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『V字回復の経営』における『ジッグラト・スペアリブ』モデル

三枝匡(さえぐさただし)さんの『V次回復の経営』
事業再生のヒントが詰まったベストセラー本です↓

読者の皆様の中にも、お読みになった方が
多いのではないかと思います。

小説のストーリーに沿って読めますので
頭にすいすいイメージがわいてきます。

主要な登場人物は、次の四人。

◆五十嵐直樹(智のリーダー):コンサル
◆黒岩莞太(力のリーダー):改革リーダー
◆香川社長(スポンサー役):親会社の社長
◆川端祐二(動のリーダー):現場リーダー

『経営改革はスポンサー役(香川社長)、
力のリーダー(黒岩莞太)、
智のリーダー(五十嵐直樹)、
動のリーダー(川端祐二)の四人が揃わない限り、
成功を収めることはできない。』


と、本文でも書かれています。

未読の方のために、簡単にあらすじを書きますと、

『大企業の社長「香川社長」は、
ある会社の経営の立て直しのために
「黒岩莞太」という男を、その会社に送り込んだ。
黒岩は「五十嵐」というコンサルタントとともに
タスクフォースを作ってその会社の問題点を探り、
「川端」という現場で埋もれていた人材を見つけて
再生への実際の道筋を作り、行動していく…。』

こんなお話です。

私が、このお話で一番うなずいた点は、

「力のリーダーである黒岩は、
独りよがりで自分勝手に判断して
事業再生、会社再生への行動をするわけでは、ない。
まず会社に入り込み、そこにいる人材を参画させ、
実際に働く人の視点と、外部の客観的な視点を
融合させた上で、問題点をあぶり出し、
全社一体で改革を行おうとする

という点です。

上から目線のああせいこうせいの口だけではなく、
再生の道筋を現場の人に「見つけさせる」のです。

事業や組織の再生は、決して
一人だけではできない。
なぜなら、複数の人が関わる「組織」だから。

「巻き込むこと」こそが重要、ということが
この本に繰り返し書かれています。

「今まで何人もの人がこの組織にやってきて
ああせいこうせいと改革の指示だけ出したが
いずれも失敗に終わった。
そのせいで現場の人間は
『よく現場を知らない人間が勝手に
改革をしようとして失敗していく』ことを
醒めた目で見ている」という描写があります。

…どうでしょう、読者の皆様も、
そんな苦い経験、あるのでは?

改革がトップダウンの掛け声だけに終わることが。
皮相上滑りの改革で終わり、現場がかき乱され、
くたびれもうけになってしまったことが。
ボトムまで「改革の精神」が浸透し行動しない限り、
「改革ごっこ」に終わってしまう…。

この本の「黒岩莞太」は、一味違います。

スポンサー役「香川社長」の権威をうまく使い、
智のリーダー「五十嵐」の知恵を拝借しつつ、
動のリーダー「川端」たち、現場の人間を
うまく巻き込み、情報を集めて、
全社一体(抵抗勢力もいますが)になって、
改革を推し進めていくのです。

…さて、ここで、
私の『ジッグラト・スペアリブ』モデルに、
四人の主要キャラを当てはめていきましょう。

このモデルでは、四つの象限に分かれます。
(サッカーでたとえた版を使用します)

◆ジャスパーミッドフィルダー象限
→ジグソー(柔軟的)でスペア(標準化)
◆ジドリフォワード象限
→ジグソー(柔軟的)でアドリブ(属人化)
◆ピラニアゴールキーパー象限
→ピラミッド(固定的)でアドリブ(属人化)
◆ピラティスディフェンダー象限
→ピラミッド(固定的)でスペア(標準化)

四人をこの各象限に当てはめると、

◆ジャスパーミッドフィルダー象限
→「智のリーダー」五十嵐
◆ジドリフォワード象限
→「力のリーダー」黒岩
◆ピラニアゴールキーパー象限
→「スポンサー役」香川
◆ピラティスディフェンダー象限
→「動のリーダー」川端


こうなるでしょうか。

「智のリーダー」五十嵐は、
事業再生のコンサルタント。
多くの会社の再生を手掛けてきた外部の人です。
ですので「こうすればいい」「こうしたらダメ」
という理論、標準化が、頭の中に整然とあります。

ただし、こういう人を組織にぶちこみさえすれば
すぐに再生できるか、というと、
そんな生やさしいものではない。
なぜならば、各組織には
その組織ならではの沿革、流れ、淀みがあり
標準化されたマニュアルで解決できる
ものばかりではないから。


そこで「力のリーダー」黒岩は、
タスクフォースというジグソー的なユニットを作り、
自らそのリーダーとなり、現場を探ります。
フォワード的な突破力、得点力!
それを支えるのがミッドフィルダー的な
「智のリーダー」五十嵐の客観的な目なのです。

その黒岩と五十嵐をさらに陰から支えるのが、
「スポンサー役」の香川社長という存在。
大会社で親会社の社長、黒岩にとって
これほど心強い存在はありません。
「はしごを外される」心配が、ないから。

逆に香川にとっても、
自らはピラミッド的な組織の長であるがゆえに
再生の現場に直接は飛び込めない以上、
黒岩のようにジグソー的にアドリブを効かせて
ガンガンやってくれる存在が頼もしい
でしょう。

そのうち黒岩と五十嵐は、
現場の中から「動のリーダー」川端を見出します。

二人は、あくまでジグソー的なユニットで
改革を上から主導していく存在ですから、
ピラミッド的な現場の中で、改革を「標準化」し
現場に落とし込んで実際に業務を行う
「動のリーダー」川端は、得難い人材なのでした。

つまり、

『経営改革はスポンサー役(香川社長)、
力のリーダー(黒岩莞太)、
智のリーダー(五十嵐直樹)、
動のリーダー(川端祐二)の四人が揃わない限り、
成功を収めることはできない。』

ということは、この「四象限すべて」で
優れたリーダーの存在が必要だ、

ということが言えると思います。

まとめます。

繰り返しになりますが、
この四象限、一つだけでは効果がない。

立ち位置を十二分に理解し、なおかつ、
力のリーダー=ジドリフォワード象限の
突破力のある「黒岩」が、

他の象限の人材を巧みに巻き込み活用し、
現場の抵抗を最小限に抑える形で
「再生ストーリー」を描き出して
それを実際に行動に移したからこそ、
『V字回復』が成り立った、のです。

別の見方からすれば、
「ピラミッド型」の体制、人材だけ
(親会社の社長と現場リーダーだけ)で
改革をしようとしても、失敗しがち。

「ジグソー型」的なユニットを組ませ、
聖域なしで根本まで問題を掘り下げ、明るみに出し、
改革の精神を現場まで落とし込んだ(標準化した)
からこそ、再生が成功したのだと言えます。

以上、本記事では、
三枝匡さんの『V字回復の経営』のキャラを
『ジッグラト・スペアリブ』モデルに
当てはめる形で、分析
してみました。

さあ、読者の皆様がこれまでに経験した
「改革」はどうでしたか?

一つの象限の人だけが奮闘する
表面的な改革に終わりませんでしたか?
それともすべての象限を巻き込む
根本的な改革になっていましたか?


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