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「穴の中で、御身とともに」ヒスイの毎週ショートショートnote

35年連れ添った妻が亡くなって、半年たった。グレーヘアを綺麗に編んだ彼女はどこにもいない。
さびしい。
暗い穴の中にいるようだ。永遠に続く穴。出口のない穴。
いっそ後を追おうか。
子供はいないし、仕事は定年退職。家のローンは終わり、借金すらない。
社会とのつながりは、子猫の鳴き声ほども頼りなく消えた。
今日も無為に庭を眺める。

昨夜、眠っているとひんやりした手を感じた。
妻だ。思わずつぶやく。

「そっちに行くよ」
手は私の頬で静かに動き、冷気で伝えてきた。

『まだ、だめ。寿命があるのよ。最後まで生きて』
「一人は嫌だ」
『困った人ね。自分で作った穴にはまり込んでいる。わかった、贈り物をあげるから』


目が覚める。まだ明けきらない、ほの白い空の下で小さな鳴き声が聞こえた。
庭を見る。

「にゃおおーーん」

小さな黒猫が私を見ていた。漆黒の毛に銀色が混じっている綺麗な子猫だ。
私は庭へ降り、なつかしいグレーヘアの子猫を抱き上げた。

「ありがとう、お前」

【了】(改行含めず409字)


今週も、たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
お題は「穴の中の君に贈る」(笑)
この企画、毎週ものすごいお題が出るのですが、
今週は格別に厳しかったです(笑)

ヒスイのショートショート相棒(笑)、へいちゃんは
12月、特別なチャレンジ中。

毎日、単品でも楽しめるショートショートを連作で公開中。
クリスマスまでのアドベントショートショート集になるみたいです。
単品でもおもしろいですし、続けて読んでもワクワク。
ぜひどうぞ―!


ヘッダーはUnsplashMateus Campos Felipeが撮影

明日は小さなヒスイ日記をアップします。
寒くなってきました。皆様、ご自愛くださいね💛

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