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『お腹の中か……タルトタタン』ヒスイの家族短編~苗子ちゃん”俳句でぽん”の参加作③

『お腹の中のタルトタタン』

姉というのは、どうしていつまでも、妹を5歳児みたいに思っているのだろう。少なくとも、あたしはもう30を超えているんだけど。

姉は古風な内装のカフェで膝をそろえて座り、シルバーフォークを使ってアップルパイ——メニューによれば『タルトタタン』——を切り分けた。
「ひとくち、食べる?」
「うん」
「このカフェ、いいでしょ? 古いお寺の敷地にカフェを作るなんて、よく考えるわよね」
あたしは鼻をひくつかせた。
「たしかに、お線香のにおいがする」
姉は顔をしかめた。
「子供みたいなこと言わないの。ねえ、来月の雷(らい)おばあさまの法事は、ここでやるからちゃんと来てね」
「行くよ」
「新平(しんぺい)くんも、連れてくるのよ」

あたしはパイを食べる手を止めた。
「——新平を? なんで」
「ママが心配しているから」
「心配されることなんて、ないよ」
「ママにはあるんでしょう。あんたは、いつだってママのお気に入りだったから」

くん、とお線香のにおいが強くなった気がした。あるいは、隣のテーブルの話し声が高くなったか。
あたしは姉に言いかえす。

「ママのお気に入りは、お姉ちゃんと、弟の紘一(こういち)じゃん」
「おバカちゃん」
そう言いながら、姉はまた大きく切ったアップルパイをこっちの皿にのせた。

「私は最初の子供だから、ママは神経質だった。育児なんて楽しくないって、ずっと言ってたみたい。雷おばあさまから聞いたことがあるのよ。
紘一は最後の子供で、唯一の男の子。うちの会社を継ぐ大事な男の子。責任があるってぶつくさ言っていた。これは私が直接聞いたから知っているの。
あんたは――」

と、姉は言葉を切り、卓上の秋バラを柔らかく撫でた。夏の暑さを耐えた花弁は、春バラと違ってキュッと引き締まった美しさを持っていた。

「あんたは、ママが何のプレッシャーも感じなかった唯一の子供よ。愛情の”熱”が違う。
だから」
「だから?」
「その、お腹の子供をどうするつもりか、心配しているの」


「……なんでわかったの」
「私もママも経産婦です。見ればわかるわよ。
来年の今ごろ、赤ちゃんを連れて、またここに来たいわね。
しってる? タルトタタンって、フランスにいた『タタン姉妹』がリンゴを焦がして失敗したタルトが元らしいわよ」

「……もし、あたしが焦げてても、子供は違うよね」
「失敗した大人はいても、失敗作の子供はいない。みんな成功作よ」

ことん、と姉は静かにフォークを置いた。
「タルトタタン、もう一つ食べる?」
「いや。もうお腹いっぱいだから」

あたしはそっとお腹を押さえた。
来年の今日。
一緒にここへこようか。ねえ、お腹の中のタルトタタン。


【了】(1052字)


今日は note友だち、苗子さんの企画に参加しています💛
現在開催中の「十六夜杯」に応募されている俳句、短歌、川柳から
2つ以上を選んで、それにちなんだものを書く、という
チョー面白い企画です。

すでに、絵と詩を書かれた「せきぞうさん」や長歌の「りこっとさん」などなど
何人かの方がお書きになっているので、良かったらどうぞ―。
これ、しめきりはないみたいなので(笑)
十六夜杯が続く限り、ずーーーと楽しめます💛



今回ヒスイは、こちらのお二方の俳句をお借りいたしました。

「古刹にて亡き女王へ秋薔薇を」
緋夢灯ーhimutoー さん


「産んでやる君の子供だタルトタタン」
とのむらのりこさん


やってみると、元の俳句とは違う世界ができあがって、
とっても楽しかったです。
苗子さん、ありがとう💛
ってか、お借りしたお二人に 失礼がないといいなあと
思うだけです(笑)。
まあ、きっと、おふたりとも許して下さると思うので(笑)

なおなお。
本日のお話は1870%、フィクションです(笑)。
ご心配なきよう(笑)。

明日は、川柳でいっちゃおっかな~、と思います。
十六夜杯、めちゃくちゃ盛り上がっていますね!!
ではまた。明日ね。

切り絵ふうの絵がさわやか! これはもう、大好きな絵です💛
俳句の風景にもピッタリ!

長歌というスタイルを
初めて知りました。
これはなんていうか。
面白すぎました。ちょっと切ないところもあったけど。
長歌。ヒスイもハマりそうです!

ヒスイをサポートしよう、と思ってくださってありがとうございます。 サポートしていただいたご支援は、そのままnoteでの作品購入やサポートにまわします。 ヒスイに愛と支援をくださるなら。純粋に。うれしい💛