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「このツノは、未来の貴女のため」ヒスイの毎週ショートショートnote 字数オーバー(笑)

わが家が代々受け継いできた老舗ホテルには、「人のツノ」が見える場所がある。東館の、祖母の部屋だ。
私は子供の頃、そこでツノを見た。


祖母は静かな人だったが、ときどき厳しい顔で母を部屋へ呼んだ。
母を心配した私は、こっそり部屋をのぞいた。

障子ごしに、うなだれた母の影が見える。向かい合った祖母はぴしりと、
「お客様の前で、何という失態です!」
やがて祖母の額から、ツノがはえてきた。鋭くとがったツノが、母に迫る。

「……ママにげて」
私の小声が聞こえたようだ。ツノはみるみる祖母の額へ吸い込まれ、消えた。


あれから20年。今、ホテルは母と私、弟の妻が切り盛りしている。
ある日、義妹が大きなミスをした。母は東館の部屋へ義妹をよんだ……まさか!?
私は走っていった。

障子に、母と義妹の姿が映る。母が
「ああいう時は私を呼んでね」
「すみません、お義母さん」

……ツノは、出てこなかった。
あれはきっと、子どもの幻覚だったんだ。

翌週、私が大ミスをした。母に呼ばれたが、もう怖くない。
東館のツノはもう終わったのだから。

母は私に、
「何という失態です!お前はただの従業員じゃない、私の娘なのですよ!」

厳しい声に思わず顔を上げると、母の額から鋭いツノがはえていた。

「おかあさん、ツノが……」

言いかけて、はっとした。
ツノは、誰にでも見せるものじゃないんだ。
祖母は母に見せ、母は義妹ではなく、私に見せた。
それは、あきらかな血の愛情だった。

「ごめんなさい、お母さん。もっと精進いたします」
「……頼むわよ」

すうっと、ツノは母の額にしまい込まれた。



わが家の老舗ホテルには、不思議な東館がある。
人がツノを出す場所。

私もいつか、私の娘にツノを出して見せたい、と思っている。
あのツノは、愛情ゆえにあらわれるものだから。

【了】(約700字)

今日は 毎週ショートショートnoteのお題を借りて、
字数オーバーで参加いたします。
お題は「ツノのある東館」

相方ヘイちゃんは、ちゃんと字数で収めてます!
ちょっとホラーチック。でもヒスイは、こういうのが好き♡
ラストの一行、気がきいてます!

では。
明日のシロクマ文芸部でお会いしましょう♡

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ヘッダーはUnsplashMallory Johndrowが撮影

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