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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』69

3、三都市の動静

ここで、大陸の南東部に話の舞台は変わる。

ピノグリア大公国の首都から西の方向、
反乱が起きたカベルーネの街へと、
リーブルは自ら軍勢を引き連れて進んでいた。

「ソーヴィー・ニヨンは名将や!
うかつに戦端を開くんやない。
どんな奇策で立ち向かってくるか
わからんからな。ええな?」

リーブルは、配下の将軍たちにそう厳命している。
首都を空け、自分自身が総司令官として
向かうことに若干の不安はあったが、
万が一、反乱が各地に広がるよりも、
早めに鎮圧したほうが良いと判断したのだ。

幸い、父親のルドネ大公は、
一時期よりもだいぶ回復している。
身体を動かすのは大儀そうだが、
政務を執ることに支障はないだろう。

街に近づくと、リーブルは斥候を出した。
まずは、情報収集である。

…すると、なぜか
出した斥候がすぐに戻ってきた。
タイム・マネーブという男から
手紙を預かってきた、と言っている。
その名前には聞き覚えがあった。
彼からの手紙を読み終わると、
リーブルは腹心の部下にこう言った。

「…ちょっと外に出てくるわ。心配ない。
お前たちは、ここで待っとれ」

妹のパンナほどではないが、
リーブルも行動が速い。
彼は全軍に休息を命じると、
単身、マネーブが指定してきた
カベルーネの郊外の村へと向かった。

村に近づくと、黄色の髪を持つ
一人の若者が現れた。
うやうやしく馬上の彼に向かって礼をする。
その顔立ちは、トゥモ・ロッカにそっくりだ。
…彼女の双子の弟、ジス・スタン。
彼は盟王やミシェルたちから特命を受けて、
マネーブたちと行動をともにしている。

「お待ちしておりました、
リーブル大公代行陛下!
マネーブ卿とローガン卿がお待ちです」

スタンはリーブルを案内して、
村の外れの倉庫へと向かった。
そこには、片眼鏡のタイム・マネーブと、
恰幅の良いジョシュ・ローガン、
それに、もう一人の男。

「…お前、ニヨンやないか! なんやお前、
反乱を起こしたんやなかったんか!?」

ニヨンはリーブルの顔を見るなり、
苦い表情を浮かべると、深々と首を垂れた。

「このニヨン、一生の不覚や。
不届き者どもに拉致されて、
軍を乗っ取られてしもうた…。
責任はわいだけにある。
この老いぼれの首を、どうぞ
ルドネ大公陛下にお持ちくだされ」

「…何があったんや?」

話を聞いていたマネーブが優雅に立ち上がり、
リーブルに向かって会釈をした。

「お久しゅうございます、
リーブル大公代行陛下…」

「おお、あんたは、確かマカロン商会の
客人の歴史家さんやな。
イナモンたちに引き合わされたことが
あるのを覚えとるで。
…いったい、何があったんや?」

マネーブは、とうとうと語り始める。

「このお方は、一部の部下たちの造反で、
軟禁されておったのです。
私どもが潜入して、お救い申し上げました。
今、カベルーネを占拠している者たちは、
一部を除いて、ニヨン将軍本人が
いらっしゃらないことに気付いていないようです。
すなわち、偽の軍令で踊っているだけ…。
おそらく、反乱を鎮圧しに来た軍勢のことを、
首都で反乱を起こした軍勢だと
勘違いしていることでしょう」

「まあ、いわば、仲間割れ、
同士討ちを促す謀略、ということですな」

腕組みをしていたローガンが言い添える。
リーブルは、彼の顔と名前を知っていた。
トムヤム君民国の元野球選手で、
ココロン姫の打撃指導をしていた男。

…何となく、事情は分かった。

つまり、ニヨンは自分の意に反して
反乱軍の首領に仕立て上げられたのだ。
リーブルは、苦虫を嚙み潰したような顔で
うなだれているニヨンに近づくと、
ぽん、とその肩を叩いた。
ニヨンは顔を上げた。

「…お前が生きていてくれて、本当に良かった。
自分の首を差し出すなんて、
そんなこと言わんといてくれ。
銃の撃ち方や狩りの仕方、女の口説き方まで
わいに教えてくれたんは、お前やろ?

わいにとって、お前は大切な存在なんや。
父上にとっても。
お前を殺せなんて言わんやろ。
もし責任を感じるんやったら、
わいらの力になってくれ。な?」

麗しい君臣の再会を演出した三人は、
顔を合わせるとうなずいた。

「リーブル大公代行陛下。
…この事件の黒幕は、
カルダモン商会の幽霊館長でございます」

スタンが三人を代表して、リーブルに言った。

「私はミシェル様やランプ様たちから指示を受けて、
お二方と一緒にこの街に潜入し、
カルダモン商会の者たちの動きを探っておりました。

あの商会の情報管理は徹底されており、
秘密の行動を得意とする。

ですがそれがゆえに、
密着して張り込めば動きがわかることもある。
彼らはひそかに軍の一部の者たちと接触して、
ニヨン将軍を拉致させた」

マカロン商会の客人たちもうなずいた。

リーブルは驚きを禁じ得なかった。
あのバラ姉弟は、こうなることを先読みして、
あらかじめ、この手練れの三人を
街に潜ませていたというのか?
リーブルの驚きに気付いたように、
スタンは補足の説明をする。

「…この都市は、北西の
オアシスロードの入り口にあります」

いつの間にか、スタンは地図を手にしていた。

「ローズシティ連盟とピノグリア大公国の中でも、
辺境に位置する都市。
ゆえに、何か事件が起こるのならば
ここだろうと、お二方はあらかじめ
看破されておられたのです。
厳密に言えば、その上におられる
盟王陛下とチャンバ卿も、ですが」

「それで、取っ捕まったニヨンを助けて、
ここまで脱出させてくれたってわけやな。
恩に着るで、三人とも!
この反乱が長引くと、
大変なことになっとったやろ。おおきに!」

深々とお辞儀をしたリーブルに向かい、
今度はマネーブが言う。

「私どもは、盟王代行のセイン陛下から、
ご依頼のお手紙を預かっております。
どうぞお読みくださいませ」

「盟王代行陛下…? セインやと?
なんや、盟王はんにも、何かあったんか?!」

マネーブから手紙を受け取ったリーブルは、
書面を読み進めるうちに、
驚愕の表情へと変わっていった…。

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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