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エリアF -ハレーションホワイト- 4

 再教育システムは、一言で言えば「適正診断・能力開発システム」である。例えば客観的に見て、ある仕事に関する能力が著しく劣っている者がいた場合、その者は再教育センターに送られる。そしてそこでその者の各種の能力、心理分析などが細かく行われ、その仕事に関する能力を高める訓練がなされるのである。また適正診断の結果、どうしてもその仕事に不向きな場合は、本人の同意を得て、他の仕事を斡旋する場合もある。職場からの勧めではなく、本人の意思で再教育センターに入所することももちろん可能である。

 社会人だけでなく、学生も再教育センターに入所することは可能である。学力が低いのは、単に勉強不足や学習能力不足だけが原因ではない。極端な例で言えば視力。授業中、教師の板書が見にくければ、当然学力は向上しにくいだろう。また、視線を一点に集中できなければ、読書が困難になり、すべての学力の基礎となる国語力が上がらない原因になる。

 このような肉体の問題もあれば心理の問題もある。これらは学校が解決できる問題ではないので、まずは、医師であったり心理カウンセラーであったり、それぞれの専門家の所へ送られることになる。しかし、それでも解決しなければ、最後のよりどころは、再教育センターである。

 驚くべきことに、再教育センターで解決できない問題は、未だないようだ。もちろん人間の個性の幅は無限だから、良くも悪くも矯正不可能な場合もあるのだろうと思うが、少なくとも再教育センターが受け入れを認めて、それでうまく行かなかった例はないらしい。人類の智恵の粋を集めたシステムだけはある。

 多くの男の子がそうであるように、ぼくも小さいころからクオンタムに興味を持っていた。ぼくは特に、そのシステムに興味を持ち、OSやアプリケーションソフトのプログラムの中身に興味を持った。その興味はやがてウェブ(広域情報網)にも向けられ、ウェブ内の抜け道や、立ち入り禁止区域への侵入の仕方などを覚えていった。ぼくはいわゆる「Q-HACKER(キュー・ハッカー)」と呼ばれるヤツだ。「Q」は「クオンタム=量子コンピュータ」のこと。「ハッカー」といって悪いイメージを持たれるのは心外だ。ぼくたち「Q-HACKER」は、単に知的好奇心とでも言うのだろうか、パズルでも解くように、ウェブ内の抜け道探し、禁止区域への侵入などをして遊んでいるだけである。ウイルスをばらまいたり、プログラムを改竄したり、データを盗み出したりなどという破壊行為はしない。ぼくたちは「クラッカー」と呼ばれる破壊者とは違うのである。

 ぼくたちQ-HACKERは、もちろん破壊行為をするだけの知識と知恵を持っている。たまには罪のないいたずらをすることはあるが、ウェブ機能を麻痺させるような重大な改竄や、社会に重大な影響を与えるデータの窃盗などは、一切しない。むしろクラッカーによってウェブ環境が破壊されるのを防いだり、破壊されたプログラムを修復したりとなど、見えないながら社会に貢献さえしているのだ。だから「Q-HACKERによってWebが書き換えられる」とか「データバンクがハッキングされ、顧客情報が流出」とかの報道がなされると、ちょっといやな気分になる。でもぼくたちも、純然たる「善」でもないから、弁解もしないけれど。

続く


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