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「あなたのいない1年は、きらめいて」ヒスイのシロクマ文芸部

『誕生日が大好きな王子』。
これが僕につけられた名前だ。
実際に、王子だし(第13王子だが…)、誕生日が大好きだから、それでいい。

今日は、11歳の誕生日。朝からしっかりと支度をする。
いちばんきれいな服を着て、
いちばん背が高く見える靴をはいて、
いちばんカッコよく見える帽子をかぶる。
ポケットにはさりげなく、勉強中の本を入れた。
なんどもなんども、鏡を見る。
かんぺき。

そして、ちいさな玉座に座る。扉が開くと、最初の贈り物が運ばれてくる。

「王子さま、北の国からの贈り物です」
大臣が、小柄な侍女を連れて入ってくる。持っているのは鳥かごだ。侍女がやわらかい声で言う。
「とてもきれいな声で鳴く鳥だそうです」
「近くで見たい。ここへ持ってきて」

侍女が黄金の鳥かごをささげ持つ。僕は息を止めて、待つ。
きれいな鳥だ。
僕はじっくり眺めると、横の机に置いてもらう。
大臣と侍女は引き下がり、扉がしまる。
鳥が、高い声でチチっと鳴いた。

すぐに次の贈り物が運ばれてくる。
「王子様、南の国からの贈り物です」
大臣と、さっきの小柄な、品の良い侍女が透明な杯をもって入ってきた。
侍女が言う。
「透きとおる瑠璃の盃です」
「近くで見たい。ここへ持ってきて」

侍女が瑠璃の盃を持ってくる。僕は耳をひそめて待つ。
さやさやと彼女の絹が鳴る。
じっくり眺める。侍女の手の上で、瑠璃の盃が赤い影を落とした。
僕は手を出して、瑠璃の盃を乗せてもらった。
大臣と侍女が下がり、扉がしまる。
瑠璃の盃からは、かすかな体温が伝わった。

三つめの贈り物は木で作った馬だ。
僕はちょっと困った顔をした。木馬は大きすぎて、侍女では運べなかったらしい。侍従たちが4人がかりで部屋へ入れた。
僕は言う。
「ありがとう。そこへ置いておいて」

こうやって1日じゅう、贈り物が運ばれてきた。
夕方、最後の贈り物がとどく。
大臣が侍女を連れてきて、ちょっとくたびれたように言った。
「これが、最後の贈り物です。さてさて、わたくしは少し疲れました。隣の部屋で休ませていただきましょう」

大臣が部屋を出て、侍女が扉を閉める。
僕は彼女のもとへ走っていく。
「おかあさん!!」

王様の13番目の子どもを産んだひと。
身分が低くて、普段は王宮に住めないんだ。

年に一度だけ会える。僕にとって、一番うれしい贈り物。
僕は彼女の手前で立ち止まると、くるっと回ってみせた。

一年間ぶん、伸びた背を見せる。大きくなった足を見せる。
病にならなかった体を、勉強した証拠を、がんばったことを見せる。

彼女は笑って、腕を広げる。僕は飛び込んだ。
「おかあさん!」
ぎゅっと、僕を抱きしめてくれる。
何も言わない彼女の声が、きれいな鳥のように僕の心臓に響く。

『大きくなったわね』
『この一年、病気もケガもしなかったのね』
『元気でよかった。大切な、大切な私の子ども』

彼女の体温が、あかい瑠璃のように伝わり、そっとゆすってくれる腕は木馬のよう。
世界中から届いた贈り物のぜんぶより、大好きなもの。


部屋の中が、ゆっくりゆっくり暗くなっていく。
やわらかな天鵞絨(ビロード)のような時間が過ぎ、やがて侍女は大臣といっしょに扉を閉める。
明かりのともされた部屋には、きれいな鳥の声だけがひびく。
ちぃ、ちぃ、ちぃ。


僕は泣かない。
赤い瑠璃の盃をもって、しっかりとうなずく。
だって僕は『誕生日の大好きな王子』だから。


来年まで、がんばるよ、お母さん。


【了】(約1300字)


本日は、#シロクマ文芸部 に参加しております。


昨日は、ついに起き上がりませんでした(笑) 2日続けて、爆睡。
同居人・ケロリンが呆れておりました。

まだまだ疲れているのかも(笑)。
来週はゆっくり過ごす予定です。


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