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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』43

6、ジョーカーを持つ大公

円卓に五人が座っている。

男性二人。女性三人、うち四人が王族。
その中で一番年上の男が、
重々しく口を開く。
手には、五等分に配られた
トランプのカードを持っている。

「ほな、わいからいこか…」

隣のパンナの手から、しばし悩んだ挙句、
裏返しに見せられたカードを一枚引いた。
その表情が、みるみるうちに曇っていく。
にんまりとパンナが笑った。

「父上、こんだけカードがある中で、
いの一番にジョーカーを
持っていってくれはるとは!
優しいわあ。さすがは娘想いの
大公陛下であらせられる。
度量が違うわあ」

「パンナ、お前も気が利かんやっちゃな。
そういう時はな、指にぐっと力を入れて
持っていかれんようにするもんやろ!

あかんがな。勝てる気がせえへんわ。
やけど、ココロンはんの人となりが
わかるから、ええとしよう」

ココロンは、申し訳ないやら
恥ずかしさやらで、思わず目を伏せる。
そう、五人は「ココロンのことが書かれた」
トランプのカードを使って
『ババ抜き』をしているのだ。

「ほう、ココロン姫は
ガトーショコラがお好きなんか。
今度、ええ店、紹介するで!」

「オルドローズ学院の
野球部での経験が、財産。
確かに、一生もんの宝物やね…」

「ドグリン・イッケハマルの
末っ子として生まれる。
うむ、まさにその通り」

大公一家は、いちいちカードを引くたびに、
カードに書かれている
ココロンのことを読み上げていった。
ロッカは、姫の心の中を忖度した。
いくら結婚相手の家族相手とはいえ、
面映ゆいというか、むずがゆいというか、
これは気恥ずかしいだろう…。

ただ、短い時間で
姫のことをしっかりと知ってもらうのに、
これほど有効な道具もない、とも思った。

勝負は、ぽんぽんと進む。

三人が抜け、残るは
ココロンと大公ルドネだけだ。

「さあ、ココロンはん。
ジョーカーじゃないほうを引けば、
あんさんの勝ちやで?」

大公の挑発に、彼女は手を上げた。
軽く一礼をすると、力強くカードを引く。
そのままにこっと笑うと、
手持ちの札とともに、場にすとんと落とした。
スペードのエースとハートのエース!
最後までジョーカーを持っていた、
大公の負けであった。

ココロンは、ロッカに向けて
すっと手を上げた。
ロッカは姫の意向に気付くと、
その手と自分の手を、思わず打ち合わせた。
打ち合わせてから、主君の姫君と
ついハイタッチをしてしまったことに気付いて、
かあっと顔を赤くする。

型破りの大公一家や、
上座も下座もないこの円卓の雰囲気が、
慎み深いはずのロッカを
そうさせたのだろうか。

「いやあ、お熱いでんなあ、お二人さん!
ちょうど一勝負終わったところで、
なあ、ココロンはん、少し休憩しがてら、
夜風にでも当たってきいへんか?」

リーブル王子のごく自然な誘いに、
ココロンはうなずくと、立ち上がった。
さも当然の如くパンナも立ち上がったが、
ルドネにその肩をぐいっと持たれて、
椅子に座り直させられた。

ロッカは隣国の姫の顔を
「お邪魔をしちゃいけませんよ?」という
笑顔でのぞき込む。
悔しそうにパンナは
「ふん!」という表情をして、そっぽを向いた。

…テラスに出ると二人の影が、
部屋から差し込む光で並ぶ。
リーブルはココロンの手を取ると、
テラスの端へといざなった。

「ふう、結婚するということだけは
早くから決まっとるのに、
あんさんと二人だけで話すのは
これで最初やな。
…さすがに、あんまりやろ。
ま、政略結婚なんてこんなもんやな」

本音を見せる王子に対して、
姫も、思わず本音で聞いてしまった。

「あの、王子は、私がお相手で
よろしいのでしょうか?」

「…わいは、どんな相手でも
愛する自信がある。
ましてや、あんさんのような
別嬪さんなら文句無しや。
まあ、わいよりも背が高いのは、
ちょっとだけ、しゃくやけどな」

「それは、申し訳ございませぬ。
どうも、栄養が
身長のほうに行ったようでして…」

王子は、ココロンの顔をまじまじと見た。
急に、ぶはっと笑った。

「なかなかおもろいことを言うやないか。
さすがは盟王はんの子どもや。
『赤バラの超特急二世』と
一緒になれるとは、わいも果報者。
ま、ぼちぼち仲良うしようやないの」

「ええ、末永く、
よろしくお願い申し上げます」

ここですっとリーブルはひざまずくと、
ココロンの手を取り、
その甲に軽く唇をつけた。
何となくどこかで、パンナ姫の声が
聞こえたような気がする。

「…口うるさい妹もおるんでな。
今日は、このぐらいにしとこ」

「何と言うか、その、パンナさんは、
王子のことが大好きなんですね」

「まあ、十歳も年が離れとるからな。
お年を召された父上は
祖父みたいなもんで、
わいは、あいつの兄と父親の
中間みたいなもんや。

母親を早くに亡くしたから、
なおさら家族への情愛が深いんやと思う」

ココロンは、パンナの心情が
少しだけ分かった。
彼女もまた、母親の愛をよく知らずに育った。
ココロンを産んだ後で、
すぐに亡くなったと聞かされている。

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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