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コンバージョン(改造)作品はもう作らない

タイトル画像は、2014年ごろに作った、1/12スケールのコンバージョン(既存キット改造)作品です↓。

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グレーの部分になっているヘッドと脚が自作したオリジナルパーツです。スカルピー粘土を使って造形しました。ちなみに改造前のオリジナルキットはこのような感じです↓。

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これは90年代に模型イベントで賞を獲ったフルスクラッチ作品をベースに、2000年初頭に香港のガレージキットメーカーP&J designから発売された「1/12 ドイツSS擲弾兵」のレジンキットです。

当時アーマーモデリング誌でモデルカステンブランドでも発売されたことがあるようです。ヒストリカルフィギュア伝道師・松岡寿一氏の作例がアーマーモデリング誌で掲載されていました。私のこのキットが発売された頃は完全に模型の世界から遠く離れており、全く知りませんでした。

私が調べた範囲ですが、どうやら原型は香港の美大出身の方が担当したそうで、当時はスケールと精密さが新鮮で話題になったようです。

限定発売された後はレアキットとなり、eBayで高額で取引されていました。私は、とある海外のモデラーからこのキットを購入する機会を得て入手しました。

しかし、手に入れてみたものの、造形が私の好みに合わず、全く気に入りません。ディテールは精密なのに、どうしてもヘッドの造形と脚の重心・ポジション・造形が好きになれませんでした。そして、色々考えた結果、ヘッドと脚を自作した結果がこの造形、というわけです↓。

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我ながらかなり気に入った改造形で、SNSにアップした所、結構な反響がありました。

ただ、キット付属のヘルメットのサイズが小さいのが気になりました。とういわけで、ヘルメットもフルスクラッチすることにしました。Apoxie Sculptという水性エポキシパテを使い、盛る・削り出しの繰り返し。
そして完成したのがこのヘルメット↓。

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スケール的にも正しく、ヘッドにもマッチして、いい感じになりました。これもSNSでアップしたところ、良い反響がありました。そして悪魔の声。

「ぜひキット化を! 絶対に買う!」

そう言われたらもう、作者冥利に尽きますので、頑張るわけです。私が造形した部分しか著作権はないので、「コンバージョンキット」という形にすることにしました。

キット化開始

真空脱泡機を導入し、自前で複製製作を開始。

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そして、パッケージ化し、キット化完了。

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簡単そうに書いてますが、最初の造形からこのキット化完了に至るまで1年かかっています。キットレベルの綺麗なレジン複製のために真空脱泡機なども購入したので、ものすごいコストと労力を使いました。キットは5個しか作りませんでした。

生産数が少なかったのは、

・生産終了されてだいぶ経過したキットのコンバージョンキットであること
・需要が少ないであろうということ

というのが理由です。正直、コストにまったく見合わない、ほぼボランティアな作業です。実際、

「欲しいという人がいる限り、その人達のために作りたい」

という気持ちに突き動かされていたので、製品化というよりほとんどボランティア作業ですね。

この経験を通して分かった、私が本来やりたいこと

当初「欲しい!買う!」と名乗りを挙げた人達(全員海外のモデラーさんたちです)に、「完成しましたよ!」という通知を送り、レジン代金とほぼ同じ価格で取引しました。利益はゼロに近いです。マイナスだったかもしれません。まぁ、別にそれは良いのです。もともとボランティアな気持ちだったのですから。

ただ、このコンバージョン作品制作を通して、私自身が自分自身に関して分かったことがあります。それは

「他人の造形のコンバージョンは私が本来やりたいことではない」

ということでした。

私の中でコンバージョンは、いわば他人の造形に付加価値を与えるようなイメージです。異論はありますが、これは私的には
「自分自身の作品とは言えない」、と私は考えています。

絵画作品で例えれば、他人の下絵に修正を加えて色を塗って「私の作品です」と言うような居心地の悪さを私は感じてしまいます。

この件に関しては、賛否両論あるでしょう。反論は認めます。事実、フィギュア模型の世界では多くのフィニッシャーさんが素晴らしいペインティング作品を世に出しています。彼らの作品はそれだけで立派な「作品」として評価されています。私もそれには同意です。

でもそれはあくまでも「ペインティング作品」として評価しているからです。

「造形からペイントまでを含めた完全オリジナル作品」という理想

がある私にとっては、それは目指すゴールではありません。

現代アートならそれはありでしょう。ですが・・・苦悩の結果私がたどり着いたのは、

「私がやりたいことは(いわゆる)現代アートではない」

ということでした。

なので、このコンバージョン作品を振り返る事をきっかけに、自分のやりたい事を改めて再認識した形になりました。

完売したものの

当初名乗りを挙げた人に送ったあとは、この原型は封印しました。ところが、度々「このコンバージョンが欲しい」という人がメッセージを送ってきます。その度に余った生産パーツで良ければ・・・と送ってましたが、在庫が尽きてしまいました。もっというと、私の気持ちが尽きてしまいました。私が本来やりたいことを具現化した作品・キットではないからです。

このコンバージョンを制作したのは7年も前ですが、つい先日も、このキットはどうやったら手に入る?というメッセージを海外のモデラーから頂きました。丁寧に、「残念ながら完売しました。もう生産しません」と返信しました。まだこのレアな造形を欲しがる人がいることに驚きつつも、時間もかけるコストも、いや何よりもモチベーションが全くないので、もう再生産することはないでしょう。

自分の思いとは相反することにエネルギーを費やした後はそれほど達成感を得られないことがよく分かった経験でした。

造形=作詞・作曲、ペインター=シンガー

音楽の世界では作詞・作曲というのがあり、歌い手がそれに命を吹き込んで聴衆に届けます。

私は、造形とペインティングもそれと同じ捉え方です。

・作詞・作曲=造形
・シンガー=フィニッシャー、ペインター
・編曲=コンバージョン

という感じです。

こう捉えると、私はどうやらシンガー専門にはなれないし、どうもそうなりたくないようです。誰かが作った曲を歌うよりも、ソングライティングして誰かに歌ってもらうほうが良い。

おそらく私は、模型の世界の「シンガー・ソングライターでありたい」のだと思います。

コンバージョンを通して得たもの

これは何よりも、

オリジナルを創るって、想像以上に大変・・・そしてその苦悩と行為こそが美しい。

ということです。このキットも、たとえ造形は自分の好みではなくても、それを生み出した技術と労力には驚嘆します。自分で作れば作るほど、他人の造形の凄さが分かってくる・・・という感じです。

なので、私は3Dスキャンで実際の人物をスキャンしたものに改造や修正を施した作品よりも、作者がフルスクラッチで造形をしている作品のほうに強いシンパシーを感じます。それは、その3Dスキャンベース作品の結果がどんなに素晴らしくても、その気持ちは変わりません。

それはやはり、私自身がイチから人体や作品を造形していく行為そのもの、「アート・オブ・スカルプティング」を愛してるからなのです。

まとめ

以上が、

「私がコンバージョン作品をもう作らないと決めた理由」

です。私は出戻って以来、「模型でアートしたい」という気持ちでこれまでやってきました。が、「アートの定義が芸大や美大を出ているか否か」、というような価値観・世界観の人達が作り上げた世界の中で戦うのであれば、私は土俵に上がることすら出来ません。もっと言うなら、そういう土俵なら、別にそれに上がろうとも思いません。

自分の純血作品を生み出したい。自分が美しいと思うものを生み出したい。その気持ちを形にしたものに美しさを感じる。それこそが本来の芸術の本質だと思っている。それが私がやりたいことであり、他の人の考えは知りませんが、もしかすると多くのフィギュア原型師・造形師・絵師達がもがきながら取り組んでいることなのかもしれません。

現代アーチストの言動や作品よりもイラストレーターや絵師の作品や言葉に共感する事が多々あるのはそういう理由なのでしょう。私のやりたい事が正しい表現でどう言語化され定義されるかはわかりませんが、きっと、「現代アート」よりも「商業芸術」に近いのかもしれません。

以上、

「「模型でアートしたい」と思っていた私が、やりたかったことが実はアートではなかったのかもね、と知るに至った」

という話でした。
ではまた。

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