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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』11

6、自分からの声掛け

眼下に続く熱戦を見ながら、
チャンバがここまでの試合の概要を
三人に話していた。

「一言で言えば、ココロン姫と
バボン打撃陣との戦いである。
さすがの姫も、三年前のように、
ばったばったと打者たちを
なぎ倒すわけにはいかぬようだ。

あの姫の球は、
普通の捕手にはさばききれん代物。
守備陣も決勝の重圧で
緊張しているのか、落ち着きが無い。
捕手を気遣いつつ、
捕球をできる球を投げながら、
しかも守備陣をまとめながらの戦い。

打撃の柱に、守備の柱か。
二刀流のエースというのも、
なかなか辛いものだ。のう、陛下?」

他人の目がないところでは、
チャンバの口調も気さくになる。
姉弟は、言わば身内。
何の気兼ねも無い。

盟王が答えた。
彼もまた、元「二刀流のエース」である。

「ふん、俺の頃は、
そんなに気遣いもしなかったが。
やりたいようにやれば、
自然と皆がついてきてくれたぞ?
内野にはコブリの奴がいたし、
ベンチには監督がいたからな。

…だが、今にして思えば、
そのように周りがお膳立てを
してくれていたのだ、とも思う」

いつになくしんみりとした口調の
盟王に、ミシェルが話を継ぐ。

「コブリ大将軍は、
昔からのお父様の戦友ですね。
今でも、曲者揃い、異能揃いの
軍勢を率いて、
ローズシティ連盟をしっかりと
外敵から守って下さっていますわ」

ドン・コブリとは、この国の大将軍だ。
背が低い小柄な男、
しかしそのひとにらみは鋭い。

人を食ったところのあるイナモンですら、
きちんと命令に服していた。
人呼んで「小さな大将軍」。
姫の教育係を務めるイナモンの、
元上司でもある。

盟王の覇業を助ける腹心の一人。
盟王も彼には全幅の信頼を置き、
大きな地位と権限を与えているのだ。

「ああ、確かに奴の内野守備は、
超一級品だったな。
困った時には間を取って、
自分から声を掛けてきてくれた。
ああいう選手が一人いると、
投手もとても助かるものだ」

「…ココロンには、
そういう奴がいるのかな?」

皮肉っぽくつぶやいたのは
ランプであった。
盟王は腕組みをして、答えた。

「主将で最上級生、しかも女性だ。
かつ、投打の柱。
他の選手から見れば、かなり
近寄りがたい存在なのかもしれない。

だが、人の力に頼る場面は、この長い人生、
いくらでも出てくるもの。
その時に、自分から進んで
仲間に声を掛けていけるかどうか、
そこが大事だが…」

ちょうど試合は、九回裏まで進んでいた。
マウンド上のココロンが、
くるりと後ろを向いて、
守備陣に声を掛けたところである。

「…全員、悔いを残すな!
思い切り、守れ。責任は、私が取る!」

よく通る声は球場内に響き渡って、
特等席から観戦している
四人の耳にも届いた。

「…どうやら心配ないようですわね」

ミシェルがうなずくと、
ランプも満足そうにうなずく。

「まあ、あの子なら大丈夫さ。
人たらしのおっさんの子どもで、
俺たちの妹、だからな。

しかも美人の名選手と来れば、
青春真っただ中の
同年代の男たちなど、いちころだぜ」

この凸凹姉弟から見てココロン姫は、
異母妹に当たる。

公式に認められた盟王の子どもは四人。
第一王子のセイン。
長女のマオチャ。
第二王子のクランべ。
そして次女で末娘のココロン。

だが、伊達男で色男、
女性に絶大な人気を誇る
イッケハマル盟王には、
他にも子どもがいる。

それがミシェルとランプだった。

セインよりも年上。
ミシェルはこの時、三十三歳で、
イナモンやタスクスと同じ年齢だ。
ランプは二つ下で、三十一歳になっていた。

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
コメント欄にリンクを貼ります。
(全6章のうち、5章まで公開)
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