見出し画像

長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』40

「いや、違う。
上になんて、立たなくてもいいのさ」

そう言うとランプは立ち上がり、
広間の中央に向かって歩き出した。
ぐるりと四方を見渡して、
ランプはロッカに問いかける。

「ジッグラト・スペアリブ・スタンス。
お前の弟、スタンの名前の由来となった、
『四つの領域』の話を思い出してみるといい。
ジグソーとピラミッド。
スペアとアドリブ。

さて、ロッカは今、どこに立っている?
対等な関係か、それとも上下の関係か。
代替の利く立場か、
かけがえのない即興で動く立場なのか。

正直に言え。
今、自分のことをどう思っている?」

聞かれたロッカは、素直に答えた。

「私はミシェル様と
ランプ様の小間使いです。
弟のスタンもいますから、
いくらでも替えの利く存在です。
ピラミッドの下、スペアの利く立場。
つまり『ピラティス』の領域かと…」

ミシェルが席から立ち上がると、
ゆっくりと北東の絨毯に歩いていった。

「そうね。でも、そろそろ、
その領域から一歩踏み出してみる
時期じゃないかしら?

ただ、いきなり対等な関係になって、
かつ、即興で動くのは難しいでしょう。
まずは上下関係を忘れて、
対等な関係になることだけを考えなさい。
そう、ジャスパーの領域に行くのよ」

ロッカは、少し考える素振りを見せたが、
何かをひらめいた表情になった。

「…私は、姫様と対等な関係、
お話の相手、
そういった存在になれば良い、と?」

ランプがうなずいて、彼女を諭した。

「そうさ。あのお姫様は今まで、
野球部という
上下関係の中で育ってきただろ。
しかも身分は王族。
無意識にピラミッドのような環境、
考えに染まっている。

チームの中ではたとえ同期ではあっても、
エースで主将という立場上、
上の立場だった。
歴代の教育係、チャンバのじいさんも、
眼鏡坊主の奴も、身分や態度はどうあれ、
姫と対等な関係ではなかっただろう。

イッケハマル、あのおっさんは、
そこを心配しているんだと思う。
ココロンは、これから対等な関係にある
他国の王族たちと渡り合って
いかなければいけないから」

ランプの指摘に、ロッカは素直にうなずく。

「自分の気持ちを素直に明かせる人が
たった一人いるだけで、
気持ちの重圧が全く変わってくるものさ。
教育しようと上に立ったり、
下から仰ぎ見てかしずいたりしなくていい。
個人対個人として、
対等な気持ちで向き合うことを
心がけていれば、それでいいんだ」

ここで、双子の弟のスタンが口を挟む。

「良かったな、姉さん。
この館のことは俺に任せて、
お勤めを果たしてきな!」

しかし、ミシェルとランプは、
顔を見合わせると、
おごそかにこう言ったのである。

「…スタン。実は、あなたにも
別の特命が来ているのよ。
この私たちにも、ね」

「この館の留守番は、
別の人に頼むことにする。
しばらく、俺たち四人は離れ離れさ」

双子も同じように顔を見合わせた。
その時、ちょうど良く、
広間の扉が開く。

「お待たせしました。
オルドローズのバラ館に引き続いて、
こんなに素敵なお店を
お貸ししていただけますとは!
お礼の申しようもございませんわ!」

現れたのは、エーワーン・アズーナ。
イナモンの妹である。

「まあ、絨毯までバラ館と
同じにしてくれているのですね…!
早速、厨房の確認を
したいのですけれども、
よろしいでしょうか?」

一瞬の間を置いて、
双子の小間使いはアズーナを
厨房に案内するために席を立った。
その様子を見ながら、
バラ姉弟は言葉を交わす。

「…あのおっさん、アズーナさんを
この街に派遣して、
レストランの二号店を運営させるつもりだぜ。
新しい都で、彼女の料理が
食べたいだけじゃないのかな?」

「彼女の一流の料理は、
どんな人の心も溶かしてくれるからね。
でも、彼女と離れ離れにさせられて、
モスミルコに派遣されたタスクス卿は
お寂しいでしょうけれど…」

「一世も、ずっと尻に
敷かれっぱなしじゃ大変だろうさ。
たまには羽を伸ばすのもいい」

…場面を現在に戻そう。

ロッカは、ロマコンティの宮殿を歩きながら、
バラ姉弟との会話を思い出していた。

個人対個人として、
対等な気持ちで向き合うことを心がければいい。

ランプの言葉を、心の中で復唱している。
そうだ、姫にそのことをお伝えできるのは、
私しかいないのだ。
そのように自分を鼓舞しながら、
若き教育係は姫とともに
宮殿内を進んでいく。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

次回はこちら↓

前回はこちら↓

よろしければサポートいただけますと、とても嬉しいです。クリエイター活動のために使わせていただきます!