事業が加速してしまっては
目も当てられない。
だからこそ彼女は、ククアに
「大公の命までは獲るな」と厳命したのだ。
「急に上に立たざるを得なくなった
リーブルは、国内をまとめるのに
苦労するでしょう。
まだ大公は死んでいないからね。
しばらくは、家臣たちを
掌握するために混乱が起きるはず。
その間に、今度は
ローズシティ連盟のほうを
かき乱しておきましょう…」
残る札をどう狙うべきか。
使えるカードはどれなのか?
彼女は残りの珈琲を少しずつ味わいながら、
自らの謀略に想いを巡らせている。
大公シャー・ルドネが
曲者に襲われたことは、秘密にされた。
リーブルとパンナが、
首都ロマコンティの近臣たちに
箝口令を敷いたのである。
「大公は軽い体調不良で
公務をお休みになる。
当面の間、王子のリーブルが
政務を代行する」。
そのように説明がなされた。
だが、ローズシティ連盟の
首都オルドローズにおいて、
この隠された事実を
いち早くつかんだ者がいる。
マース・チャンバであった。
「…ルドネ大公が襲われた、だと?」
「さようでございます、チャンバ様。
ココロン姫が、すぐにあなた様に
知らせるようにと、
私をこちらに向かわせたのでございます」
彼に知らせたのはロッカだった。
姫の教育係として同行していた彼女は、
ココロン姫の指示により、
馬を駆ってチャンバの家へと
馳せ参じたのだった。
急ぎ陛下に知らせよ、
もし陛下がいらっしゃらなければ、
秘密裏にチャンバ卿に知らせよ…。
そのように彼女は指示されていた。
現在、盟王が不在だったため、
こうしてチャンバに知らせに来たのだ。
「盟王陛下は、いずこに
いらっしゃるのでしょうか?」
ロッカが聞くと、
チャンバは少し難しい顔をする。
「うむ。事情これあり、
遠出をなさっておられるのだ。
陛下には、わしのほうから
知らせておこう。
さて、ロッカ、
足労をかけてすまぬが、
お主に至急の頼みがある」
「何なりとお申し付け下さいませ!」
「今すぐに出立して、
ピノグリア大公国の港町、
ボジョンヌへと向かうのだ」
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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか
◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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