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「二匹とふたり、夏の夜は黄色で苦い」ヒスイの #シロクマ文芸部

夏の夜は、黄色だから、嫌いなのです。

夜は季節ごとに色が違う、なんていうと
他の人はびっくりした顔をします。

コイツ、何言ってんの?ていう感じで。
まあ、私だって、知り合いがいきなり、

「実は私、M27星雲人で」とか言い出したら
一歩引くと思う。
相手にわからないように、そっと引くと思う(笑)
気分はドン引きで。
でも、相手は本当にM27星人かもしれなくて、
晩ごはんにはいつも、月の石を食べているのかもしれなくて。

人の本当って、どこにあるか分からない、と私は思っている。

だって、
私にはほんとうに『夜の色』が見えるから。

夏の夜は、少し重い、もったりした黄色をしている。
限りなく似ているのはマンゴーの果肉。
切り分けても切り分けても、
持ったりした重量を持つ黄色が、
ゆるやかに夜を取り巻いていて、
夜明けが来るまで、音を遮断しているような感じ。

だから、夏の夜は、静かで黄色い。

ちなみに秋の夜は鋭い銀色で、
冬の夜はサーモンピンクなのだが、
これはまた、別の話で。

その日、私はもったりした黄色い夜気をかき分けて、
犬の散歩をしていた。
昼間は暑すぎるから、夜に散歩をするの。

まだまだ秋の銀色はかけらも見えないなと思いつつ歩いていると、
向こうから、コッカ―スパニエルを連れた男性がやって来た。
茶色のスパニエル犬は、私が大好きな犬。

ちらっと見る。軽くリードを引いて、うちの犬(ジロー)を引き付けてから、頭を下げた。
マンゴー色の夜気に包まれて、スパニエル犬と男性が頭を下げた。

すれ違う一瞬、彼がつぶやくのが聞こえた。

「今年の夏の夜は、やけに、にがいな・・・」

にがい?
私は立ち止まる。鼻をクンクンさせる。つぶやく。
「にがい味なんて、しないけど。黄色いだけじゃん」

彼が立ち止まる。

「えと。黄色に見えるの?」
「そうです。変でしょう。でもあなたは、にがいんですね?」
「にがいよ。ピーマンとゴーヤを足した味かな。そっちは見える色は?」
「……マンゴーの黄色です」
「マンゴー、ピーマン、ゴーヤー。夏野菜だね」

そう言って、彼はにこりと笑った。
彼の背後で、かすかに銀色の筋が走った。

ああ。
いずれ、夏が終わるんだ。

そして私は、銀色の夜も、彼と出会いたい。

「・・・明日の夜も、散歩します?」
「するよ。この時間に。君は?」
「しますよ。このルートで。あの、秋の夜は、どんな味ですか」
「ほんの少し塩気のある酸味だよ。変なこと言っているよね、俺?」
「ううん。私の秋の夜は、銀色の筋ですから」
彼は微笑んだ。
私も笑う。


夏は終わる。いずれ。
そして私たちは犬を連れて出会い、
銀色の筋を眺めながら、かすかな塩気をせおった酸味の夜を味わうのだ。

二人と二匹で。

・・・・・・わん。


【了 (約1000字】

本日は、小牧幸助さんの #シロクマ文芸部  に参加しております。


ヒスイは【共感覚】と言うのが大好きで。
今回は、一般的な感じ方とちょっとズレたところで生きている二人を描きました。

ちょっと違ってもいい。
だいぶ違ってもいい。

そう言える世界になるといいなあとおもっています。



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ヘッダーはもちろん、はそやm画伯から借りっぱなし(笑) ありがとう。


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