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アナログ造形:『KILLING ROMMEL』(2014年作品)(その3)

前回(↓)の続き。

アナログ造形について

前々回で「デジタル造形はアナログ造形の後方互換」という話に触れました。これは私が考えた持論です。

よく「ZBrushアーチスト」とか「Blenderアーチスト」とか言いますが、その呼称は「鉛筆アーチスト」「ダンボールアーチスト」みたいに私は感じます。

「造形は、造形」なのですよね。つまり、ツールが粘土であれ紙であれパテであれ、デジタルのZBrushやBlenderであれ、「造形」という行為は同じなのです。ゆえにそれで使う造形スキルも同じ、と私は思っています。

鉛筆と紙は誰でも使えますが、だれもが練習なしに絵が描けるわけではないですよね。それと同じで、「ZBrushの使い方」をマスターしたからといって、スイッチぽんで造形作品が出来るわけではありません。
大事なのはツールや素材ではなく、自分のやりたい造形が出来る造形力があるかどうか。

そういう意味で、デジタル造形をする人は(もしやったことがなければ)粘土でのアナログ造形をやってみる価値は大いにあると思います。

私のスカルピー粘土での造形法

粘土での人物造形には色々な手法がありますが、私は小さめのスケールであればそのまま粘土の塊からスパチュラで一発彫りしていくスタイルです。

例えば1/35スケールのヘッドの高さは6.8〜7mmほどです。その場合、このような感じ(↓)で銅線に挿した粘土の塊から一発彫りしていくわけです。

1/35スケールヘッドの一発彫り

大まかに造形して1/35スケールのタイガーI戦車プラモに乗せた姿はこんな感じ↓です。私は大きめスケールを造形することが比較的多いので1/35はとても小さいですね。

1/35スケールタイガーI戦車とスカルピー造形による戦車兵フィギュア
スカルピー造形による1/35スケール戦車兵。(手やボディはモックアップなので未完成)

1/24くらいになると、もう少し作り込みがしやすくなります↓。

同じ手法で行った1/24スケールでの造形

この一発彫り手法でいい感じで行けるのは1/16くらいまでですね。1/16スケールくらいになると、肉眼で鑑賞出来る範囲で、もう少しディテールまで凝った作り込みが出来ます↓。

スカルピーでの1/16スケール造形


これ以上のスケールだと、いくつかの塊を盛ってから彫る方が効率よくなります。1/6くらいだと重くなるのでアルミホイルを銅線に巻いて芯を作ったりします。

1/35というスケールについて

1/35スケールというのは戦車模型のスタンダードスケールです。もともとはタミヤという日本のプラモデルメーカーが自社の製品の都合でたまたま考えた独自規格スケールです。ちなみに私はこの1/35スケールはそれほど好きなスケールではありません。航空機模型やヒストリカルフィギュア、戦車模型の元々の世界標準規格であった1/32スケールのほうが昔も今も好きです。

プログラミングの世界には「標準コーディング規約」みたいなものがあったりしますね。私はあれが大好きなのです。Perl言語やPHP言語でプログラミングをやっていた頃などは、あらゆるコーディング規約を隅々まで読み、最も理にかなったコーディング規約を選んで関数名や変数名を命名したりしていました。

私はプログラミング言語を含めたオープンソースプロジェクト活動をしていたり今も応援しています。そういう思想の影響があるのも理由なのですが、特定の人や企業だけが自分の都合や利益のために勝手に決めた物差しはあまり好きではありません。「複数の視点からきちんと議論や考慮がなされて練られた理にかなった規約は、時代やジャンルを超えても通じる物差し」という考えです。

なので、せっかく1/32という戦車・飛行機・フィギュアという複数のジャンルをクロスオーバー出来、それぞれが程よいサイズで鑑賞出来る世界標準規格があったのに、戦車スケール限定でいち企業の都合と戦略で決まったこの「1/35スケール」というのは成り立ちの歴史自体が私はあまり好きではないのです。

1/32〜標準だった、肉眼に心地よいスケール

1/35が登場する前の兵隊フィギュアの標準スケールだった1/32というスケールは、元々鉄道模型・カーモデル・フィギュアといういくつかのジャンルの標準スケールでした。

今でもその名残りが残っていて一番分かりやすい例としては「ミニ四駆」がありますね。あれが1/32スケールです。

この1/32の歴史を紐解いていくと、例えば鉄道模型の場合だとスケールモデルとして規格が確立された1900年初頭の「1番ゲージ」に行き着くようです↓。

模型発祥の地イギリスで定められた伝統ある規格です。

フィギュアの場合はさらに歴史があります。いわゆる「トイ・ソルジャー(おもちゃの兵隊・鉛の兵隊)」ですね。兵士の人形は、古くはエジプトの古墳からも発見されたらしいです。すでに1730年代にはドイツでブリキの兵隊人形が登場。それがヨーロッパ全土に広がっていきます。

1800年代には「鉛の兵隊(スズの兵隊とも呼ばれる)」が登場。アンデルセン童話などにも出ているようです↓。

1900年代に入るとメタルフィギュアとして製品化されていきます。
プラスチックという素材が登場し、1937年には初めてのプラスチック製トイソルジャーがアメリカで登場。第2次大戦の終戦翌年の1946年にはイギリスのエアフィックスが初めてのプラスチック製のトイソルジャーを発売します。

このエアフィックスが1970年代に発売したのが1/32フィギュアキットの名作「コレクターシリーズ」と「マルチポーズフィギュア」です。

エアフィックスの名作・1/32マルチポーズイギリス兵
エアフィックスの名作・1/32マルチポーズドイツ兵
1/32ヒストリカルフィギュア「コレクターシリーズ」

これらエアフィックスの一連のシリーズはロン・キャメロンというスカルプターが手掛けていたようです。私は昔も今もこのロン・キャメロン氏の造形の大ファンで、未だに作業机の前に飾っている唯一のプラスチックフィギュア造形です。

これはとても感覚的なものなので伝わりづらいですが・・・

1/32スケールのフィギュアは、人間の目がディテールを認識するサイズとしてとてもとても心地の良いサイズなのです。

人間がフィギュアに焦点を定められる距離は50mm-130mmくらいだそうです。カメラのレンズの元になっている基準ですね。その距離から換算すると、
・1/16スケール=約3メートル先
・1/20スケール=3.6メートル先
・1/32スケール=5メートル先
・1/35スケール=6メートル先


にいる人物を見るのと同じサイズになる、ということです。
(※参考文献:Building and Painting SCALE FIGURES by SHEPERD PAINE)

つまり、1/16スケールのシーンを作るとしたら肉眼で3メートル離れたシーンを、1/32スケールのシーンは5メートル離れて見るシーンを、1/35スケールの場合は6メートル以上離れて見るシーンを想定して作るのが肉眼で見るには優しいスケール、ということになります。

まぁ最近はカメラとSNSの進化と普及により肉眼で見るよりも拡大して見せるのが主流になっているのは理解しています。あくまでも作品を肉眼での鑑賞対象として見た場合の話です。

単純に、6メートル先の人より5メートル先の人のほうが肉眼では認識しやすいですよね。その事を踏まえて考えると、1/32スケールは人物を認識するにはほど良いスケールということになります。

そういう理屈的なことを抜きにしても、
1/32は体感として感覚的に「心地よいサイズ」
なのですよね・・・。 「ミニ四駆」が人気なのも、理屈ではなく人間の本来持っている感覚に程よくフィットするからなのではないか、と思ったりしています。これは実際に手にとって見てみないと分からない感覚的なものなのですが。

私が考える1/35スケール作品の必要条件


話が大きく横道に逸れましたので、話を造形に戻しまして・・・

そうは言っても、いまやデファクトスタンダードになってしまって今後変わることはないであろうスケールなので、既存のAFVプラモデルと組み合わせる場合はこのスケールに合うように造形することになります。

1/35スケールくらいだとあまり作り込んでも肉眼では判別出来ないくらいのディテールになってしまいます。そのため多少のデフォルメやディテールの整理は必要、というのが私の考えです。

まぁこれは、あくまでも私個人の趣向と考えですが・・・例えば模型展示会やコンペなどで1/35スケールのフィギュアを単体作品で超絶細かく作り込んでいる作品を観たりするとします。その場合、私はちょっと眺めたあとは次に移ったり、時には流して素通りしてしまいます。理由はシンプルで、

「見えないから」

です。1/35はもともと戦車模型やそれを使ったジオラマを作る事を前提としたスケールであり、肉眼鑑賞においては単体フィギュア作品には向かないスケールだと思っています。

いや、虫眼鏡を作品の横に置いて、技術を凄さを見せつけるには良いスケールだとは思います。
でも、展示会やコンペなどでの「鑑賞対象」として考えてみて下さい。私のように視力が低くさらにひどい乱視の人間にはとても辛いです。目を細めて目を凝らして一所懸命焦点をフォーカスして観ないと、見えない。「物理的に超絶に塗り込んだ目とか、全然見えない」ですから・・・ 

鑑賞者に見る努力を強いるスケールは、正直、単体フィギュア作品向けとしては鑑賞者に優しくないスケールだと思います。

そういう意味で、今回取り上げている「KILLING ROMMEL」は、

「1/35というスケールで"肉眼で鑑賞するために"最低限必要なサイズや要素を含んだ作品」

という私の思想や哲学も制作背景に入っています。無駄をカットし、単体ではなく複数のフィギュアが絡んだ「小ジオラマ」のスタイルを取っているのはそういう意味も含まれているわけです↓。

1/35スケールで必要な最小要素という思想に基づいた「私の回答作品」でもある

長くなったので、続きはまた次回。

ではまた。

(続きの記事↓)


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