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適材適所の見本 ~はじめから揃ってたわけじゃない~

1、力と知恵と勇気

『ゼルダの伝説』という、有名なゲームがあります。続編も次々と作られています。最初はファミコン(ファミリーコンピュータ)のディスクシステムのゲームとして作られました。2作目は『リンクの冒険』。しかしその人気を不動のものにしたのは、スーパーファミコンのゲームとして1991年に発売された『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』でしょう↓。

タイトルにも含まれる「トライフォース」とは、不思議な力を持つ宝物です。3種類あります。

◆力のトライフォース
◆知恵のトライフォース
◆勇気のトライフォース

この3つが揃って初めて、世界が変わる、という設定です(初代の『ゼルダの伝説』では「力」と「知恵」しかありませんでしたが)。

私は先日、組織を実際に動かしたり改善したりするには、知恵だけじゃいけない、という記事を書きました↓。

この「3つの力」というものは、非常にわかりやすいたとえです。

つまり、「力」だけじゃだめ、「知恵」だけでもだめ、「勇気」があればいい、というものでもない。会社組織に例えると、「社長(権力)」だけじゃだめ、「参謀役(戦略家)」だけでもだめ、「実働部隊(部下)」がいればいい、というものでもない。揃ってなければいけない。

今回の記事は、この3つについての話から始めます。

2、「三国志演義」にみる3つの力

非常に有名な「三国志」からみてみましょう。正史でなくて「三国志演義」のほうです。日本では横山光輝さんの漫画「三国志」で有名↓。

この物語は、劉備(りゅうび)が主人公です。圧倒的な力を持つようになる曹操(そうそう)に対して、最初はなかなか勝てません。逃げまどいます。ついには中年になります。その時に、凄い能力を持つ「天才軍師」、諸葛亮(しょかつりょう)の存在を知り、三顧の礼(さんこのれい)、すなわち自ら3回も出向いて陣営に加わってくれるように頼みます。それを意気に感じた諸葛亮は配下となり、自らの「天下三分の計」を実現すべく、八面六臂の大活躍をして、ついには「三国時代」を作り上げる…。ざっくり言うとこういうお話ですね。

◆力…劉備
◆知恵…(不在)
◆勇気…関羽・張飛・趙雲など豪傑の部下

「天才軍師」諸葛亮が配下に加わるまでは、こんな感じでした。カリスマのある劉備の元に、関羽などの豪傑がいる。でもこれだけじゃだめなんですね。個々の力は強いが、戦略も計略もない。そこで諸葛亮が加わる。

◆力…劉備(全員をまとめるリーダー)
◆知恵…諸葛亮(戦略を立て部下を使いこなす)
◆勇気…関羽・張飛・趙雲など豪傑の部下(実力を発揮)

このように「3つのトライフォースが揃った状態」になって、すでに揃っている圧倒的な曹操の陣営を破り、自らの国「蜀」を作っていきます。

「三国志演義」は、事実を元に(かなり)脚色された「小説」ではありますが、このキャラ立ちした展開は見事の一言。特に、負けっぱなしの劉備陣営が、諸葛亮登場後の勝ちっぱなし(時には負けますが)に爽快な気分を味わいます。読者は「天才軍師」の大活躍に酔いしれ、「やっぱ軍師は必要だよなあ」「それぞれの立場で力を合わせないと強くならないんだなあ」と刷り込まれ、心の中のテキストとなるのです。

さて、物語の最後のクライマックスは、「五丈原の戦い」です。

ここでは、諸葛亮がほとんど孤軍奮闘、結局は曹操の建てた「魏」の国の圧倒的な戦力に勝てずに、命を落としてしまいます。劉備はもはや死んで、2代目の「バカ殿様設定」の劉禅(りゅうぜん)の時代、関羽たちの豪傑もおらず、小粒感のある魏延(ぎえん)たちしかいません。

◆力…(不在)※2代目の劉禅はバカ殿様の設定
◆知恵…諸葛亮(戦略を立て部下を使いこなす)
◆勇気…(不在)※魏延などいるが反抗的で使いにくい

こりゃ勝てませんね。のちに蜀は滅亡していきます。

このように、3つの力から見ると、「力と勇気はあるが知恵が足りない」→「知恵の軍師が入って強くなる」→「軍師だけで孤軍奮闘」というストーリーになっているのです。

3、「項羽と劉邦」にみる「4つ」の力

では、もう1つ。司馬遼太郎さんの「項羽と劉邦」から。

すごくざっくりとしたストーリーを言うと「スーパーカリスマで圧倒的な力を持つ項羽(こうう)に対して、個々の力は弱いがチームとして機能した劉邦(りゅうほう)の陣営が勝つ」というお話です。魅力ある君主の劉邦、軍師の張良(ちょうりょう)、将軍の韓信(かんしん)たちですね。

ちなみにこの劉邦は、漢王朝の創始者で、その子孫が「三国志」の劉備、ということになっています。三国志よりさらに前のお話です。

3つの力で示すと、こんな感じです。

◆力…劉邦(魅力ある君主)
◆知恵…張良(戦略ある軍師)
◆勇気…韓信(実力ある将軍)

これに対して項羽の陣営は、軍師や将軍もいるはいるのですが、結局は項羽の強さのカリスマ頼み、最後には滅亡してしまいます。

さて、天下をとったあとの劉邦。論功行賞が行われ、第一の手柄は張良か韓信か、とみんなが思います。ところが、劉邦は意外な人の名前を言います。

「第一の手柄は、蕭何(しょうか)だ」

蕭何は、知恵は張良ほどはなく、勇気は韓信ほどはなく、ひたすら補給と人事など、いわばバックオフィス業務に従事した人でした。誰もが意外に思いましたが、しかし、誰もが納得した勲功でした。黒子として地味な仕事をしてきた蕭何がいなければ、劉邦はここまで活躍できなかったからです。

つまり、3つの力をさらに光り輝かせるためには、「4つ目の力」が必要だということでしょう。ここは蕭何に敬意を表して、「補給」としておきます(補給のトライフォース、なんてのはありませんが)。

◆力…劉邦(魅力ある君主)
◆知恵…張良(戦略ある軍師)
◆勇気…韓信(実力ある将軍)
◆補給…蕭何(バックオフィス)

ちなみに、三国志と同じように、最初は劉邦陣営もここまで人材が揃っていたわけではありません。はじめのあたりは劉邦と蕭何、あとゴロツキ的な部下たちだけでした。この陣営に張良や韓信などが後に加わって「戦えるチーム」になっていくのです。

◆力…劉邦(魅力ある不良青年)
◆知恵…(不在)
◆勇気…(不在)※ゴロツキ的な部下はいる
◆補給…蕭何(バックオフィス)

最初はこんな感じでした。このあたりの情景を実に情感たっぷりに描いているのが、高橋のぼるさんの「劉邦」という漫画です。軍師や将軍不在の劉邦陣営を切り盛りする蕭何さんの苦悩が味わい深いので、よろしければぜひお読みください↓。

私も蕭何などのバックオフィスについて書きましたので、こちらも↓。

4、「銀英伝」で、みる

いかがでしたでしょうか?

「力」「知恵」「勇気」が必要。大事業を成すにはさらに「補給」が必要、というところですね。三枝匡さんの「V字回復の経営」でも、

経営改革はスポンサー役(香川社長)、力のリーダー(黒岩莞太)、智のリーダー(五十嵐直樹)、動のリーダー(川端祐二)の四人が揃わない限り、成功を収めることはできない。

と言われていますからね。

なお、ここで言う「スポンサー役」とは、力のリーダーを後押しする権威(親会社の社長など)ですが、「力のリーダーを支える」というニュアンスで言えば、バックオフィス担当も含まれる、と私はとらえています。

劉邦陣営で言えば、スポンサー役が補給の蕭何、力のリーダーが劉邦、智のリーダーが張良、動のリーダーが韓信、といったところでしょうか。

では、この記事の締めとしまして、田中芳樹さんの「銀河英雄伝説」(リンク先の漫画は藤崎竜さん)で、この3つ(4つ)の力を見てみましょう。…ここから先はこの作品を読んでいないとなんのこっちゃだと思うので、良ければ漫画版からでもぜひどうぞ↓。

ラインハルト陣営(帝国陣営)はこんな感じです↓。

◆力…ラインハルト(魅力ある君主)
◆知恵…オーベルシュタイン(戦略ある軍師・絶対零度の剃刀)
◆勇気…ミッターマイヤー・ロイエンタールなど(実力ある将軍)
◆補給…ヒルデガルド(バックオフィス)

揃っています。最初は、姉が皇帝の寵姫になったということで、皇帝が大きなスポンサー役だったんですけどね。この陣営が宇宙を統一していくのに対して、もう一つの陣営、ヤン・ウェンリー側(同盟陣営)はというと…。

◆力…(不在)※味方の政治家は役に立たないばかりか足を引っ張る
◆知恵…ヤン・ウェンリー(戦略ある軍師タイプ)
◆勇気…(ピンポイントと個性で活躍する部下たちはいるが…)
◆補給…キャゼルヌ(バックオフィス)

こんな感じです。「知恵」担当のヤン・ウェンリーが、「力」や「勇気」まで兼ねなければいけないところに、三国志の「五丈原の戦い」の諸葛亮の悲哀が重なります。補給のプロがいるところだけが救いです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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