見出し画像

長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』7

4、全力を出せぬ二刀流

試合は一進一退だった。
どちらが勝つのか、容易に判断はできない。

ココロンのホームランが飛び出し、
一気に差がつくと思いきや、
さすがは決勝まで残った
強豪チームである。
アルバボン学院も、
その裏にすぐ点を返した。

五対四。

オルドローズ学院のリードは、
わずかに一点。
一打出れば同点、逆転という展開で、
九回裏まで進んだ。

「ココロン姫は、どこか
捕手に気を遣いながら、
制限をかけながらの投球だな」

イナモンの隣で、タスクスがつぶやく。
観客の大部分にはわからない。
しかし、この二人の目には、
ココロンの全力投球はこんなものではない、
ということをよく知っていた。

「…俺のような不世出の
名捕手ならともかく、同級生だからな。
あの超特急の本気の球を、
完全に捕るのは難しい。
逆に、よくぞここまで
四点に抑えてきた、と思うぞ」

両チームの雰囲気は、好対照である。

オルドローズ学院は、コーン選手、
すなわちココロン中心のチームだ。
彼女が投打の柱。
「コーンで負ければしょうがない」
という雰囲気がある。

一方のアルバボン学院は、
彼女ほど突出した選手はいなかったが、
泥臭く全員でつないで
好機を作っていく。

バボン市長がよく口にする
「バボン魂」がみなぎるチームだった。

首都に花咲く、気高き赤色のバラ。
山脈の麓で咲き乱れる、愚直な茶色のバラ。
応援席では、花が描かれた
学院の旗が必死に振られていた。
タスクスが指導した指揮者たちは、
本気の音色をきらめかせる。

永遠に続くかと思われた死闘も、
しかし、終わりが見えてきた。

九回裏を迎え、さて、と
観客席に座り直した
二人の背後に、二人の男が現れた。

一人は、精悍な顔立ちに
がっしりとした体格。
もう一人は、片眼鏡をかけた
お洒落な物腰の男だ。

タスクスとアズーナの店である
『オープン・ローズ』の紙袋を持っていた。

「一世殿、ここにおられたか。
いやあ、あなたのお店の
サンドイッチは美味いですな!」

「このバナナブレッドも最高です!
さすがはアズーナ殿、そして一世だ」

「何だ、お二方とも、
ずいぶん遅い登場ですな。
一世も待ちくたびれておりましたぞ」

三人の会話に、
タスクスがぶすりと顔をしかめる。

「そんなに、一世、一世、と、
一斉に言わないでほしいんだが」

むろん三人は分かって言っている。
苦笑を交わし合い、
男たちは並んで座った。

がっしりとした男は、
ジョシュ・ローガン。

ディッシュ大陸の北西部、
ローズシティ連盟とは反対の
位置にある国から来た男である。
有名な強肩強打の捕手として
実績を積んできた男で、
選手を引退した後、
国際的な貿易を営む
「マカロン商会」に誘われて、
この国にはるばるやってきた。

三年前の特別試合では、
南部連合チームの捕手として出場。
その時はイナモンとは敵同士だったが、
試合後、彼の腕を買った
盟王とイナモンの説得により、
ココロンの個人的な
「打撃コーチ」に就任した。
彼女の打撃指導に
尽力してきたのである。

片眼鏡のほうは、
タイム・マネーブという名前。
マカロン商会の商館長、
マカロン・カヌーレの旧友で、
自称「歴史学者」だ。

ローガンとは同じ地方の出身で、
この国の者ではない。
ローズシティ連盟における「野球」、
大陸の北西部で言う「ベースボール」の
歴史に異様に詳しくて、
当然ながら、野球の戦略や
戦術についても明るい。

彼もまた、盟王とイナモンの要請によって、
「特別戦略コーチ」として
働いていたのである。

「それで、ローガン卿は、
どちらが勝つとお思いか?」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

次回はこちら↓

前回はこちら↓

よろしければサポートいただけますと、とても嬉しいです。クリエイター活動のために使わせていただきます!