見出し画像

長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』12

こほん、と軽く咳をして、
チャンバが会話に加わる。
話題を変えた。

「それで、盟王陛下。
北のピノグリア大公国との『合同チーム』は、
どうやって構築するおつもりかな?

ココロン姫は、球場においては
天下無双なれど、
お妃としての手腕は未知数である。
北のリーブル王子との呼吸が合うかどうか?
王子自身の器量は問題ないであろうが、
果たしてルドネ大公をはじめ、
周りの者がきちんと
カバーしてくれるかどうか…」

むろん、二人の間では、
この問題についてすでに
散々に話し合ってきている。

チャンバはココロン姫の
教育係を辞した後、
盟王の私的顧問になっていた。
言わば「盟王の影の軍師」とも
言うべき存在である。

チャンバがこの話題を出したのは、
同じく「盟王の影の手足」とも言うべき、
この世に公には出されぬ
凸凹姉弟の意見を聞くためであった。

盟王も心得ている。
姉弟のほうを向いて、
「お前たちはどう思う?」と尋ねた。

「…ピノグリア大公国にも、
見せているカードと
見せていないカードがあるだろうな。
向こうのお笑い王子は
『隠すことなど何もあらへんで!』と
よく言うが、そういう奴こそ、
逆にこちらには見せない
切り札を隠しているものさ。
すんなりと合併までできるかどうか」

「私の調べによりますと、
王子の妹君が
海外留学から帰ってきたそうですわ。
兄君と負けず劣らずの切れ者、
才媛、と聞いております。

…お二人のご結婚が成れば、
私たちには縛りができますが、
向こうにも縛りができる。
その前に、自由に動かせるカード、
人材を呼び返した、ということでしょう。
…でもこれは、お父様もチャンバ様も
すでにご存じなのでは?」

二人の意見を聞いた盟王と軍師は、
軽くうなずいた。チャンバが言う。

「さすがだな、二人とも。
王族同士の結婚は、
そこまでの段取りも大事だが、
それからの段取りもまた重要なのだ。

リーブル王子とココロン姫が結婚すれば、
公の場に向かって
手の内のカードをさらすようなもの。
ただ、手元に残すカードがどんなものか、
それによって打つ手も変わってくる。
戦況を見極めて、
適したカードを切らなければならん…」

チャンバは、名将、名監督と言われてきた。
オルドローズ学院の監督を長く務めて、
強豪校へと仕上げてきた手腕がある。

試合の前に勝負の大半はついている。

彼は選手たちにそう言って、
事前準備の大切さを説いてきた。
盟王イッケハマル、大将軍コブリ、
イナモンにタスクス、
それにこの姉弟も、
全員が「元名将」の薫陶を受けているのだ。

折に触れて
連盟の球界の中で
「チームづくり」の哲学を説いてきた男。

自分たちが持つ戦力、
相手が持つ戦力、
それを正しく見極めることこそが、
勝負の第一歩である。

その監督の哲学は、
三人とも骨身に染みている。
…再び、チャンバが口を開いた。

「付け加えるとすれば、
相手ばかりでなくて、その周りにも
目を配らねばならぬ。

野球ならば一つのチームと
一つのチームの争いだが、
現実世界ときたら、
複数のチームの思惑が
混じり合っての乱打戦、
打順や人数制限なしの場外乱闘に
情報戦まで含まれる。

しかも、明確なルールは無い。

あるのは個々の主観と正義。
我々の目指す『合同チーム』を、
快く思わないチームも多い。
その勢力をあぶり出し、
脅威を事前に消していくべき。
そのためには」

すっと片手で元名将を制した盟王が、
満面の笑みを二人に向けて浮かべる。

「…お前たちの力が、
さらに必要だってことさ!
頼りにしてるぜ、二人とも!」

父親の笑顔に、ミシェルは
艶然と微笑み返してうなずく。
ランプは苦笑しながら頭をかいた。
我が父親ながら、凄まじい
「人たらし」の才能である。

この男の力になりたい、助けたい。

彼に笑顔を触れた人間は、
いつの間にか、そう導かれていくのだった。

…その頃、盟王の魅力に
惹かれた男がもう一人、
密かに球場に到着している。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

次回はこちら↓

前回はこちら↓

よろしければサポートいただけますと、とても嬉しいです。クリエイター活動のために使わせていただきます!