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「そして絵は、売れ始めた。ウィンナーのごとく(笑)」ヒスイの駆け出しクリエイター日記

初めてクリエイターとして仕事をもらった時、お客さんから、こういわれた。

『仕事に対する評価をね、自分に対する評価だと
 思わないほうがラクにやれるよ』

はじめは、意味が分からなかった。
自分と、自分がやる仕事を切り離すなんてできるはずがない。

そう、思っていた。

そのお客さんがいった本当の意味が分かったのは
私がフリーランスとして働きはじめて1年ほど経ってからだった。

『仕事に対する評価を、自分に対する評価だと
 思わないほうがいい』

これはつまり、
作り上げたものがへたくそで、
箸にも棒にもかからず、
もちろん買ってくれる人がいない、という事態におちいっても
それは「人間としての私への評価ではない」ということなのだ。

だが。
駆け出しのクリエイターは、
こういう罠に落ちやすい。
もちろん私も、
その泥沼に、落ちた(笑)


<゜)))彡 <゜)))彡 <゜)))彡

クリエイターは、売れてナンボの商売だ。
会社員だって業績が上がらなければ
肩身の狭い思いをする、と聞く。

だが、それでも会社に籍があれば
お給料はもらえるはず。

クリエイターは
売れる売れないが、生きる死ぬに直結する。
売れなければ
食べていけない。
だから駆け出し時代は
深夜のコンビニで働いていたり、
スーパーで実演販売をしていたりする。

こうなると、
どん底の底まで落ち込むことになる。

冒頭のお客さんが親切に教えてくれたことなど
さらさらとわすれてしまい、
売れない=死んだほうがましだ、ということになり、
実際に、売上があがらないのだから
毎日、実家からもらった夏の残りのそうめんを食べて
しのぐことになる。


その頃の私は、
『売れる・売れない』に固執しており、
おそらく作ったものすべてから
『売れたいんですうう!!』という叫びが
聞こえていたはずだ。

そんなもの、
絵でも文章でも
売れるはずがない(笑)
したがって、
私は延々と、スーパーでウィンナーを焼いて
実演販売をしていた。

ウィンナーは
よく売れた(笑)
もういっそ、実演販売を本職にしたらいいのでは?
と思うほどに
よく売れた(笑)。

そんなとき、
あのお客さんが、また声をかけてくれた。

『小さいですが、絵の仕事があります。やりますか?』
『やります やりますやります!!!』
『じゃあ頼みます。でもね、”売れてない雰囲気”の絵は
 ほしくないです。描けますか?』
『描きます……けど、実際に売れていないんです。
 勝手にそういう雰囲気が出ませんか』

その人は、笑った。

『自分から”売れない”匂いを抜きなさいよ。
 じゃ、あとからレギュレーション送りますんで』


オーダーを受けてから、二日間。
私は考え込んだ。
『売れない匂い』はどうやったら抜けていくのか?

三日目の明け方近く、私はやっと叫んだ。
「あたしが売れても売れなくても、あたし個人とは関係がない。

 絵に対する評価と、あたし個人に対する評価は
 別物として、切り分けておくんだ。

 どんなに絵を褒められたって、あたし個人が褒められたわけじゃない。
 どんなにけなされたって、あたしという人間そのものが
 否定されたわけじゃない。

 その距離感があれば
 『売れない』匂いは、消えていく」って。

距離。

仕事との適度な距離をおくことで
どんな評価をされても、
また次を作れる。

それはちょうど、あのウィンナーの実演販売と同じことで。

ウィンナーの評価と
私個人の評価のあいだには
揚子江の対岸くらいの距離があったから、

だから私は気楽に売ったし、
気楽に売るから、よく売れた。

それと同じことが、
私と絵とのあいだに必要だったわけだ。

作品と、作り手との距離感は、
仕事と『私』という個人とのあいだの
適正な距離感でもあったのだ。


もちろんそれ以後も、
私はたびたび落ち込んだ。

作っても作っても売れず、
世の中の流れに乗れず、
世界で『流行』『バズり』『大ヒット』したものを見ても
全くぴんと来ず、

『これの何がいいのか、さっぱりわからない……』

というような人間のままである。

でも、以前ほど酷評も辛口評価も、
気にならなくなってきた。

それはおそらく、
私が適切な距離をとれるようになったからだと思う。

作品としての絵から、
文章から、
距離を置いて、

作っている自分と作り上げた物のあいだに
あるべき距離を
とれるようになったからだ。


そして絵は、売れはじめた。
ウィンナーのごとく(笑)。


というわけで、仕事を始めたばかりの新入社員の皆さん。
どうか
仕事に対する評価が
人格を決めると
思わないでください。

どんなに素晴らしい人にでも
落ちるときはある。
どんなに褒められる仕事をしても、
褒められるに値しない人間もいる。

仕事と、あなたのあいだには
埋める必要のない距離があるのです。
距離があるからこそ、続けられる。
『自分=仕事に対する他者評価』だと
思わないようにしてください。

あなたの価値とは、
今ここに生きていることだけで
もう十分に、満たされているのだから。


【了】


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ヘッダーはUnsplashYasin Arıbuğaが撮影

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