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「”イイ男”には、小学五年生が住んでいる」【読書感想文企画】『哀愁の町に霧が降るのだ』椎名誠

「すべての男には、小学五年生が住んでいる」ヒスイ

今日は読書感想文! 選んだのは『哀愁の町に霧が降るのだ』椎名誠 です。


椎名誠といえば、にぎやかなエッセイや追い詰められ系(笑)のSF、思春期の抒情をみずみずしく描く短編などで知られています。
ヒスイがスキなのは、にぎやかなエッセイ系。

シーナさんがお仲間と日本中、世界中をかけまわり、離島で焚火をしたり釣りをしたり、海外で暴れたりする様子を読むのが大好きなんです。

そして読むたびに思う。
『この面白さは、男集団だからだなあ』と。
『ここに、女子が一滴でも入っちゃうと、面白さ半減だ』って。
つまりシーナさんは、14872%そっくりぜんぶ『男子!!!』で出来上がっている人なんだろうと思うんです。


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一説によると、人間は『群れる』生き物だとか。
『快楽(けらく)の構造』(大島清)によれば人間は、
原初的な本能から生まれた三大本能『性欲・食欲・群れる』が満たされると心地よいらしい。

男子高校生などが 5~6人で小さな集団を作っている様子を見ると
なるほど、群れる快楽というのもあるんだろうなと思います。

群れる快楽というのは、集団に属しているという安心感だけじゃない。

多数の個性がぶつかり合うことで、相乗効果でオモシロさが倍増して、
どんどん「おかしさ」の濃度が上がっていくこと、なんじゃないかなと思うんです。
そして男子は、高濃度なオモシロさが大好き(笑)
ちょうど『哀愁の町にーー』で描かれる、摩訶不思議な共同生活みたいなものに、スバヤク反応するんでしょう(笑)。


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『哀愁の町に霧が降るのだ』では、語り手シーナさんの高校時代の話から、成長して小説家になっている現在まで、時間軸を自由に行き来しながら物語が繰り出されていきます。
メインとなるのは、六畳一間の激安アパートでの共同生活。

シーナさんが高校を卒業し、脚本の学校に通ったりバイトで食いつないだりしていたころの話です。

窓を開ける目の前に隣のアパートがあって、昼でも暗い六畳の部屋に同級生4人の男が暮らしている。全員が20代前半です。

アナグマみたいに籠って司法試験の弁場をしているキムラ。
サラリーマンのイサオ。
しょっちゅう恋をしてはフラれ、不思議なイラストを描いているサワノ。
そしてシーナ。

笑うしかないほどの貧乏生活の中で、飲んで食べて暴れて、くだらないことをして、それでも一日ずつ前に進んでいく。
今どき、どこを探しても見つからないような高濃度アオハルが、怒涛のごとく描かれています。

こういうのを読むと、ヒスイも男子になりたかったな、と思う。
日の当たらない六畳一間って、つまり小学生男子の秘密基地みたいなもんだから。

男子の秘密基地って、聖域なんだよね。
ふだんどんなに仲よく遊んでいても、そこだけはどんな男子もきっぱりと、

『ごめんヒスイ! ここから先は女子立ち入り禁止だから!』

と言い切るような、大事な秘密基地です。

いいなあ。
ヒスイも秘密基地、欲しかったなあって
ちょっとは男子になりたかったなあって

『哀愁の町ーー』を読むたびに思うんです。



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もちろん。どんな男性だって、永遠に秘密基地で暮らすことはできません。
秘密基地には期限があります。
期限があるからこそ、オモシロさが倍増する。
無意識のカウントダウンの中で、昼なお暗い(笑) 六畳一間にも時間がながれ、やがてシーナの身の上にも変化があって、秘密基地の日々は終わりを迎えます。

それは、男子が大人になるってことなんだと思う。

初めから「女子」として生まれ、「女子」として成長するのとちがい、
男子の成長過程には、くっきりした年輪が刻まれている気がする。
『哀愁の町ーー』の中でも、さまざまなステップをこえて、やがて彼らは少年では、なくなっていきます。

でも。
男たちは変わらない部分も持っている。
この本の流れでは、過去と現在が並列で進んでいく部分もあるんですが、どの時代でも登場人物のキャラがあんまり変わらないんです。

弁護士になったキムラさんは、やっぱりしっかり者の「おとうちゃん」だし。
長年、シーナさんとタッグを組んでいるイラストレーターのサワノさんは、どこかヘンな空気を作っている。

それはやっぱり、登場人物ぜんいんが体のどこかに小学五年生のしっぽをつけたまま大人になっているからでしょう。
これだけは、男子の特権だ(笑)

だから、ヒスイもここで言いなおしましょう(笑)

『”イイ男”には、小学5年生が住んでいる』ヒスイ。

貴男の中に、小学5年生はいますか?
貴女の隣の彼に、小学5年生のしっぽは見えませんか。


あー。
ある?


やっぱりね(笑) 

【了】

参考文献:『快楽の構造』大島清

#読書の秋2022
#哀愁の町に霧が降るのだ

ヘッダーは、PexelsによるPixabayからの画像

あっ、明日はヒスイ、お休みですー。
また土曜日にお会いしましょうね。


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