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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』49

第4章:見せないカードを見せる時
1、煙の中の人事師範


ボジョンヌの港は、
首都ロマコンティの東にある。
ピノグリア大公国随一の港だ。

貿易商人たちは今日も
各地から運ばれてきた商品を
運んできては、ここで売る。
新たに買って仕入れる。
少しでも利益が出るように。

都市の洗練の度合では
ローズシティ連盟の
ダマクワスの港に及ばないが、
市場の熱気としては
大きく上回っているほどであった。

「ここでしか買えないワインやで!
珍しいつまみもある。
まとめて買うしかないで!」

「入荷されたばかりの香水、どないでっか!
ローズシティ連盟直輸入の希少品や!」

ピノグリア大公国では、
すべての都市を政府が直接に治めていた。

都市国家同士の「連盟」体制である
南の国とは、そこが違っている。
大公が右と言えば、ボジョンヌの街も右を向く。
その大公の代行を務めている王子、
シャー・リーブルの命令が、この都市に届いた。

「国賓ドグリン・ココロン姫を
しっかりとお守りし、
無事に帰国させるよう命ずる」

現在の最高権力者、大公代行、
リーブルの不興を買ってはならない。
命令を受けた街の代官は、
首都から移動してきた姫の安全を確保するべく、
細心の注意を払っていた。
そのおかげで、ココロンとロッカは、
この街で無事に合流することができている。

ロッカは、姫の警備状況を
一通り確認すると、船着き場へ向かった。

ダマクワスから発したイナモンの書状が、
早船で一足先に届いていた。
今日の午後には、イナモンが自ら、
姫を迎えるために
この街に到着する、という。

「つなぎ」の役目をチャンバから
任された教育係は、
元名将が打つ手の速さと、
その薫陶を受けた元教育係の
行動の速さに舌を巻いた。

「…ダマクワスの港から、
黒バラの旗を掲げた船は
入ってきていませんか?」

「うん、まだ入ってないで。
今日、入るんか?
…そこの上からなら、すぐ見えるで」

港の責任者も、街の代官からの書状を見て、
ロッカを丁重に扱ってくれた。
彼女は港全体を見渡す
物見やぐらに登ると、海へと目を凝らした。
もっとも、まだ昼過ぎだ。
船が着くにはもう少しかかるだろう。

潮風が、彼女の黄色いおさげを揺らした。

「…やぐらの上は、見晴らしがええな。
ええ港やろ? ダマクワスにも負けへんで」

ロッカの背後から、
突然、声が聞こえてきた。
驚いた彼女が振り向くと、
駱駝色の髪の姫がちょうど
物見やぐらの上に登ってきたところであった。

「パンナ様! なぜ、あなたがここに?」

「兄上がな、二人をしっかりと見送るように、
と言って、うちを寄越したんや」

…勝手に見送りに来ただけではないだろうか、
とロッカは思ったが、
この駱駝姫の破天荒ぶりは
すでに知っているので、何も言わずにいる。

盟王陛下にも負けない行動力だ。

「なあ、ロッカ。
父上を傷つけた犯人は、誰なんやろ?」

「…私にはわかりませんが」

「意外と、ローズシティ連盟の手の者かもなあ」

「…え?!」

ロッカは驚いたが、チャンバから
『陛下の覇業に反対する者がいる』
と聞かされていたので、
その可能性もあるな、と考え直す。
ただ、口に出してはこう言った。

「ピノグリア大公国の中にも、
王子と姫のご結婚に
反対する方たちがいるのでは?」

パンナはむきになって否定するかと思ったが、
意外にも視線を外して、うつむいた。
短めの駱駝色の髪が、
ロッカと同じように風になびく。

「そやな。強いて言えば…うちかな?」

ロッカは、パンナの顔を思わず見直した。

「冗談や。もちろん、うちは
父上を斬ったりはせえへんで。
もし王座を狙うにしても、
うちは堂々と狙う。

でも、兄上のことは大好きや。
ココロンのことも、今回、
うちの国に来てくれて、改めてわかった。
うちと同じ歳やけど、
芯のしっかりした、ええ子やと思っとる」

ならば、二人の結婚に
反対することはないのでは…と、
ロッカは思った。
そんな彼女の疑問を読み取ったのか、
大公国の姫は言葉を続ける。

「せやけど、兄上はあんな感じで、
誰にでも優しいんや。
王子という立場上、
政略結婚も受けるつもりやろけど、
内心はどうなんかわからん。

…ココロンも同じや。
兄上と結婚することが
みんなの幸せになるなら…と、
自分の本音を押し隠しとる気がする。

一緒にやったトランプ、あれ、
あの子の全部は見せとらんのやろ?
そこんとこ、どうなんや、教育係?」

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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