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エリアF -ハレーションホワイト- 6

 中央公園から東の大通りへ行く。Web内の仮想空間に東西南北など本来ないのだが、方角がないと不便なので、便宜上決めてある。東の大通りはまるで繁華街のよう。ありとあらゆる店が並んでいる。ここは仮想ショッピングモールなのだ。但し、飲食店はない。飲み屋もない。なぜなら、仮想空間で飲み食いをすることは不可能だからだ。ノドが乾いたといっても、これだけはWebから出て、現実世界に戻って、缶ジュースでも飲まなければ仕方がない。同じ理由でトイレもない。我慢できなくなれば、一旦Webからでなければならない。ただし多くのQ-HACKERたちは、Web空間に入る前に、水分&カロリー補給のボトルのストローを口にくわえ、トイレも、小の方はうまく処理できるようにしている。大量の情報が脳に送り込まれるので、眠気は生じない。現実世界の自分の体は横たわっているから、3日ぐらいはWeb内に居続けても大丈夫だろう。

 バーチャルモールでは、もちろん買い物をすることができる。店にいって、商品を見て、気に入ればカードやQRコードをかざせば、それで後日、現実世界の自分の元へ商品が届く。それは現実世界のカードやQRコードと共通で、バーチャルモールのどの店でも利用できる。

 西の大通りは官庁街で、どの地方の役所も全てあり、どんな届けも調べ物も、現実世界と同じようにできる。わざわざ現実世界でバスや電車に乗って出かける必要は、今はもうほとんどない。ここで書類を請求すれば、電子メールで現実世界の自宅に届けられる。北の大通りも南の大通りも、またそれぞれに交差する細い道々も、業種ごとに整理された店やオフィスが並んでいる。

 中央公園から南東のある一角には、住宅地もある。Web内にプライベートな空間を持ちたい人は、これらの住宅を借りることができる。広さによって値段はまちまちである。この住宅の中には、これを借りた人しか入ることができない。プライバシーはきちんと守られる。これは現実世界もWeb世界も同じである。

 と公にはそうなっているが、ぼくたちQ-HACKERにとっては、こんなセキュリティーの甘い空間など、すぐにハックすることができる、簡単なものだ。ぼくにとって、これらの住宅は、まるでガラスの壁でできているようなものだ。仕事をさぼって寝ているヤツや、自分の隠し資産のデータを保管しているヤツや、不倫相手の連絡場所として利用しているヤツもいる。全部筒抜けなのになあと、Q-HACKERたちは彼らを見て笑っているのだ。

続く

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