初心者向け「クラウド」って

前回記事にて、CFO組織にとってこれまでのテクノロジー活用について書いた。今回と次回で、新たなテクノロジーの活用という観点でCFO組織及び経営管理について考えたい。

「クラウド」の概要

私の場合は新卒入社して所属した事業部が、クラウド型ERPパッケージを開発・販売しており、会社自体も「情報・通信」業界に属するため、クラウドという言葉はほぼ社会人生活とくっ付いている、いわばネイティブといえるかもしれない。

正直なところ、他の業界の方々が当たり前となりつつある「クラウド」にどれだけ知見があるのか分からない。

初心者にも分かり易く書いたつもりだ。

ビジネスの世界で「クラウド」といえば、「クラウド・コンピューティング」を指している。

システム資源を自社で保有せず、クラウドサービス提供事業者が保有するIT資源を、インターネット経由でサービスとして利用する形態である。

これって具体的にどいういうこと?という疑問に対する説明は後述する。

一方、自社で全てのシステム資源を保有する形態を「オンプレミス」という。

クラウドサービスの形態

少々技術的な話になるが、一口に「クラウド」といっても、提供されるサービスの種類には、IaaS/PaaS/SaaSなどの分類がある。

システムの階層は、①サーバなどのハードウェア機器、②OSやデータベース、③アプリケーションの階層に分けられるが、これらのうちどこまでをクラウドで提供し、どこからを自社で所有するかで利用形態が分かれている。

以下、長くなるが個別に説明とメリットなどを記載する。

IaaS

サーバやネットワーク機器などのハードウェア、OSだけが提供されていて、それをインターネット経由で利用するものである。一方、データベースやアプリケーションは自社で導入、構築することになる。

自前でハードを調達するのに比べ、IaaSであればサーバ領域を契約に応じて自社用に割り当ててもらうだけなので、直ちに利用可能な状態になるわけだ。

ハードウェアのスペックは、取り扱うデータ量やユーザー数、利用時間の集中による負荷などの利用要件により決まる。そのため、ハードウェアの調達は時間がかかるのでプロジェクトに影響しかねない。

この点、IaaSで調達期間を短縮し、導入を円滑に進められる。

また、物理的な維持管理が不要となる。情報システムの運用管理に人員を割ける企業は多くないので、アウトソーシングするメリットと言える。

PaaS

PaaSは、ハードウェアにデータベースなどの「ミドルウェア」を加えたものである。ユーザー企業は独自のアプリケーションをそこに導入するだけで利用を開始できる。データベースの更新やセキュリティ対策を自社で行う必要がなくなる。

IaaSやPaaSをサービス提供する場合、お気づきだろうが膨大なIT資源が必要となる。規模の経済ともいえるだろう。AmazonのAWSなどはきいたことがあるのではないだろうか。

SaaS

SaaSは、上記のPaaSにアプリケーションが加わったものである。自社で所有するものはPCとインターネット接続だけである。それ以外はサービスとして利用する。

ユーザは―どのようなモジュールを何人のユーザーが利用するか、その時のデータ量はどの程度なのかだけを決め、そのアプリケーションに固有の設定をするだけでよい。もちろん、ユーザー数やデータ量も後から追加可能である。

アプリケーションをオンプレミスで導入する場合は、サーバーにインストールを行ったり、保守契約の中で提供されるバグ修正プログラムや新機能追加プログラムのインストールを行ったりする必要がある。

これがERPのような全社導入の統合システムの場合、バージョンアップやバグ対応のパッチ処理の度にかなりの労力やコストがかかる。

Windows7のサポート終了や、保守メンテナンス期限切れ等、何かあったときに大掛かりなシステムリプレイスなどが必要になるのが、オンプレミスである。

SaaSの場合、クラウド事業者から事前にメンテナンスの時間が通知され、曽於時間が終わればアプリケーションは新たなバージョンに置き換わっているという具合である。

スマートフォンのアプリケーションでも、バージョンアップのインストールを手動で行えば、少し画面構成が変わっていたり、バグが修正されていたりする。

これがシステムでは、事前にいつ行われるか通知され、定期的な自動バージョンアップがなされる、というイメージだ。

クラウドのコストと会計処理

クラウドとオンプレミスをコスト面で単純には比較しにくいが、以下のようにまとまる。

【オンプレミス】
導入時コスト:ハードウェア、OS/ミドルウェア・ライセンス、アプリケーション・ライセンス、構築費用
ランニングコスト:それぞれの保守費用、データセンター利用料、運用に必要な人員コスト

【SaaS型クラウド】
導入時コスト:構築費用のみ
ランニングコスト:サブスクリプションフィー(ライセンス料に相当)

利用形態の異なるこれらのコストを比較するには、想定する利用年数での複数年のコストを比較する必要がある。
なお、サブスクリプションの場合は会計上費用処理することができる。オンプレミスの場合は、リースで取得してもリース資産としてオンバランスになるため、クラウドで導入を行うと、ROAの改善効果がある。

クラウド導入の機動性

クラウド型のソフトウェアの売り文句に機動性がある。

オンプレミスの場合は、事前にユーザー数やデータ量を見積り、その規模に応じたハードウェアを購入する場合、大きすぎると利用度が向上しないうちに償却期間が経過してしまい、投資が無駄になるリスクがある。一方、最小限のハードウェアでスタートして急激に利用度が向上した場合は、すぐにハイスペックの機器にリプレイスすることになるため、やはり初期投資が無駄になるわけだ。

クラウドの場合、利用度に応じてシステム資源を自由に拡張することができるため、ミニマムスタートを切りやすいというメリットがある。

クラウドの情報セキュリティ

前段のような機動性について述べた際に対になって挙げられるのが、セキュリティである。

CFO組織にとっては、秘匿性の高い情報を扱うということもあり関心は当然高い。インターネットを経由して利用する以上、外部からの攻撃に晒される可能性はゼロではない。ベンダーや利用する側の各社は、セキュリティ対策を講じているに違いない。

高度化し続けるセキュリティ基準に対応するにあたって、専門的なノウハウをより集約しやすいクラウド事業者のサービスを利用する方法も、選択肢の1つではないだろうか。

私が働くオロもISMS認証を取得し、顧客情報の管理はしっかりと運用ルールが定まっており、内と外に対してリスク低減する仕組みをセキュリティマネジメント委員会を中心に推進している。

CFO組織にとって、リスクマネジメントも大きな管掌業務になるが今回は割愛する。

CFO組織向け活用

ずばり、ERPについて書いていく。

会計領域のERPは、SAP社やOracle社などの上位製品を活用している大手企業が多い。
上位製品の特長としては、ライセンス費用が高い一方、もともと備わっている機能が豊富であったり、アドオンによる拡張性が高く、各企業の個別要件に対応しやすいという点がある。
一方、中位製品はライセンスコストが比較的安価で、機能数が相対的に少ない。機能が少ないということは、設定に必要な期間が短く、導入費用は総じて安くなることから、あまり多くの固有要件をカスタマイズで作らない。このため、製品機能でカバーできない複雑な要件には、システム外で対応することになる。(運用で回避)このため、中位製品を導入するのは、それでも業務が運用できる複雑性の低い会社や、大企業の子会社が多い。
会計領域は、大企業レベルだと外貨対応などトリッキーな要件が存在するが、業種によって大きく変わらないので、クラウド型の中位製品が登場している。近年はfreee、MoneyForward、勘定奉行、弥生、ミロクなどプレイヤーが存在する。

上記は、会計に関してであるが、経営管理領域(管理会計に当たる)にもクラウド型システムが存在する。
管理会計のニーズとして、事業別、製品・サービス別、地域、クライアント別、などの軸で売上や利益を分析したいというものが代表的である。

利用ユーザーは会社に属するほとんどの従業員となる。さらに、グループ会社間など収集するデータも膨大になる。そのためデータの均質化に時間がかかる。また、これまでは、プロジェクト開始時には各社のシステムやデータの状況が見えていないので、スケジュールを確定させにくいという課題があった。

しかし、クラウド型システムを用いることでデータ量の変化に合わせて、契約変更だけでシステム資源の拡張が容易に行えるため、投資過剰になるリスクを避けてスタートし、課題解決の進捗に応じて拡張していくことが可能である。

株式会社オロが提供するZAC及びReforma PSAは、この経営管理(管理会計)領域の中位クラウドERP製品である。
管理会計領域は、販売・購買・勤怠・経費・入金・支払とかなり業界や業種の特性が出やすい。
ZACおよびReforma PSAは、広告・IT/システム開発・コンサルティングといったプロジェクト型ビジネスを行う業種に特化したシステムである。そのため、そういった業種に親和性の高い機能が豊富であり、カスタマイズ不要で導入可能な製品である。
中位製品でもこのように、ERPはクラウド型が主流になりつつあり、今後も技術的な発展やプレイヤーの参入で市場はさらに活性化するだろう。

まとめ

かつては大企業が導入するものであったERPシステムは、クラウド・コンピューティングの技術発展やインターネットの通信速度、その他の情報技術の進化により、中小企業およびスタートアップでも導入できる風潮が拡がってきた。
もはや、経営管理において情報システムは切っても切り離せない領域になってきている。
CFO組織の柔軟性も同時に求められている。

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