エリアF -ハレーションホワイト- 22
背中に何か気配を感じた。何ものかがぼくの論理座標のデータを読み込もうとしてる。しまった。自分の過去のデータを探るのに気が行ってしまっていて、自分の防御を少し怠っていたようだ。「コウモリ」には気をつけていたのに。どうやらいつの間にか、監視ロボットがぼくの背後に来て、ぼくの「背中」を探っているらしい。
動いてはだめだ。ぼくは自分の全神経を、ぼくの「背中」が描かれた論理座標に集中させた。監視ロボットがスキャンするその直後から、すぐにぼくのデータの暗号化の方法を変化させた。読まれても読まれても、すぐに暗号化の方法を変化する。そして表面は、まるで書庫の壁のように偽装する。これをし続けさえれば、ぼくの正体を見破られることはない。後は我慢あるのみ。
大量のデータの読み込みがなされているので、その対応に、ぼくは全神経を注ぎ込んでいた。数10秒、いや数分たっただろうか。ぼくは、おそらく現実世界のぼくは、いま全身に冷や汗をびっしょりとかいていることだろう。でも少しでも集中が欠ければ万事休す。早く立ち去ってくれ。じっと防戦している時間が、とてつもなく長い時間のように思われた。
まてよ。ぼくはふと思った。何度データを読み込もうと、監視ロボットにとってぼくはただの壁にしか見えないはずである。なのにどうして、こう執拗にスキャンし続けるのだろうか。その時、ぼくの目が天井と壁の境目のある一点を捉えた。コウモリだ。さっきのコウモリが、まだここにいる。
あっそうか。気が付いた時には、もう遅かった。ぼくの後ろの監視ロボットの方がダミーで、コウモリの方が本物の監視システムだったのだ。調べれば、コウモリはもうすでに、ぼくの物理座標のデータの読み込みを始めていた。やばい、これはやばいぞ。あと何分でぼくの個人データにたどり着くだろうか。いや何分もかからない。10秒か、20秒か。すぐさまここをでなければならない。でもここから廊下を飛んで元の入り口までたどり着いたとして、うまくいったとしても扉を開けるには10数秒はかかるだろう。いやもっとかかるかも知れない。どうする、さあ、どうする。
そうだ。ぼくは思い出した。ぼくは「瞬間移動」ができるのだった。この場でそれが使えるかどうかも分からない。また「瞬間移動」できたとしても、どこへ行くのかそれも分からない。でも今は悩んでいる時間はなかった。ぼくは自分の防御を解いて、全神経を「瞬間移動」のために集中した。ええい、行けっ、行けっ、どこへでも飛んでゆけ・・・。
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