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研究開発型スタートアップを5年やっている経験からの振返りと学びと展望

先日、大学1年生の学生相手にウェビナーをする機会がありました。彼らと話をしている中で自分自身の高校生時代の想い出を振り返って展開していたのですが、自分が高校生のときだったのが、今から20年も前である事実に気付かされて心底驚愕しました。現状の実年齢はもちろん認識していますが、あの頃から20年も経過したのか・・・目の前のことに夢中に取り組んでいると、なかなか振り返る機会を持ちません。そして、いまの仕事のことを振り返ると、現在の野菜収穫ロボットを開発しようと思ってから、既に5年の歳月が流れています。5年間を短いと呼ぶのか長いと呼ぶのか難しいですが、ゼロポイントからスタートし、いまの時点にいることを振り返ったら、もしかしたら誰かの参考になるのではなと思い、研究開発型スタートアップ(特にハードウェア寄り)のあるあるであろう論点に要点を絞って振返りをまとめていきます。

立ち上がりから時間がかかる

これ、よく言われることですね。シード期のタイミングで資金調達をしたときにも、よくいろんな人に言われました。結果、その通りだと思います。

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こちらが、簡単な弊社のストーリなのですが、2015年に着想してから、形になるまで4年間かかっています。とはいっても、本格的な量産に関してはこれからです。なので、キチンとした形になるまで5年半くらいの期間を要することになる見込みです。

ただ、弊社は共同代表2名の体制でやっているのですが、今までの5年間のうち、2人だけの期間が3年間くらいあります。なので、人を雇い出してからは2年ほどです。現在社員数で25名。2年で25名規模は、スタートアップとしては大きくもなく小さくもない規模感でしょうか。事業をはじめた当初はお金もありませんし、とにかく身銭を切りながら進めた時期がありました。もし、当初から潤沢なリソースがあったとするのであれば、流石に5年間はかからずに今の位置までこれたと思います。とはいいつつも、結果的に当社は相応の時間がかかっています。その理由について後述していきます。

お金が集めにくい

研究開発型スタートアップは、他のスタートアップ企業と比べると、お金の出し手がそもそも少ないです。世の中にはSaaSに特化したVC等はありますが、ハードウェアに特化したVC等はほぼありません。そもそも、対象となるスタートアップの数自体が少ないという理由もありますが、研究開発系のスタートアップに対して知見のあるキャピタリストの数自体も決して多くはないと感じています。

そもそもですが、資金調達を募るうえで、分かりやすい数値はトラクションです。実績がどれだけ出ているか。その数字から、このサービスは伸びているのかどうなのか。どのようなポテンシャルがあるのか。どこにお金を突っ込めば、ブーストさせられるのか等々。想定される市場規模に対し、現在のトラクションの数値から、信頼が生まれたり、将来に対する期待が発生します。しかし、研究開発型のスタートアップの場合は、トラクションを出すまでの道のりが長いです。Webやアプリを開発して、すぐに想定顧客に試してもらうといった形で実績を出すのではなく、実績を出すための開発にリソースを張る必要があります。

なので、研究開発型のスタートアップが時間がかかるのは、実績を出すまでに時間とお金を要するからです。ちなみに、我々のケースでも売上という形での実績を出すまでが遠かったので、開発のマイルストーンをベースに調達を進めてきました。具体的には以下のようなフェーズを踏んでいます。

−0次フェーズ|構想だけの状態
−1次フェーズ|モックアップがある状態
−2次フェーズ|ハードウェアのコア機能がある状態
−3次フェーズ|ハードウェア機能全般が揃った状態
−4次フェーズ|量産体制に向けての要件が揃った状態
−5次フェーズ|量産後のオペレーションが回っている状態

ざっとですが、上記のようなマイルストーン毎に資金調達をしています。誰もが分かりやすいトラクションが出る状態は4次フェーズを超えて、量産後の売上が上がっている5次フェーズになります。そこに行くまでの、ある種ふわっとした状態で資金調達を繰り返さなければいけないわけです。資金調達の基本として言われるのが、18ヶ月分の運用資金を一度の資金調達で行う必要があることです。確かに、それだけの資金があれば安定して開発だったりビジネスを伸ばすことができそうです。が、弊社の場合はそのセオリーとは違う調達方法をとりました。というのも、フェーズ毎にバリュエーションが大きく変わりますし、将来的に量産のための資金調達も必要になりますから、かなりダイリューションすることを前提に一回毎のサイズをどれくらいにするかを考えないと未来で苦しむと考えていました。

そのため、18ヶ月分ではなく、よりもっと切り詰めた金額を資金調達し続けてきました。そのせいで大変な時期もありましたが、おかげさまで現状は将来も十分に見越せる形で進んでいます。このあたりは、市況もありますし、予測不可能な因子が多いことを踏まえると、安全策に振っておいたほうが良いと思います。が、その中でのバランスとして、どこらへんに着地をさせるかが、まさに経営判断として問われるポイントになります。

コストがかかる

これも散々キャピタリストの方々から突っ込まれてきたポイントです。先程のフェーズにおける話を参照してもらえると、4次フェーズに至るまでってひたすらお金を垂れ流し続けるしかないわけです。お金をいただくためのモノをひたすら、人と時間とお金のリソースをぶち込んで開発しているわけです。実際に、弊社でも既に4億円くらいは研究開発にぶっ込んでいます。

これはハードウェア特有かもしれませんが、実験をするためには、まずモノを購入する必要があります。そもそもモノを設計するためには、CADソフト(なんであんなに1ライセンス毎高いんや!!)も必要だし、リーンに開発するためには3Dプリンターやら必要だし、設計したものを発注し、購入して検証が必要だし、圃場で検証するためにも地方で人が動くので交通費もかかるし、車も何台も必要だったりします。全部中古車で1台平均60万円くらいでコスト抑えていますが、車6〜7台保有してます。スタートアップらしくない(笑)

そして、人のコストでいっても、開発面だけでも、ハードウェアとソフトウェアの両要素があります。ソフトのAI技術者がいれば、ロボット制御技術者がいたり、アプリ等のインフラを開発する技術者も必要だし、コンピュータービジョンの技術者も、メカ設計の技術者も、電気設計できる技術者も、そもそも未知の分野を攻めているので研究者の人とかとかとか。とにかく広範囲の技術に渡ってプロフェッショナルが必要です。一つのコンセプトのロボットを世の中に出すまでにも、相応のコストがかかるというわけです。

人を集めるのが大変

研究開発型のスタートアップでは、エンジニアを採用するのもなかなか大変です。というのも、そもそも市場に出ていないんですよね。例えば、Webサービスの会社を立ち上げようとした際には、市場にはフロントエンドのエンジニアやバックエンドのエンジニア等々、相応の経験を積んでいる人の母数がそこそこはいるはずです。しかし、ロボット制御の経験があるエンジニアはなかなか市場には出ていません。ロボットの開発をしている会社の絶対数が少ないからです。

Wantedlyのスカウト機能で、例えば「フロントエンド」で検索してみます。

フロントエンド

4,000人の候補者が見つかりました。ここから先にand検索のしがいがありますね。さて、では「ロボット制御」で検索してみます。

ロボット制御

56人!!全員のプロフィールを閲覧することもマッハでできそうです!といった具合にそもそもの採用候補者の母数の数が全然違います。もちろん人材の採用方法として様々な取組みがあります。現在もWantedlyもやっていますし、ビズリーチを使ったり、エージェントさんにもお願いしています。それでも、なかなか採用は難しいです。それでも、優秀な人材を自社に迎え入れなければ、事業はスピーディーには前に進みません。やることがありまくるからです。

未知の領域をやることの大変さ

これもやらないと分からないことでした。我々が現在開発しているのは、基本的に世界初の事案を行っています。もちろん、世の中で研究開発として野菜の収穫ロボットは20年以上前から研究されてきました。しかし、サービスとして誰もが使えるような形にすることは、今まで世界中のどの会社も実現できなかったわけです。ちなみに、領域がどこかを説明しておくと、

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この右側の選択収穫と呼んでいるゾーンです。この右側の野菜は、ほとんど人が自らの手で収穫しています。選択収穫の野菜は、人が目で見てサイズや色を判断し、人手で収穫しています。これらをロボットが自動で収穫できるようにトライしています。現在はアスパラガス収穫ロボットからスタートし、トマトの収穫ロボットの開発も進めています。

でですよ。何が難しいかって、対象の環境が整っていないわけです。太陽光がキツくて認識に対してノイズが入りまくるときもあれば、地面もでこぼこで平らじゃないし、ビニルハウス内の外気の温度は50度近くにもなるし。とかとか。いろいろあるんですね。それにカメラやセンサを色々積んでいるのですが、購入しているレンズの歪みが同じメーカーの同一商品でも、微妙に違ったりしていたりするわけです。その違いがロボットアームを動かすときには、大きく影響を与えて、収穫位置にズレが生じる。なんて話があるわけです。ですが、規格化されたカメラのレンズの歪みに微妙な誤差があるなんて、当初は分からなかったりするじゃないですか。そういった話がごまんとあるんですね。

既に誰かが確立されているモデルを応用したりしながら進めるのと、未知の領域で検証を重ねまくって進めることが、これほどまでに大変さの性質が違うものかと、実際に行動してから気付かされました。そして、人によっては、そういったことへの取組みが楽しくて仕方ない性質の人たちもいるんですよね。そういった人たちがいるおかげで、我々の会社は成り立っています。有難いことです。

未開の領域をすすめる面白さ

逆説的な話ですが、未開の領域だからこその面白みがあります。例えば、現時点で明確な競合と呼べる企業はグローバルで見渡しても決して多くありません。例えば、トマトの収穫ロボットを開発して資金調達まで行っている企業はグローバルでも数社です。市場のポテンシャルはもちろんありますので、Winner takes allができたとしたら、相当な売上が見込めます。もちろん、Winner takes allではなかったとしても、ある程度のボリュームがあるグローバルマーケットにおいて、1番になれるポテンシャルがあることは、なかなかの面白さです。

そして、誰もやっていないからこそ、皆さんとても協力的です。ペインが大きいのに現状ソリューションがないからです。何もないときから、多くの農家さんが開発に協力してくれたり、応援し続けてくれています。それもそれだけ市場からニーズとして求められていることの証左ともいえます。メディアにも多数取り上げていただけることも、これからの未来に我々が開発しているようなロボットが世の中に当たり前に導入されることが皆さん予見できているからだと思います。

未来をつくることの面白さ

なんだか面白いことよりも、大変なことばかり書き連ねてきてしまいましたが、スタートアップとして多種多様な人が集まってきたり、ロボットが今までできてなかったことができるようになったり、そういうことは嬉しいと思う反面、個人的には結構冷めた部分を相当持ち合わせた人間なので、やはりソリューションとして、問題がきちんと解決されて、多くの人が喜んでくれている状態になっていないと、全く満足できない性質であり、いま時点では満足感も喜びを感じることも、ほぼありません。頭の中でやりたい未来があるのですが、その未来と現実が重なると変わるのかもしれません。

とはいっても、できることが増え、やれる可能性が増えることで、より面白い未来をリアルに描けるようになっていることに対しては、ワクワクがとまらないし、実際に前に進んでいることは間違いないから、あとはどんだけ勢いをよりつけて、世界中に拡げていけるかを本気で考えて、やるだけです。というか、やれる人、やりたい人にドンドン集まってもらって、盛り上がってやってもらうだけです(笑)

ということで、人も金も全くなくて、何もできない面倒な下地のフェーズは流石に超えて、ドンドン知恵使って、やれることを増やしていきたいフェーズです。腕試ししたい方お待ちしてますよ。1人でできることは限られているけど、同じ目標を持って、世界をより良い方向にみんなで変えられるかもしれないアトラクションは、なかなかエキサイティングですよ。お待ちしてます!!


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