エリアF -ハレーションホワイト- 27
2級被験者に対応するぼくの技術が認められ、ついに1級の技術を教わるところまでたどりつくことができた。今日からそのトレーニングが開始するのだ。1級の技術者は、センター長以下、全体で数名しかいない。世界トップの技術である。
1級対応の再教育は、A棟、B棟…と名付けられたメインの建物群とは切り離された、ここでのみ行われる。ここ6番目の建物は、他とはちがって、みんなは「再生館」と呼んでいた。再生館に足を踏み入れるのは、10年を超えるキャリアを持っているぼくでも、初めてだ。
全身スキャンによるセキュリティーチェックを2回経て、やっと再生館の中へ入ることができた。白い天井、白い壁、白い廊下、白い照明。目が眩むような気持ちがしたのは、単に緊張やその重圧感に気圧されたからだけではないだろう。
再生館の中では全く初心者であるぼくにできることは、まだ何もない。まずは見学。1級の再教育プログラムを見て学び脳と体に叩き込むことが、ぼくに課されたことである。
男がいた。被験者である。ぼくの手元には、彼の過去から現在に至るまでの全てデータが与えられていた。また彼あるいは彼の周りの人間が、再教育によって彼をどれだけ改良してほしいかも、もちろんぼくにも知らされていた。確かに、ぼくが今までに手がけたことのない、非常にハイレベルな再教育を要求されているケースである。
「ここにあなたの会社による同意書があります。あなたのご家族の同意書もあります。あとはあなたの同意によって、この再教育プログラムが開始されます。よろしいですか。」
「はい」
男はうなずくと、1級技術者の手渡した同意書に、この場でサインした。
「昨日までに、同意書の内容については詳細を説明してありますね。あなたは口頭でも同意し、そして今公式書類にもサインしました。よろしい、では只今より1級再教育プログラムを開始します。」
男はベッドに乗せられて、オペレーションルームへと運ばれていった。ぼくとぼくの指導教官は、吹き抜けになったオペレーションルームの半二階部分に上がった。全面ガラス張りの窓からは、オペの様子が手に取るようにわかる。
「まず全身麻酔をかける。」
指導教官が言った。ぼくは無言でうなずいた。ここで行われる全てを、ぼくは記憶し、自分のものにする必要がある。ぼくは最大限の集中をもって、下で行われているオペレーションと指導教官の話とに集中した。
「次に、体の各部から被験者の細胞を取り出す。」
「次に、被験者の体液を、サクロニンβ19%溶液と入れ替える。必要量細胞にまで浸透するのに、およそ2時間かかる。」
「サクロニンβ溶液が必要量浸透したら、被験者をマイナス197.64度まで冷やす。冷凍保存するためだ。」
「取り出した細胞は、次の作業に必要な量と保存とに取り分ける。保存分は同じくサクロニンβ19%溶液に浸ける。」
「サクロニンが浸透するまでの間に、細胞の培養を始める。」
「被験者から取り出した細胞は、最新のクローン技術によって、被験者と同じ体を再生する。」
「高速培養技術によって、被験者の年齢27歳になるまで、およそ3週間だろう。」
「この3週間の間に、被験者が1級プログラムを受ける前までに取り出しておいた被験者の脳の情報を、このクローンの脳に移植する。」
「ただ、同じ情報を移植したのでは、同じ人間が出来上がるだけだ。この被験者から取り出した脳内情報の中から、被験者にとって悪い情報は取り除き、良い情報に書き換えてクローンに与える。」
「また、必要な知識や訓練の情報も与える。これによって、再生されたクローンは、多くの知識を持ち、高い知恵や技術を持つことになる。」
なんてことだ。1級の再教育プログラムとは、クローンを育てて、欠点を修正するということだったのだ。
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