見出し画像

長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』41

5、ミゲルとバンプ

大公シャー・ルドネ、
王子シャー・リーブルとの対面が、
無事に終わった。

ココロンとロッカは、宿舎の迎賓館へと戻る。
居並ぶ武官・文官たちを前に、
ココロンは堂々と挨拶をした。
さすがは私たちのエース。
ロッカは内心で、
姫のことを誇らしげに思っている。

「…まずは初回を無失点に抑えた、
というところじゃな」

「ご立派でしたわ、姫様!
居並ぶ皆様も、改めて姫のことを
見直されたことでしょう」

姫の着替えを手際よく手伝いながら、
ロッカが言った。
てきぱきと従者たちに指示を出し、
立ち働いている彼女を見て、
ココロンは感心したように言う。

「頼もしいのは、お主のほうじゃ。
チャンバ卿やイナモン卿とは、
女心の理解度がまるで違う。
お主がいれば、私も安心して、
ここで過ごせそうじゃな」

嬉しそうに笑顔を返すロッカに対して、
ふと、姫はつぶやいた。

「…そう言えば、あいつは、いなかったな」

「まあ、あいつ、などと…。
あの『駱駝姫』のことでございますか?」

「そうじゃ。あのお転婆姫、
隠れて我々のことを
見張っているんじゃあるまいな…」

その瞬間である。
部屋の外から、大きなくしゃみが聞こえた。
二人は跳び上がった。
ノックと扉が開くのは、ほぼ同時である。

「ふふん、誰かが私のことを
噂しているんやろかな。ご機嫌はいかが?」

モダローズで会った時とは違って、
言葉になまりがあった。
扉の外では従者たちがおろおろしながら、
パンナの背中を見ている。
この国の姫君、とあっては、
止める術が無かったのであろう。
突然の訪問に対して、
無言でじろりとにらみつけるココロン。

「ああら、怖いわあ。
ロッカさんも、お久しぶりやね。
じゃじゃ馬姫のお相手で、さぞやお疲れやろ。
まあ、我が国が誇る絶品ワインでも飲んで、
ゆっくりとしたらええんちゃうかな…って、
あれ、あんたたちはうちと同じ、
まだ十八歳やったっけ?
もう少しの間だけ、
飲酒は我慢したほうがええわ」

わざと聞こえるように大きなため息をついて、
ココロンは憤然と抗議した。

「…そういうそっちこそ、
悪酔いしているのでは?
いきなり部屋に入ってくるなんて、
無礼にも程がある!
この私は、大公陛下に招かれた客人。
…何しに来たの?」

喧嘩腰のココロンを、ロッカがなだめた。
しかし、内心では
「もっと言え」と思っている。
礼儀正しい彼女にとって、この
「じゃじゃ駱駝」の姫君は、苦手であった。

「まあまあ、そんなに
いきりたたんといてえな。
あんたたちに、父上と兄上からの
お誘いのお手紙を持ってきたところなんや」

「…お手紙?」

ロッカはパンナから封書を受け取った。
手紙を開き、ココロンに見せる。そこには。

『親愛なるココロン姫へ。
家臣たちの手前、どうしても
形式ばった挨拶となってしまった。
今度は、身内の者だけで、ざっくばらんに
おもてなしをしたい、と思っている。
ついては、この館の食堂まで、
どうぞお越し願いたい。
大公シャー・ルドネ』

「…大公陛下のじきじきのお誘いとあらば、
断るわけにもいくまいな。行こう」

ココロンの返事を聞くが早いか、
くるりと背を向けて、
さっさとパンナは歩き出す。
背中越しにちょっと手を上げたのは、
ついてこい、ということだろう。

二人は、従者たちにここで待つように言って、
パンナの背中を追いかけた。

食堂は、小さな部屋である。
豪奢な意匠をほどこした円卓が置いてあった。

ルドネとリーブルがすでに座っている。
先ほどとは打って変わって、
気楽で動きやすそうな服装だ。
ココロンは、礼儀正しく
二人に一礼した。
ルドネはひらひらと手を振ると、
にこりと笑顔を向けて、
ココロンに椅子を勧める。

「…堅い話は苦手なんや。
まあ、ゆっくりと
話をしてみよう、と思うてな。
その前に」

ルドネは立ち上がって
ココロンに向かい合うと、
いきなり、がばりと頭を下げる。

「娘のパンナが無礼をしたようで、かんにんや!
このあほたれ、いきなり
モダローズのそちらさんの館に
乗り込んでいったんやろ?
あんさんの爪の垢でも煎じて飲ませたいわ…」

「いややわ、父上。
どうせ飲むんなら、ワインがええんやけど」

いつの間にかパンナの背後に回った
リーブル王子が、ぱん、と妹の頭をはたいた。

「いったあ! 兄上、何すんのん!」

「お前にワインはまだ早いって、
あれほど言うとるやろが!
…お前、もしや、わいたちに隠れて
酒を飲んどるんやないやろうな?」

急に兄から目を逸らし、
口笛を吹き出したパンナに、
リーブルは片手で顔を覆った。
指の隙間から、
ちらり、とココロンを見ながら言う。

「ココロンはん。
兄のわいからも、謝るわ。
こんなんが義理の妹に
なるのなんて、嫌やろ?
まあ、野良駱駝に手をかまれると思って、
どうぞご勘弁を…」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

次回はこちら↓

前回はこちら↓

よろしければサポートいただけますと、とても嬉しいです。クリエイター活動のために使わせていただきます!