嘘つきののちゃん
(最後にYouTube版を掲載しています)
その子は元々私の友人の飲み友達で、一度だけ会った事がありました。
私が飲んでいる所へ、友人と一緒に来た子で、おっぱいが大きい事が自慢だったらしく、挨拶代わりに私に触ってみてーと。
やんわりとお断りしたけれど、何故か
「全然いいよーさわって触ってー」と
まるで親戚宅に行き。
「上がってって上がってって」「いえいえここで失礼します」
的なエンドレスな会話を思い浮かべてしまいました。
結局のところ、飲み屋のカウンターで触るハメになったのですが・・・。 そんな大らかなお女の子を、みんなは
「ののちゃん」と呼んでいました。
ののちゃんは、兎に角友人が多く、友達になった人の友達も次々芋づる式に友達になっていく。
話題も豊富で、友人がよく私に聞かせてくれる
『ののちゃんが話していた話』
を楽しく聞かせてもらっていましたが
本当かなぁ? と思う話も沢山ありました。
掻い摘むと、あの人は物を貸したら返さない、返しても汚くして返されると言う話なのですが。
ののちゃんが語ると全員極悪人の様になるのです。
ののちゃんの友人が職場でリンチを受けたらしいのですが、後に自分が仇をとってきた。
要は相手の会社で暴れたらしいです。
前に働いていた車のディーラーの懇親会キャンプに行ったら、本社から来ていた社員二人に乱暴されそうになったが命辛々逃げた、など。
それは女子にありがちなので逃げられて良かったなとは思っていました。
少し普通では無い話や、眉唾な話も多々あったのですが、話し上手な為、友人も興味深々で聞いていたのだそうです。
ある夜、友人に電話がかかってきました。
それはののちゃんでした。
『怪我をしている助けてほしい、迎えに来てほしい』
との事で、急いで待ち合わせの駅前に到着すると、そこには服が所々裂け、打撲と擦り傷だらけののちゃんがいました
聞くと。知り合いに誘われて行った先がネズミ講のようなセミナーで怒ったらボコボコにされたと言う事でした
友人は警察に行こう、と最寄りの交番に行くとパトロール中らしく、いつまでたっても警官は帰ってこず、結局1時間待っても帰ってこなかったので、家に帰って怪我の手当てをしたのだそうです。
友人はその一件で『今まで話半分で聞いていた話も、本当の事だったのかも、ののちゃんはそんな巻き込まれる星の下に生まれた人なんだな』と信じてしまったのだそうです
ある日、私は友人から相談を受けまし。
自分の付き合っている彼氏が、ののちゃんにちょっかいを出したのだそうです。
ののちゃんの話によると。
友人の彼氏に呼び出され行ってみると、ドライブをしようと言われ、何の用かとたずねてものらりくらりで、最後にはホテルに行こうと誘われたというのです。
「断って帰って来たけれど、あんな男とは別れた方がいいよ」
と言う話でした
私は「彼氏にちゃんと確かめた方がいい」と言いましたが
友人は「気持ち悪い」といい、話もせずに別れてしまいました。
実は一度友人の彼氏と会ったことがあるのですが。
正直、今の友人の旦那さんよりはさっぱりして、ちゃんと会話も出来る人で、今でもそちらと結婚した方が良かったんではないかと思う、割と爽やか青年でした。
その何年か後、友人は結婚し子供も生まれましたが、相変わらず、ののちゃんとの付き合いは続いていました。
家にも何度か遊びに来ていたらしいです。
ある日、ののちゃんが友人に
「あの人って性格悪いよね、あなたの事こんな風に言ってたよ」と
「あの人」とは友人の学生時代からの親友、Aの事でした。
Aはののちゃんに
「結婚して子供も出来て羨ましいし憎たらしい、遊びに行くけど子供なんか全然可愛く無いし、死ねばいいのに」と友人に対しての暴言を吐いたそうです
それを聞いて私は信じられない思いでした。
実は私もAが高校生の頃から知っていて、そんな事を言う人では無からです。
友人も「信じられない」とは言いつつも、ののちゃんの事を信じているので、Aと距離を置くようになりました。
それを察したのかAからの連絡も少なくなっていきました。
ですがたまに、Aから忘れた頃に連絡が来るのです。
嫌いなら連絡しなければいいのに、と腹立たしく思っていたそうです。
それをののちゃんに話すと。
この間、Aはあなたの事、こんな風に言っていたんだよ、と言ってその度に罵詈雑言を並べ立てたのだそうです。
何度かそんな事を繰り返すうち、友人は何か違和感を抱くようになっていました。
Aは元々そんな事を言う人では無いし、そんな事を言われるほど接触もしてもいない。
これは直接本人にはっきりさせる必要があると考えた友人は、ののちゃん抜きでAと会う約束をしました。
すると、とんでも無い事がわかったのです。
Aもののちゃんから、ある事無い事を吹き込まれていました。
友人が「デブ、鬱陶しい、死ねばいいのに」と言っていたとか、罵詈雑言を、まるで友人が言ったかのように、ののちゃんがそれぞれに嘘を吹き込んでいたのでした。
何を言われたかお互いに確認しあうと、二人は段々と怖くなってきました。
お互いがお互い、そんな悪口は一言も言っていないし、全部がののちゃんの創作で、実は他人の口を借りた
”ののちゃん本人の言葉” ではないのか? と
そう考えると、友人は子供が死ねばいいと言われているし、Aも死ねばいいと言われている。
そんな事を考えている人を信じて、家にまで招いていたかと思うと恐ろしくなったのだそうです
そこで、ハッとしました。
元彼はどうだったのだろう? あれも嘘だったんではないか? と
確かめずには居られませんでしたが、振った手前電話し辛い。
友人は結婚もしている。
躊躇しているとAが「私が確かめる!」
と一肌脱いでくれたそうです。
その元彼と繋がっているであろう友達に間接的に連絡を取ってもらい、数日後にあちらから連絡を貰う約束を取り付けたそうです。
数日後、無事に元彼と連絡を取れ、元彼に事と次第を話して聞かせると、あちらはかなり驚いていて
「自分から誘った事も無いし、ましてホテルに行こうなんて言ってない。それにあいつはタイプじゃ無い!!」と怒ったそうです。
別れてから、ののちゃんから誘われた事はないか? と聞くと。
そんなことも一切無く、元々連絡先も知らないし、今の今まで存在すらも忘れていたと。
全てが嘘でした。
何の為にそんな嘘をつくのかもわからないし、何より怖い。
その後二人は、お互いにののちゃんと距離を置く事にし、友情は復活し、今でも仲良くしているようです。
確かに嘘をつく人は沢山います。 大体は保身や見栄的なものなのではないかと思います。
ネット上でも、全てを晒している人は・・・いないのじゃないかと思います。
逆にさらけ出す事が身の危険に繋がったりしますし。
そうではなく何の為かわからない、理由のない嘘付きが一番怖いです。
人間関係を全てぶち壊し、引っ掻き回す事に喜びを感じる者が世の中にはいるのですよね。
それとも、その人の頭の中の現実として、他人をおとしいれざるを得ない何かが起きているのでしょうか?
どちらにしても、直接被害を受けた者にとっては、とても怖い話だと思います。