映画「パンケーキを毒味する」
パンケーキの比喩
フワフワなほど美味しいのがパンケーキだ。甘いシロップが香り高いとき、さらにもっともっとと食べてしまう。
パンケーキの比喩はなんだろう?甘い誘惑を指すのか。とくにそれが政治の関係で登場するときに。
映画冒頭では、時の菅総理が記者らを招いて開くという「パンケーキ懇談会」のパンケーキが何なのか? 菅総理がパンケーキのようにスカスカなのか?という問いを発する。
スカスカというのは、何も考えていない頭というニュアンスもあるが、菅氏の関係者がいずれも取材拒否を続けたという実態から、中身が見えない存在という側面も言おうとしているようだ。
数枚の鱗
本作は、菅総理の権力構造の作り上げ方、メディアと政治の関係、メディアがなぜ政権寄りの報道になびくのか、などを左派的批判意識で抉ろうとする映画だ。
筆者としては、目から鱗が数枚も落ちる話もあり、一方でもうちょっと深掘りした話を知りたいと思うところもあった。
公開は本年(2021年)7月30日から始まり、2ヶ月弱経った現在(9月27日)も、絶賛放映中だ。
菅氏は、警察庁など省庁の長官ではなく、ナンバー2の人物を側近に起用するそうだ。ナンバー2というのは、つまりは長官になれなかった人物。そういう悔し涙を飲んでいる人物をあえて自らの側近にして権力を持たせる。そうすることで官僚などを手名付けていくらしい。
反政権的なニュースキャスターなどいれば、そういう側近の2番手官僚に、キャスターの上司の番組幹部のケータイにショートメールを打たせるなどして暗に圧力をかけていく。そうしたことがキャスターの降板などにつながり、反政権報道が抑止される。
メディアは自分の新聞だけ他紙と同じ報道をしていないと間が悪いと思うこともあるそうで、それによっても政権寄りの報道が繰り返される。9月現在、自民党総裁選の報道がコロナの報道を勝りメディアが自民党劇場のようになっているのは、そういう結果かもしれない。
官僚ナンバー2だけでなく、戦後の日本のメディア界で首位に立てなかった報道機関、つまり朝日新聞などを脚光浴びるようにして手名付けたのが、安倍政権、菅政権だったともいう。
それを「仕返し政権」と本作では表現していた。
くすぶる2番手に、活躍という形で「仕返し」の機会を与えることで、政権に従順にさせるというものらしい。
朝日新聞は森友問題では動いたメディアだったと思うが、その逆の面も持っているということなのだろう。
その他、ニュースの国会審議の報道で、首相と野党議員が小気味よくやりとりを交わす場面。それは実は切り取って作られたもので、実際の生中継の国会審議を見ると、首相が後ろの秘書が答弁内容をメモってくれるのをじっと座って待っていたり、質問に全く答えず同じ答弁を数十分繰り返していたりという様子が映っているという実態も暴かれていた。この暴き方は実証的で、生中継に映る他の議員と同様、苦笑いして見てしまう内容だった。
実証的といえば、野党議員だけでなく、石破茂氏のような与党の重鎮も、ズバズバと自民党の内実を述べているシーンも。かつての自民党は、党内で議論が盛んで尊敬される政治家がおり、その感化で若手が熱心にやろうとする時代があったのが、今はそうでなくなってしまった、議論がなくなったなどと批判を口にするところだ。
「パンケーキ懇談会」
そういう取材や映像などに基づいた証拠が示される話とともに、より深掘りして知りたかったところもある。
菅氏が記者らを集めて行う「パンケーキ懇談会」が、そこに出席した記者らがその後みな菅氏に従順になっていくという、「魔法」の構造である。
それはどうも2番手に仕返しの機会を与えて、という先のやり方だけでは、理解しにくさが残った。パンケーキが実際に振る舞われるようだが、まさか口にしたそのフワフワの食感に感動して酔いを回され懐柔されていくという話ではないだろう。
ましてパンケーキの中に媚薬が入れられているわけでもないだろうし、、、
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