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エリアF -ハレーションホワイト- 5

 今日は朝から眠たかった。昨日は、というより昨日の晩から今日の明け方まで、Webの中で遊んでいたからだ。Web内での新しい移動の仕方を発見し、それが面白くて、つい朝まで居てしまったのだ。

 Webへのアクセスは、ぼくたちはキーボードへの入力や指紋認証、虹彩認証ではなく、「ヘッドセット」と呼ばれる脳波検知型入出力装置を使って行う。「ヘッドセット」とはいえ、現在は小型化され、片方の耳にかけるだけのものとなっている。装着しているかどうか、一見してもわからないぐらいだ。

 「ヘッドセット」により、頭で考えたことが、キーボードを叩いたり、指紋や瞳を認識させたりするのと同じ作用をし、そのままWebへの入力となる。またディスプレイに表示されていた画面は、ヘッドセットを通して、頭の中にダイレクトに描かれる。年輩の人の中には、脳に悪い影響があると、このヘッドセットを嫌って、キーボードを使い続けている人たちもいるが、ぼくはそんなまどろっこしい方法は取れない。今の発達したWeb環境では、キーボードでは遅すぎて使い物にならないからだ。

 ヘッドセットを装着すると、すぐに頭の中にWebへの入り口の扉が描かれる。これは非常にリアルな夢を見ているような感覚だ。いわゆるバーチャルリアリティー(仮想空間)である。本当に目の前に扉があらわれ、ぼくはその前に立っている。

 この時ぼくの神経は、多くがヘッドセットの方に集中されることになるので、現実世界のことは何も見えなくなる。ヘッドセットをつけながら目を開けておくことは、ほぼ不可能に近い。できたとしても、それは眠りながら目を開いているようなものなので、目は開きながらも、その目からは何も見えないのが普通だ。

 ヘッドセットからの入り口の扉の横には、パスコードを入力するテンキーのボードが見える。一般にはこれを指で押して、Webにアクセスする。もちろん押すのは本当の指でではない。でも現実世界で指を動かすのと、感覚としては全く同じだ。指を動かすという脳波を検知して、それが仮想空間の世界に描かれる。

 テンキーを指で押すなどという動作は、それすら面倒臭いので、ぼくはテンキーに目をやるだけで扉を開ける。どうしてそんなことができるかって。それはぼくがレベルの高いQ-HACKERだからだ。普通の人にはできはしないが、ぼくはWebの入り口ぐらいの簡単なパスコードなら、視線を送るだけで開けることができる。

 Webに入ると、そこは巨大な都市のまん中だ。公園を中心として前後左右に4つの大きな通りが伸びている。通りの両側には様々なお店や会社の入ったビルが並んでいる。

続く


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