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ヒスイ
2015年6月9日 02:08
其の人は泣いていた。誰にも気付かれぬようひっそりと、おそらくは自分でも気付かぬ裡に。その涙を止めたいと願った。瞬く度にはたはたと落ちる涙を、その煌めきを、別の耀きに変えたいと。私は、其の人の笑顔に救われていた。彼女の愁いない咲くような笑顔に、ただただ救われていた。何故、彼女に憂いが無いと思っていたのか。その胸にあるのは耀きだけだと思っていたのか。その胸に巣食う悲嘆が、彼女の胸を詰まらせて
2015年6月9日 02:07
「貴女の涙の理由を、私に話してくださいませんか。」と彼の人は言った。私の痛みがそのまま己の痛みであるかのように、切なく眉を寄せて言った。不思議な話だ。私は泣いてなどいなかった。だが此の人は私が泣いているのが解るのだと言う。私の苦しみを、解りたいと言う。優しい人だと思った。その言葉が私にとってどんなに嬉しかったか。しかしだからこそ私は、話すわけにはいかなかった。優しい彼の人を、私の道に巻
2014年8月17日 03:06
秋も終わり、木枯らしが葉を攫っていく冬の始め。寂しい木々に埋もれるようにして、その社はありました。良く言って神さびた、現実的に言うと廃屋。そんな社に住まう神もまた、ボロボロだったのです。落ち窪んだ目、痩けた頬、疎らな無精髭、ごわごわの短い髪、所々擦り切れ薄汚れた装束。まるで乞食のようにみすぼらしい形をしたその神は、何をするでもなく、ただ床の上にごろんと寝そべっていました。手を目の前に翳すと、
2014年7月13日 01:21
毒を唅むいつからだろう こうして毒を宿すことを苦に思わなくなったのは昔は毒を持つことすら忌避していたのに 今はもう 毒を生み出し刃を人に向けることすら厭わなくなったそこに喜びすら感じるほどに思えば幼い頃からこの気性だった人を傷付けることに何の躊躇いもなかった思う儘に刃を振るってそれを愉しんでいた 暗い悦びだそれから少し成長して世界が広がった時、毒を持つこと、刃を振るうこ
2014年6月20日 04:38
今はもう失くしてしまった輝きを憶えているかつてあった この中に確かに無くなったワケじゃない 未だここにある 曇ってしまっただけ今こうして生み出そうとしても、それはかつての輝きを宿しはしないのだろう純粋な煌きは失われ 私は曇ってしまったのだろうこの手にある水晶玉は覗き込んでも煙をくゆらせるばかりで かつての 星を映す湖面のような煌きはない曇ってしまった事を悲しくは思うが輝きを