「土曜の朝は、いまだ晴れ」第5話”キス(ヒロさん)”
・・・
「ねぇ。聞きたい?」
しばらく黙っていた彼女が僕に訊いた。
「いいよ。君が言わなくてもだいたいのことは分かる。僕は勘が良いんだ。みんなに褒められるよ。」
「ほんとに?そんなこと誰からも聞いたことないけど」
「ほんとさ。僕にはわかるよ。あそこの親父は火星人なんだろ?
前から怪しいと思ってたんだ。
目の前でたこ焼き食ってるヤツを恨めしそうな顔で眺めてたのを見て、すぐにわかったよ。
ヤツは火星人だって」
「ちがうの」
「いや、否定しなくていいよ。前から気づいてたんだ。それに、前の彼氏の時『彼は会社でも日陰者だけど元々地底人だから』って言ってたのを覚えてるよ。君の好みはだいたいわかってるさ。」
「でも私、こんなことになるとは思ってなかったわ」
「どんなこと?」
「半魚人と付き合うことになるなんてことよ」
僕らは2分休符くらいの間を挟んで、大笑いした。
「しかし、まさか僕が半魚人とばれていたとは思わなかったよ」
「当たり前よ。私はあなたのこと全部わかるんだから」
・・・
僕らはそのまま国道沿いの道を歩いた。
中小企業のビルが並ぶ通りは週末はがらんとしていて、たまにポツンポツンと開いているカフェが見えた。
彼女は少し俯いたまま何か考えていたようだった。
「どうしてもっとやきもちを妬いてくれないの?」
「妬いてほしいの?」
「だって私、今、妬いてるもの。前の彼女たちともこんな会話してたのかな、って。この会話は私との間だけじゃないんだろうな、って。私だけのものじゃなかったんだな、って」
彼女は、うつむいたまま手をぎゅっと握りしめて、ぽろぽろと泣いた。
そして、僕らは、週末のがらんとした国道沿いで、長くて深いキスをした。
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